日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT38] 地球化学の最前線

2023年5月26日(金) 13:45 〜 15:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)、橘 省吾(東京大学大学院理学系研究科宇宙惑星科学機構)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 )、座長:鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)、橘 省吾(東京大学大学院理学系研究科宇宙惑星科学機構)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所)

14:00 〜 14:15

[MTT38-02] 天然および人工放射性核種を用いた表層泥炭の高時間分解能年代測定

*常岡 廉1,2太田 耕輔1,2宮入 陽介1近藤 玲介1横山 祐典1,2,3,4,5 (1.東京大学大気海洋研究所、2.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、3.東京大学大学院総合文化研究科国際環境学教育機構、4.国立研究開発法人海洋研究開発機構生物地球科学プログラム、5.オーストラリア国立大学物理学専攻)


キーワード:湿原、泥炭、放射性炭素年代測定、鉛-210年代測定、セシウム-137、ボムピーク

陸域で最も重要な炭素貯蔵庫の一つとして知られる泥炭を高い時間分解能で年代決定することは,その炭素貯蔵能の推定や発達過程の解明に不可欠である.特に過去数十年から150年程度までの堆積物の年代決定には天然(鉛-210, 210Pb)および核実験起源の人工放射性核種(炭素-14, 14C; セシウム-137, 137Cs; アメリシウム-241, 241Am)が利用される(e.g., Appleby & Oldfield, 1978; Davies et al., 2018; Li et al., 2019).しかし,これら放射性核種を用いて推定される年代には手法間でずれが生じることが報告されている(e.g., Goodsite et al., 2001; van der Plicht et al., 2013).そこで,本研究では表層泥炭中のこれらの放射性核種の分布を高密度に解析することで環境中での挙動の推定を試みた.本研究では,北海道東部の湿地の表層泥炭中の14C,137Cs,210Pb,および241Amを多点測定し,それらの環境動態の理解と時間分解能の高い年代モデルの確立を目的とした.
 調査対象地 (43°08'23.3"N, 145°01'23.5"E, 海抜 49.2 m) は,北海道東部の根釧台地上に分布する浜中・茶内湿原群の一つである.本研究で使用する湿原堆積物コア(CG-1-1)は2020 年秋に採取された.堆積物試料の表層13 cmにおいて計 9 サンプルに対し14C 分析を行った.また,137Cs,210Pb,241Amの測定は,表層14 cmにおいて13点で実施した.
 14C測定の結果,CG-1-1コア試料の表層13 cmは過去およそ65年分の堆積物を保持していると推定された.また,14C濃度は11-12 cmbs (centimeters below the surface)にて測定試料中の最大値を示した.一方で,137Csはその深度よりも1 cm浅い10-11 cmbsにて明瞭なピークを示した.北半球において核実験起源の14Cおよび137Csはいずれも1960年代半ばにボムピークを示したことが知られるが(Evrard et al., 2020; Hua et al., 2022),本試料ではこれらのピークが一致しなかった.このピーク深度の不一致は,大気中や堆積物中での14Cと137Csの動態の違いによると考えられる.発表では,前述の14C,137Csの結果に加え,210Pbおよび241Amの結果とそれらを含めた議論も行う.

なお,本研究に用いたコア試料の掘削には,JSPS科研費(18H00762)研究グループの皆様にご協力いただきました.記して謝意を表します.