日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] 火山学と気象学の融合

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (9) (オンラインポスター)

コンビーナ:佐藤 英一(気象研究所)、常松 佳恵(山形大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[MIS23-P01] 桜島火山におけるライダーを用いた細粒火山灰の観測

*中道 治久1 (1.京都大学防災研究所附属火山活動研究センター)

キーワード:ライダー、桜島火山、火山灰

1. はじめに
火山噴火によって火口から放出される噴出物は、火山灰、火山レキと火山岩塊といった火山砕屑物と火山ガスがある。これらのうち、最も細粒の火山砕屑物は火山灰である。ここでは、ミー散乱ライダーについて扱うが、レーザー光の波長(0.5 μmおよび1 μm)は細粒火山灰の粒径に近いため、この粒径の火山灰に対する感度が高い。火山噴火をモニタリングするためには火山灰を連続かつ継続して採取するか観測する必要がある。そこで、桜島などの噴火が頻発する火山において自動火山灰採取装置および光学式ディスドロメータを設置して火山灰の採取および観測が行われているが、粗粒火山灰しか捉えることができない。火山灰の粒径が小さいほど遠方まで火山灰が拡散することから、大気中の火山灰をモニタリングするには細粒火山灰の把握が必要である。ライダーを用いることで細粒火山灰の把握ができる。
ここでは、桜島火山で行われているライダーによる繰り返し微小噴火による細粒火山灰の観測事例について述べる。

2. ライダー観測の概要
京都大学防災研究所は噴火の噴煙に含まれる細粒火山灰を観測するために2014年11月末に桜島の東西の拠点(桜島火山観測所SVOと黒神観測室KUR)に2台のミー散乱ライダーを設置して連続観測を開始した。2台のライダーは水平方向および仰角方向にスキャンする機能を有し、レーザー光の射出方向をそれぞれのライダーの設置場所から南岳火口上の方向に向けている。ライダーから南岳火口までの射距離はそれぞれ5.8 km(SVO)と4.2 km(KUR)である。ライダーからのレーザー光は南岳山頂の火口縁より数100 m上部のところへ射出されているため、噴煙の底部の位置や細粒火山灰の有無に関する情報を得ることが出来る。ライダーの仕様はAD-Netて用いられているライダーと同様、エアロゾル計測用ライダーシステムの一種である。ライダーは波長532 nmのレーザー光を偏光させて射出しており、その偏光面に平行および直交の方向の後方散乱光を同時に検知し記録している。また、ライダーはレーザーを2秒間射出して8秒間休止するというサイクルにて連続的に運用されている。桜島ライダーの時間分解能は10秒で、距離分解能は6 mで、測定可能距離は0〜24 kmである。

3. ライダーによる繰り返し微小噴火の検知
SVOライダーにて2022年9月13日のライダー設置場所を原点として南岳火口方向の射距離における波長532 nmにおける散乱強度(送信レーザーの偏光面に平行および直交する成分の合計)および波長532 nmの偏光解消度と波長1064 nmにおける散乱強度を調べた。この日はSVOは南岳火口からの向かい風の方角に近い。そのため、噴火すると南岳火口における噴出物の一部はSVO方向に向かってくると思われる。レーザー射出方向の距離と散乱強度の時間変化において上記の風の変化に対応が見られる。0時から3時ごろまでは散乱強度の高い距離は4 kmから5 kmの間に線状に分布し、この距離より長距離においてはレーザー光の強度が減衰するため散乱強度はかなり小さく、短距離において散乱強度は小さい。一方、3時ごろから4時ごろにかけて線状の散乱強度の高い部分は短距離である3 kmから4 kmに分布が移り、その後12時までにこの距離に位置していた。この時間帯においては散乱強度の高まりが、スジ状に短距離へ分布した。そして、12時ごろから24時までの間は距離4 km以内において散乱強度の高まりが時間経過とともに変動している。また、この時間帯においては距離0〜4 km間で偏光解消度が高い値が卓越している。つまり、散乱強度の高まりの移動は非球形の固体の存在つまり、噴出物の存在と移動を示唆している。散乱強度の高まりは、噴火後に噴出物が風に流されてSVO方向に近づいてくるのを反映している可能性がある。散乱強度の高い部分は、火口から噴出した細粒火山灰(エアロゾル)と考えられ、移動速度は6.7 m/sである。これは9月13日の17時から24時の平均風速の6 m/sと大まかに対応していることからも散乱強度が高い部分が噴出エアロゾルであることが支持される。噴火後に噴出物で構成される噴煙が風で移流し、拡散していく過程において、同時に噴煙から細粒火山灰が降下する過程をライダーにて捉えたと考えられる。

謝辞
桜島火山では文部科学省施設整備補助金によって2台のライダーが整備された。そして、文部科学省次世代火山研究推進事業にて運用されている。桜島ライダーの維持管理には桜島火山観測所の所員、国立環境研究所、(株)mssが貢献してきている。関係各位に感謝するとともに、多くの研究者によるデータの利用を期待したい。