日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ40] 再生可能エネルギーと地球科学

2023年5月24日(水) 15:30 〜 16:45 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:大竹 秀明(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 再生可能エネルギー研究センター)、野原 大輔(電力中央研究所)、島田 照久(弘前大学大学院理工学研究科)、宇野 史睦(日本大学文理学部)、座長:島田 照久(弘前大学大学院理工学研究科)


15:30 〜 15:45

[MZZ40-01] ケーブル方式熱応答試験で推定した見かけ熱伝導率の地質ごとの特徴

*石原 武志1、冨樫 聡1吉岡 真弓1、内田 洋平1 (1.国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

キーワード:地中熱、見かけ熱伝導率、ケーブル方式熱応答試験、花崗岩類、砂岩、泥岩

1. はじめに
地下100 m程度の浅層の低熱源を冷暖房や融雪に利用する地中熱利用システムを設計するにあたり,重要なパラメータの一つが地下の見かけ熱伝導率(λ値;地下水流動による熱移流拡散効果も含めた地層の有効熱伝導率)である.λ値は現状では熱応答試験によってのみ得られる。(国研)産総研は,様々な水文地質環境下のλ値を取得・評価することを目的として,2018年より福島県・佐賀県・沖縄県においてケーブル方式熱応答試験(石原ほか,2023)を実施してきた。ここでは,本試験によって推定されたλ値の地質ごとの特徴を報告する.

2. ケーブル方式熱応答試験
 福島県47地点,佐賀県5地点,沖縄県7地点において,石原ほか(2020,2023)の手法に基づいてケーブル方式熱応答試験を実施し,各地点で深度1m毎にλ値を推定した.得られたλ値(福島県2,187点、佐賀県204点、沖縄県329点)について,掘削時のスライム試料から推定された以下の地質)ごとにλ値を分類し,度数分布にまとめた.度数分布は0.1 W/(m·K)間隔で、4.0 W/(m·K)以上の値は一括した。
 堆積物:礫,砂,砂泥,泥(シルト,粘土),泥炭(腐植土を含む),ローム,表土(盛土等)
 岩盤 :礫岩,砂岩,泥岩,凝灰岩(火砕流堆積物を含む),石灰岩,玄武岩,花崗岩類(花崗岩,花崗閃緑岩)

3.ケーブル方式熱応答試験から推定された地質ごとのλ値
 本発表では礫、砂、泥、砂岩、泥岩、凝灰岩、花崗岩類のλ値について、福島県と佐賀・沖縄県それぞれの統計値(最大値・最小値・最頻値・平均値・中央値)を報告する。なお、福島県のデータに関しては、石原ほか(2023)による。
3-1.堆積物のλ値 [W/(m·K)]:最大値/最小値/平均値/中央値の順に記載
 礫層:福島県(443点)33.3/0.8/1.6/2.8/2.0,佐賀県・沖縄県データなし。
 砂層:福島県(190点)17.7/0.9/1.4/1.7/1.5,佐賀県・沖縄県(30点)3.1/0.6/1.7/1.5/1.4.
 泥層:福島県(153点)5.3/0.7/1.2/1.5/1.3,佐賀県・沖縄県(27点)1.8/0.3/1.2/1.2/1.3.
 4 W/(m·K)を超える極端に大きなλ値に関しては,地下水流れによる熱移流効果などの影響による可能性がある(石原ほか,2023)。平均値・中央値は有効熱伝導率の文献値(北大環境システム工学研究室,2020)や岩石・コア試料で測定された有効熱伝導率(Santa et al. 2020;吉岡ほか,2020)とも調和的であった。データ数に差はあるものの,砂層と泥層のλ値に関しては福島県と佐賀・沖縄県の地域差は認められなかった。

3-2. 岩盤のλ値 [W/(m·K)]:最大値/最小値/最頻値/平均値/中央値の順に記載
 砂岩:福島県(236点)4.8/0.8/1.4/1.6/1.4,佐賀県・沖縄県(143点)35.6/1.5/2.2, 2.3/2.9/2.3.
 泥岩:福島県(544点)4.6/0.7/1.0/1.3/1.2,佐賀県・沖縄県(134点)3.0/0.7/1.8/1.7/1.7.
 凝灰岩:福島県(283点)7.8/0.8/1.2/1.3/1.3,佐賀県・沖縄県データなし。
 花崗岩類:福島県(190点)6.6/1.8/3.1/3.4/3.2,佐賀県・沖縄県(65点)14.8/1.2/2.0/2.9/2.1.
 砂岩と泥岩は,佐賀・沖縄県のλ値が福島県よりも全体的に高い傾向にあり,他方,花崗岩類は福島県のλ値が佐賀・沖縄県よりも高かった。岩盤(岩石)では同じ岩種でもλ値の傾向に地域性があることを示唆する。岩石の有効熱伝導率は,岩石の間隙率や鉱物組成,異方性などに影響を受ける(Santa et al., 2020)。これらの要素は初生的な形成環境やその後の続成作用期間などが影響すると考えられる。今後は,福島県と佐賀県で採取された花崗岩類のコア試料の各種分析(有効熱伝導率や間隙率など)を進め,物性と有効熱伝導率の関係について検討する予定である。堆積年代や形成環境も考慮して岩盤のλ値の傾向を整理できれば,地中熱利用システムの概略的な設計を行う際にも有用なデータとなる。

謝辞:本研究のデータの一部は,(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」の研究によって得られた.佐賀県新エネルギー産業課および唐津市には,唐津市内における試験実施の機会をご提供頂いた.沖縄県工業技術センター、タイガーグローバル株式会社および沖水化成株式会社には,沖縄県内におけるλ値データを提供頂いた。記して謝意を表します.