09:00 〜 10:30
[MTT37-P02] 逆問題による大気ラム波自動検出の試み
キーワード:大気ラム波、逆問題、津波早期警戒、自動検出
1.研究の背景
大気波動の一種であるラム波は,地表面に捕捉されて水平に,ほぼ音速で伝わる.その位相速度(約310m/s)は津波(約200m/s)よりも速く,分散性が小さいことから津波の形状をそのまま保ちつつ,津波に先立って到達することが期待される.実際に,東北地方太平洋沖地震で発生した津波が励起した大気ラム波は津波の形状とよく似ていた(Arai et al.2011).したがって,広範な微気圧測定網を整備し大気ラム波を検出することは津波の早期警戒に役立つと考えられる.早期警戒を実際に行うためには、観測された気圧変動からラム波を自動検出できることが非常に望ましい。ここでは逆問題として大気ラム波を検出する手法を検討する。
2.研究方法
逆問題は一般に既知のシステムM と出力w が与えられたときに,入力v を求める問題である.大気ラム波検出問題では出力w が気圧観測時系列,入力vが推定したい時刻の気圧・風の場の空間分布に対応する.大気ラム波の支配方程式(c = 310m/s の波動を許す運動方程式と連続の式)でシステムM を作れば気圧観測時系列から大気ラム波を選択的に取り出せる可能性がある。本研究では、上記の可能性を吟味するために、空間一次元の逆問題を考察する。システム M の構成にあたっては、数値誤差を避けるためにダランベール解を補助的に用いた。
3.結果・考察
ラム波を検出することを念頭において,以下2 つの検討を行った.
3.1 初期値の再現性に基づく検出可能性の検討
まず,ガウス関数の初期値を持ち310m/s,280m/s,200m/s で両側に進む波と正弦関数の初期値を持ち50m/s で片側に進む波の気圧観測時系列を使い,気圧・風の場の空間分布の初期値がそれぞれ推定できるかを調べた.310m/s で進む波でのみ初期値が正しく推定できれば,大気ラム波を検出できると言える.その結果,310m/s で進む波の初期値は正しく再現できたが,200m/s,50m/s で進む波の初期値は再現されなかった.また,280m/s で進む波の推定初期値は2つに分裂したピークとして求まった.このことから,初期値が分かれば,初期値の再現性によって大気ラム波があるかどうかを判定できる可能性があることが分かった.
3.2 観測時系列の再現性の基づく検出可能性の検討
現実世界では初期値を先験的に知ることができない.そのため,観測時系列から大気ラム波を検出する方法を考えなければならない.そこで次に,逆問題に与える観測時系列と推定した初期値から推定される観測時系列を比較した.2つの時系列は大気ラム波のときのみよく一致すると期待される.その結果,310m/s で進む波の相関係数は1 に近いが,280m/s,200m/s,50m/s で進む波の場合でも相関が高い(0.6 をこえる)と分かった.これは,逆問題では観測時系列を最もよく再現する気圧・風の場の空間分布を求めているからである.このため,相関係数だけでなく回帰直線の方程式を吟味すべきだと考える.今後は,気圧観測時系列から現在の気圧場と風の場の状態を推定して現在の気圧観測値と比較する手法も検討している.
謝辞
本研究は JSPS 科研費 22K18872 の助成を受けて行った。
大気波動の一種であるラム波は,地表面に捕捉されて水平に,ほぼ音速で伝わる.その位相速度(約310m/s)は津波(約200m/s)よりも速く,分散性が小さいことから津波の形状をそのまま保ちつつ,津波に先立って到達することが期待される.実際に,東北地方太平洋沖地震で発生した津波が励起した大気ラム波は津波の形状とよく似ていた(Arai et al.2011).したがって,広範な微気圧測定網を整備し大気ラム波を検出することは津波の早期警戒に役立つと考えられる.早期警戒を実際に行うためには、観測された気圧変動からラム波を自動検出できることが非常に望ましい。ここでは逆問題として大気ラム波を検出する手法を検討する。
2.研究方法
逆問題は一般に既知のシステムM と出力w が与えられたときに,入力v を求める問題である.大気ラム波検出問題では出力w が気圧観測時系列,入力vが推定したい時刻の気圧・風の場の空間分布に対応する.大気ラム波の支配方程式(c = 310m/s の波動を許す運動方程式と連続の式)でシステムM を作れば気圧観測時系列から大気ラム波を選択的に取り出せる可能性がある。本研究では、上記の可能性を吟味するために、空間一次元の逆問題を考察する。システム M の構成にあたっては、数値誤差を避けるためにダランベール解を補助的に用いた。
3.結果・考察
ラム波を検出することを念頭において,以下2 つの検討を行った.
3.1 初期値の再現性に基づく検出可能性の検討
まず,ガウス関数の初期値を持ち310m/s,280m/s,200m/s で両側に進む波と正弦関数の初期値を持ち50m/s で片側に進む波の気圧観測時系列を使い,気圧・風の場の空間分布の初期値がそれぞれ推定できるかを調べた.310m/s で進む波でのみ初期値が正しく推定できれば,大気ラム波を検出できると言える.その結果,310m/s で進む波の初期値は正しく再現できたが,200m/s,50m/s で進む波の初期値は再現されなかった.また,280m/s で進む波の推定初期値は2つに分裂したピークとして求まった.このことから,初期値が分かれば,初期値の再現性によって大気ラム波があるかどうかを判定できる可能性があることが分かった.
3.2 観測時系列の再現性の基づく検出可能性の検討
現実世界では初期値を先験的に知ることができない.そのため,観測時系列から大気ラム波を検出する方法を考えなければならない.そこで次に,逆問題に与える観測時系列と推定した初期値から推定される観測時系列を比較した.2つの時系列は大気ラム波のときのみよく一致すると期待される.その結果,310m/s で進む波の相関係数は1 に近いが,280m/s,200m/s,50m/s で進む波の場合でも相関が高い(0.6 をこえる)と分かった.これは,逆問題では観測時系列を最もよく再現する気圧・風の場の空間分布を求めているからである.このため,相関係数だけでなく回帰直線の方程式を吟味すべきだと考える.今後は,気圧観測時系列から現在の気圧場と風の場の状態を推定して現在の気圧観測値と比較する手法も検討している.
謝辞
本研究は JSPS 科研費 22K18872 の助成を受けて行った。