日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS24] 大気電気学:大気電気学分野での高エネルギー現象

2023年5月21日(日) 10:45 〜 12:00 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:芳原 容英(電気通信大学 大学院情報理工学研究科)、長門 研吉(高知工業高等専門学校)、座長:芳原 容英(電気通信大学 大学院情報理工学研究科)

11:00 〜 11:15

[MIS24-02] シチズンサイエンス「雷雲プロジェクト」による2022年度のガンマ線グローの観測と解析

*鶴見 美和1,2榎戸 輝揚2,3、一方井 裕子4、Ting Wu5、Daohong Wang5篠田 太郎6中澤 知洋6、辻 直希2,3、Diniz Gabriel2、片岡 淳7、鴨川 仁8、高垣 徹9三宅 晶子10、富岡 大10森本 健志11中村 佳敬12、土屋 晴文13 (1.青山学院大学、2.京都大学、3.理化学研究所、4.金沢大学、5.岐阜大学、6.名古屋大学、7.早稲田大学、8.静岡県立大学、9.TAC、10.茨城工業高等専門学校、11.近畿大学、12.神戸市立工業高等専門学校、13.日本原子力研究開発機構)


キーワード:ガンマ線グロー、シチズンサイエンス、放射線多地点観測

発達した積乱雲内では、強電場領域によって加速・増幅された電子が大気とぶつかることで、制動放射のガンマ線が放射される。そのような高エネルギー現象の一つである「ガンマ線グロー」は、雷雲の通過時に10 MeV以上に及ぶガンマ線が数分から数十秒にわたって地上に降り注ぐ現象である。冬季の日本海沿岸は、夏季と比べて雲底高度の低い積乱雲が発達するため、雷雲内で発生したガンマ線が地上に届くまでに大気の減衰を受けにくく、地上でガンマ線グローを観測しやすい場所となっている。
2006年に立ち上がったGROWTH実験による日本海沿岸での地上観測では、すでに約70例のガンマ線グローイベントが観測されている(Wada et al, 2021)。しかし、いまだにその継続時間や電子加速領域の大きさ、加速された電子と雷との関係など、未解決問題が多く残されており、これらを解明するためには、観測点を増やしてガンマ線を放出する積乱雲を追跡する必要がある。
そこで我々は、2018年にシチズンサイエンス「雷雲プロジェクト」を立ちあげ、多地点で放射線マッピング観測を行なっている。このプロジェクトは、小型で軽量な放射線検出器「コガモ」を、日本海沿岸に住む市民サポーターの自宅に設置してもらうことで、巨大な観測網を構築している。コガモ検出器は、5 cm×5 cm×15 cmのCsI (Tl) シンチレータと浜松ホトニクス社の光検出器MPPCを搭載し、0.2-10 MeVの放射線を計測することが出来る。高エネルギー側のキャリブレーションを行うため、加速器を使った実験も計画されている。また、環境センサーやGPSアンテナも搭載されており、取得されたデータは全てmicroSDカードに保存される。一部のデータはSakura io モジュールを通じたサーバー上への送信も行われており、2021年度から導入した自動アラート機能によって、遠隔からのリアルタイムのモニタリングが可能となった。
2022年度は、昨年度の58台から数を増やした74台のコガモ検出器を、金沢市を中心とした日本海沿岸に設置し、11月から観測を行なっている。2023年2月現在までに、同じ雷雲からのガンマ線グローイベントを金沢市で少なくとも9個観測しており、そのうち5個は2台以上のコガモ検出器で検出された。また、5個のイベントでアラートが発出された。最もカウントレートの大きいイベントは、2022年12月18日14時ごろに検出された。旭町付近に2 kmに渡って設置された4台で多地点観測に成功し、そのうちの1台であるID29は、3-8MeVの帯域でバックグラウンドの約40倍である37.6 counts/sを記録していた。いずれのガンマ線グローイベントの時間帯も金沢市内で雷が観測されており、またXRAINのデータを取得できた時間帯のイベントは全て、コガモ検出器の上空を発達した雨雲が通過していた。本発表では2022年度の雷雲プロジェクトの運用と、2021年度以前のデータを含めたこれまでの観測の解析結果について報告する。