日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT38] 地球化学の最前線

2023年5月26日(金) 13:45 〜 15:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)、橘 省吾(東京大学大学院理学系研究科宇宙惑星科学機構)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 )、座長:鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)、橘 省吾(東京大学大学院理学系研究科宇宙惑星科学機構)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所)

13:45 〜 14:00

[MTT38-01] 分子レベル同位体分析の最先端技術:地球物質循環と生態環境解析のための有機化合物炭素窒素同位体分析

*小川 奈々子1高野 淑識1大河内 直彦1 (1.海洋研究開発機構)

キーワード:分子レベル同位体分析、アミノ酸、核酸塩基、炭素同位体、窒素同位体

有機化合物の分子レベル同位体分析(Compound-Specific Isotope Analysis, CSIA)を用いる解析手法は、1960年代に端を発し、その後科学の各分野に認知され利用されている研究手法である。 特定の生物や生合成過程に由来する化合物(生物指標有機物・化学化石)のCSIA研究は、これまでに何段階かの飛躍を経てきたが、そこには常に測定技術の進化や開発が伴ってきた。例えば1990年代のガスクロマトグラフィー/同位体質量分析法(Gas Chromatography/Isotope-Ratio Mass Spectrometry, GC/IRMS)の開発は、生化学・地球化学・古環境学の研究に大きな波及をもたらした。また2000年代にはGC/IRMSによる13C-,15N-CSIAおよび微量元素分析/同位体質量分析法(nano Elemental Analyzer/IRMS, nano EA/IRMS)による不揮発性化合物の炭素・窒素CSIAの技術がそれぞれ開発され、これらは、地球物質に含まれる化学情報の網羅的評価、生命圏および生態系システムの全容的理解、水圏窒素循環の解析や復元など、応用研究が深化発展する糸口となった。一方、同位体比測定の前処理装置としてのHPLC測定技術において、ユニバーサルな検出器(ELSD;蒸発光散乱検出器、CAD;コロナ荷電エアロゾル検出器など)の技術的進歩は、吸収特性を持たない化合物を化学的誘導体化なしに検出可能とし、HPLCの適用範囲は大きく広がった。
本講演では、我々が開発を進めてきた、目的に応じた試料の湿式前処理の最適化、分取機能付きHPLCとnano EA/IRMSを軸にした「最先端の分子レベル炭素窒素同位体分析技術」のうち、中心代謝化合物であるアミノ酸や核酸塩基、および、派生する機能性化合物の炭素・窒素同位体比分析の最新技術(Isaji et al., 2020:Sun et al. 2020:Ishikawa et al., 2022:Koga et al. 2023)について紹介する。アミノ酸や核酸塩基は、生命体の維持に不可欠な中心化合物である一方、地球上の物質循環におけるその動態は未知の部分が多い。特に堆積物や地下生命圏の物質循環における核酸塩基の動態の知見はほぼ皆無である。このような高極性から非極性あるいは両親媒性を有する分子特性を制御することは、単一の化合物の分離精製に必須である。高度なHPLC技術の必要性に加え、現実の堆積物など天然物中の有機分子存在量の少なさに照らすと、正確な軽元素同位体比評価にはnano EA/IRMSのような微量測定技術基盤も重要となる。本研究では、水圏環境に含まれる代表的な懸濁態粒子や堆積物などの生物地球化学試料から得られた分析例を紹介するとともに、本手法の技術的詳細とその潜在的なメリットや克服すべき課題についても議論する。