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[MTT38-04] 先端X線分光を用いた雲母によるウランの還元過程の解明
キーワード:超伝導転移端センサー、高エネルギー分解能蛍光検出-X線吸収端近傍構造分光法、黒雲母、ウラン
【緒言】 旧ウラン(U)鉱山である人形峠や東濃では、層状ケイ酸塩鉱物である黒雲母がUのホスト相の1つとして報じられている(Honda et al., 1998)。しかし、濃集の際の還元の有無や共存元素の影響は議論されておらず、黒雲母がUを保持する詳細なメカニズムは未解明である。このメカニズムを明らかにするためには、黒雲母中に含まれるUの化学種を正確に把握し、Uの濃集が黒雲母中のどのような部位で進行しているのかを明らかにする必要がある。X線吸収分光法は、環境試料に含まれた微量元素の化学種を把握するために有効な方法である。特に、X線を試料に入射した際の蛍光X線を分析することによって、試料中数ppm程度の微量元素の測定が可能である。しかし、黒雲母にはUの蛍光X線分析時に測定妨害となるルビジウム(Rb)が、黒雲母の層間イオンとして多量に含まれている。黒雲母中のUの分布を正確に把握することは、通常用いられる半導体検出器(SDD)による測定では困難である。そこで我々は、(1) X線発光分光器による高エネルギー分解能蛍光検出-X線吸収端近傍構造分光法(HERFD-XANES)をバルクの黒雲母試料に適用することで、黒雲母中のU化学種の判別を試みた。また、(2) 薄片化した黒雲母試料に対して、超伝導転移端検出器(Transition Edge Sensor: TES)をマイクロビームによる蛍光X線分析(μ-XRF)時の検出器に用いることにより、黒雲母中でUが濃集する部位を明らかにした。
【実験】旧ウラン鉱床のボーリングコア試料より、黒雲母を採取した。
(1) バルク黒雲母試料は、ポリエチレンフィルムに封入した後、SPring-8 BL39XUにおいて、XANES測定に従来用いられている半導体検出器(SDD)による蛍光XANES測定と、X線発光分光器を用いたHERFD-XANES測定を行った。
(2) 黒雲母薄片試料は、黒雲母を樹脂埋め後、ラッピングペーパーを用いて両面を研磨し、厚さ約100 μmの薄片として調製した。SPring-8 BL37XUにおいて、ビームサイズ約1 μmのマイクロビームX線を用いたμ-XRF-XANES測定を行った。SDDとTESを検出器に用い、入射エネルギー17.2 keVにおいて試料各部位での13.612keVのU Lα線と13.395keVのRb Kα線の蛍光X線強度を取得して、黒雲母に含まれているUとRbの分布を調べた。
【結果と考察】
(1) HERFD-XANESによるバルクの黒雲母試料中の化学種の推定
バルクの黒雲母試料に対し、従来用いられている半導体検出器を用いたXANESスペクトルと、HERFD-XANESスペクトルを比較した。通常の半導体検出器を用いた測定では、Rbの干渉によってXANESピークが潰れ、化学種の判別は困難である。一方、X線発光分光器を用いた測定では、Rbの干渉が除去され、黒雲母中に含まれるUのHERFD-XANESスペクトルが得られた。U(IV)、U(V)、U(VI)の標準試料より得られたHERFD-XANESスペクトルとの比較より、黒雲母中のUの化学種としてU(V)は存在せず、吸着種として考えられるU(VI)に加えて、黒雲母がU(IV)としてUを一部還元して保持していることが示唆された。
(2) TES-μ-XRF-XANESによる薄片化した黒雲母試料中のU分布状態の把握
マイクロビームX線を用いたマッピング分析により、試料中でUが存在するスポットを検出し、各分析点においてXRFスペクトルを取得した。半導体検出器のエネルギー分解能約220 eVでは、XRFスペクトルでU La線とRb Ka線を分離することは困難であるが、TESを用いると、U Lα線とRb Kα線を完全にピーク分離して測定することが可能であった。得られた正確なUとRbのマッピング分析結果から、Uが濃集する部位ではRbの強度が低い傾向が得られた。さらに、U濃集スポットの化学種をμ-XRF-XANESにより分析したところ、一部のUが還元されて存在していることが明らかになった。これらの結果は、黒雲母中におけるUの濃集・還元が、風化によって層間イオンが失われた部位で進行することを示唆している。
【参考文献】 Honda et al., J. Nucl. Sci. Technol. 31(8), 803-812.
【実験】旧ウラン鉱床のボーリングコア試料より、黒雲母を採取した。
(1) バルク黒雲母試料は、ポリエチレンフィルムに封入した後、SPring-8 BL39XUにおいて、XANES測定に従来用いられている半導体検出器(SDD)による蛍光XANES測定と、X線発光分光器を用いたHERFD-XANES測定を行った。
(2) 黒雲母薄片試料は、黒雲母を樹脂埋め後、ラッピングペーパーを用いて両面を研磨し、厚さ約100 μmの薄片として調製した。SPring-8 BL37XUにおいて、ビームサイズ約1 μmのマイクロビームX線を用いたμ-XRF-XANES測定を行った。SDDとTESを検出器に用い、入射エネルギー17.2 keVにおいて試料各部位での13.612keVのU Lα線と13.395keVのRb Kα線の蛍光X線強度を取得して、黒雲母に含まれているUとRbの分布を調べた。
【結果と考察】
(1) HERFD-XANESによるバルクの黒雲母試料中の化学種の推定
バルクの黒雲母試料に対し、従来用いられている半導体検出器を用いたXANESスペクトルと、HERFD-XANESスペクトルを比較した。通常の半導体検出器を用いた測定では、Rbの干渉によってXANESピークが潰れ、化学種の判別は困難である。一方、X線発光分光器を用いた測定では、Rbの干渉が除去され、黒雲母中に含まれるUのHERFD-XANESスペクトルが得られた。U(IV)、U(V)、U(VI)の標準試料より得られたHERFD-XANESスペクトルとの比較より、黒雲母中のUの化学種としてU(V)は存在せず、吸着種として考えられるU(VI)に加えて、黒雲母がU(IV)としてUを一部還元して保持していることが示唆された。
(2) TES-μ-XRF-XANESによる薄片化した黒雲母試料中のU分布状態の把握
マイクロビームX線を用いたマッピング分析により、試料中でUが存在するスポットを検出し、各分析点においてXRFスペクトルを取得した。半導体検出器のエネルギー分解能約220 eVでは、XRFスペクトルでU La線とRb Ka線を分離することは困難であるが、TESを用いると、U Lα線とRb Kα線を完全にピーク分離して測定することが可能であった。得られた正確なUとRbのマッピング分析結果から、Uが濃集する部位ではRbの強度が低い傾向が得られた。さらに、U濃集スポットの化学種をμ-XRF-XANESにより分析したところ、一部のUが還元されて存在していることが明らかになった。これらの結果は、黒雲母中におけるUの濃集・還元が、風化によって層間イオンが失われた部位で進行することを示唆している。
【参考文献】 Honda et al., J. Nucl. Sci. Technol. 31(8), 803-812.