日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-SD 宇宙開発・地球観測

[M-SD35] 将来の衛星地球観測

2023年5月25日(木) 09:00 〜 10:30 オンラインポスターZoom会場 (5) (オンラインポスター)

コンビーナ:本多 嘉明(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、高薮 縁(東京大学 大気海洋研究所)、祖父江 侑紀(千葉大学)、小原 慧一(宇宙航空研究開発機構)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

09:00 〜 10:30

[MSD35-P04] ひまわり後継衛星計画について

*別所 康太郎1、大和田 浩美1、坂下 卓也1、安部 実希1、井上 晃輔1 (1.気象庁)

キーワード:静止気象衛星、ひまわり、後継衛星計画

1.はじめに
 気象庁で運用している静止気象衛星ひまわり8号・9号については,2029年度頃に運用を終える予定である[1].ひまわりは気象庁の気象業務だけでなく,国内外で幅広く利用されており,宇宙からの気象観測体制を切れ目なく維持していくことが求められている.このため,わが国の宇宙基本計画でも,ひまわり8号・9号の後継の静止気象衛星は,遅くとも2023 年度までに製造に着手し,2029 年度頃に運用を開始することを目指す,とされている.
 近年の気象災害は,台風のみならず,線状降水帯に伴う集中豪雨など極端な気象現象が顕著に現れるようになっている.これらの監視・予測のためには大気の気温や水蒸気の状態を常時,広範囲かつ立体的に観測することが重要である.静止衛星であるひまわりには,その可視・赤外イメージャにより,日本を含む広く西太平洋を常時監視できるという極軌道衛星などの周回衛星にはない長所がある.この強みを活かしつつ,ひまわりの後継衛星にハイパースペクトル赤外サウンダを導入することで,その気象観測・予測能力を飛躍的に向上させて,自然災害の防止に寄与していくことが喫緊の課題となっている.
 気象庁では,2023年にひまわり後継衛星の製作を始めることとしている.本発表では,気象庁における後継衛星計画を報告する.

2.搭載予定のセンサ
 可視・赤外イメージャについては,後継衛星では,現行の8号・9号の観測性能から,観測バンドの波長帯の変更,一部バンドの水平解像度の向上,領域観測機能の強化,観測・処理・配信時間の短縮,観測データの品質向上などの変更を計画・検討している.
 ハイパースペクトル赤外サウンダは,大気や雲・地表面などからの赤外放射を高い波数分解能で測定し,気温や水蒸気などの大気の鉛直構造を観測するセンサである.静止衛星搭載型の同センサは,すでに中国や欧州で運用中または運用予定である.また米国でも次世代静止気象衛星での搭載が計画されている.台風・線状降水帯の予測精度向上や防災気象情報の高精度化の実現に向けて,同センサの搭載はひまわり後継衛星でも極めて有力な機能になると考えられる.気象衛星調整会議においても,全球の気温・水蒸気のプロファイルを取得して,数値予報の更なる精度向上に寄与するために,各国の静止気象衛星がハイパースペクトル赤外サウンダを搭載し,同センサによる観測で地球を取り囲んだ状態(Geo-Ring)を目指すことが重要とされている.同センサは,これまでのひまわりには搭載されていないため,気象庁ではその搭載の可能性や期待される効果について具体的な検討を行った.例えば,数値予報に与える効果を客観的に評価するために観測システムシミュレーション実験を実施している[2] [3].
 このほか,総務省・情報通信研究機構が開発する宇宙環境観測センサについても,後継衛星への同時搭載を計画している.

3.おわりに
 国土交通省の交通政策審議会気象分科会は,2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方を提言として取りまとめている.その中では,重点的な取組事項の一つとして観測・予測精度向上のための技術開発が謳われており,気象・気候に関わる具体的な目標として,「半日前からの早め早めの防災対応等に直結する(線状降水帯の発生・停滞等に伴う集中豪雨の)予測精度の向上」や,「数日前からの大規模災害に備えた広域避難に資する台風・集中豪雨などの予測精度向上」が挙げられている.また,これらの目標を実現するための具体的な取組内容として,気象衛星を含む気象庁の基幹的かつ総合的な観測網について,更なる充実・高度化を進めることとされている.気象庁では,2030年の目標達成に向けて,ひまわり後継衛星も用いながら安全・安心な社会を実現できるよう取り組んでいく.

参考文献
[1] Bessho, K., et al., 2016, J. Meteor. Soc. Japan, 94, 151-183.
[2] Okamoto, K., et al., 2020, SOLA, 16, 162-168.
[3] 岡本幸三ほか, 2020, 測候時報, 87, 99-150.