日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ41] 環境汚染が進行する現代における環境、生物、人の調和を考える

2023年5月24日(水) 13:45 〜 15:00 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:中山 翔太(北海道大学大学院獣医学研究院)、銅谷 理緒(北海道大学大学院獣医学研究院)、石塚 真由美(北海道大学)、座長:中山 翔太(北海道大学大学院獣医学研究院)、銅谷 理緒(北海道大学大学院獣医学研究院)

14:00 〜 14:15

[MZZ41-02] アオウミガメから取得した培養細胞の抗凝血性殺鼠剤評価への応用の試み

*片山 雅史1、福田 智一2、武田 一貴3、近藤 理美4、清野 透5、中山 翔太6,7 (1.国立環境研究所生物多様性領域、2.岩手大学総合科学研究科、3.北里大学獣医学部、4.認定NPO法人エバーラスティング・ネイチャー、5.国立がん研究センター先端医療開発センター、6.北海道大学大学院獣医学研究院、7.ザンビア大学獣医学部)

[目的] 野生動物は生体の研究利用が限定されており、化学物質や感染症など、野生動物に影響を及ぼし、生物多様性の損失につながる可能性がる要因の評価には、調査研究や近縁種を用いた研究、in silicoにおける研究など様々な手法を組み合わせて評価が進められている。死亡個体からであも取得可能な培養細胞は、応答性を有するため生物多様性への影響が懸念される要因の評価に利用できる可能性がある。特に、肝細胞や神経細胞を取得し利用できれば、代謝や神経影響などを評価できる可能性があるが、培養が容易ではない上に、野生動物では野生下で発見された死亡個体からの細胞取得が中心であるため、腐敗が比較的遅い筋肉または皮膚由来の線維芽細胞の取得に限定される。この様な線維芽細胞であっても化学物質に対して、一定の分子レベルの応答を示す可能性がある。本研究では、個体データとの比較により、野生動物において現実的に取得可能な線維芽細胞を用いた評価に関して検討した。本研究では、小笠原地域で使用されている殺鼠剤のアオウミガメへの影響をモデルとして検証する。侵略的外来種対策の一環として、小笠原地域で殺鼠剤が使用され大きな成果が挙げられている。一方で、殺鼠剤の非標的種への影響も懸念されている。小笠原地域における殺鼠剤の影響が懸念される非対象種として、オガサワラノスリ、アカガシラカラスバト、アオウミガメが挙げられている。本研究では飼育個体があり生体との比較が可能なアオウミガメをモデルとした。
[材料および方法]
本研究では、死亡したアオウミガメから線維芽細胞を取得した。細胞老化を回避するため、CSII-CMV-RfAをバックボーンとするレンチウイルスを用いて、ヒト由来の変異型CDK4(R24C)、CyclinD1、TERT遺伝子を強制発現させ無限分裂細胞(不死化細胞)の樹立を試みた。その後、樹立した細胞の細胞増殖と、染色体の核型解析を実施した。さらに、樹立した細胞を用いて、小笠原地域で使用されている抗凝血性殺鼠剤ダイファシノンンをin vitroでばく露し、応答を同じ方法で樹立したラットの無限分裂細胞と比較した。
[結果と考察]
アオウミガメに関しては、通常の哺乳類体細胞の培養条件(培地:DMEM+10%FBS、37℃、5%CO2)では細胞培養が困難であった。条件検討により、基礎培地としてRPMI1640が適し、培養温度を30℃以下にするとアオウミガメの体細胞を培養可能であることが明らかになった。また、33℃以上になると細胞生存率の低下が確認され、その原因はアポトーシスであることが明らかになった。
次にアオウミガメの体細胞に3遺伝子を導入して、遺伝子導入細胞を作製した。細胞増殖に関して、遺伝子導入細胞と遺伝子を導入していない細胞を比較したところ、遺伝子導入細胞で活発かつ安定した細胞増殖が認められ、PD 150を越えた現在でも活発な細胞増殖を続けている。また、遺伝子導入細胞では細胞増殖解析期間中、安定して高い細胞生存率を示した。体細胞は細胞老化現象により細胞の増殖が停止する。そこで、培養後期において細胞老化マーカーで染色した。解析の結果、初代培養細胞では、細胞老化が確認されたが、遺伝子導入細胞では確認されなかった。以上の結果から、アオウミガメの遺伝子導入細胞は、細胞老化を回避できたと考えられる。続いて、樹立した細胞の染色体の核型に関しても解析を実施した。結果、2n=56の通常核型を維持していることが明らかになった。以上の結果から、本研究では、変異型CDK4, CyclinD1, TERTを用いることで、元の細胞の性質に比較的近いまま、アオウミガメの細胞を活発に増殖できることが明らかになった。
次に、同細胞の抗凝血性殺鼠剤評価への応用に関して検討をした。小笠原地域で外来ネズミ対策として使用されているダイファシノンは、ビタミンK還元酵素(vitamin K epoxide reductase, VKOR)を阻害し、血液凝固因子の合成を阻害し薬効を発揮する。そこで試験管内においてダイファシノンのばく露によるVKOR遺伝子のmRNA発現に対する影響を解析し、薬効評価の一助になる可能性があると考えた。アオウミガメと同様の方法で作製したラットの無限分裂細胞と比較した結果、ラットでは経時的にVKORの発現量が減少する一方で、アオウミガメではあまり変化しない結果が得られた。この結果は、生体における血液凝固時間解析の結果と近い結果であった。この結果から、筋肉由来の線維芽細胞を元とした細胞であっても、一定の評価ができる可能性が示唆された。現在、トランスクリプトーム解析によりさらに詳細な解析を進めており、今後総合的に考察する予定である。