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[MZZ42-02] 室戸ユネスコ世界ジオパークの地質遺産と宗教的伝統と記念物の関連
キーワード:室戸ユネスコ世界ジオパーク、お遍路、弘法大師信仰、巨石信仰、磐座
【はじめに】
室戸ユネスコ世界ジオパーク(以下,室戸UGGp)は高知県室戸市をエリアとするユネスコ世界ジオパークである.域内の地質遺産と文化遺産の関連性を見いだし,ジオパーク活動に応用するのもユネスコ世界ジオパークの使命のひとつであるとされている (JGN 国際化WG, 2016).
室戸UGGpのエリアでは8〜9世紀の仏教僧である空海(弘法大師)が修行したと伝わっており,空海が創建したと伝わる3つの寺院(金剛頂寺,津照寺,最御崎寺)にはお遍路の巡礼者が多数訪れる.そして,巨石や岩場など特徴的な地形(地質遺産)と空海の事績を結びつけた伝承が伝わっている.一方,弘法大師信仰とは別に,巨石に祀られている社祠も多数存在し,いくつか独自の伝承が伝わっている.
本発表では,室戸UGGpの地質遺産—特に巨石や岩場など特徴的な岩石地形に注目し,それらと関連する宗教的伝統(信仰・伝承・習俗)と宗教的記念物(社祠や堂宇,しめ縄や仏像など小規模な物も含む)について,「室戸市史」 (室戸市史編纂委員会, 1989)や「室戸の民話・伝説」(多田, 2017)にもとづいてリストアップを行い,地域の関係者への聞き込み,文献調査を行った.その結果得られた地理的分布と地質学的な背景,宗教的な背景から,地質遺産にまつわる宗教的伝統や記念物の成立過程について考察する.
【弘法大師信仰と関わる地質遺産】
弘法大師信仰に関わる地質遺産には11ヶ所がリストアップされた.代表的なものには空海の修行にかかわる場所(不動岩,御厨人窟・神明窟,行水の池),空海の超自然的な力によって作られたされる場所や物(四十寺山のにじり岩,捻岩,一夜建立の岩屋,目洗いの池,明星石),空海の文化的事績が伝わる場所(硯石から製造した硯)がある.このうち,明星石と硯は遅くとも江戸時代後期(1815年ころ)には室戸の特産物として土佐藩内で認識されていた (高知県立図書館, 1991).
【そのほかの宗教的伝統・記念物と関わる地質遺産】
一方,弘法大師信仰とは別の,宗教的伝統や記念物と関連する地質遺産も11ヶ所リストアップされた.代表的なものには,岩山の山頂に祀られた祠(丸山の北明神),岩場の中に立つ社(厳島神社),巨石を磐座やご神体とする社祠(飛石神社,平田岩,龍宮神社)が挙げられる.そのほか,今なお願掛けの対象となっている巨石がある(子授けの石).
【地質遺産と関連する宗教的伝統・記念物の成立過程】
このような宗教的伝統・記念物と関連する地質遺産の分布を取りまとめたところ,ほとんどが海岸部に集中することが判明した.地質学的には,室戸UGGpの海岸は離水海岸であり(前杢, 2006),そのほとんどが岩石海岸である.そのため,人々の信仰の対象となりうる巨石や岩石地形が海岸部に集中していることと宗教的伝統・記念物の分布が関連していると考えられる.その中でも弘法大師信仰にまつわる地質遺産は最御崎寺近くの室戸岬と金剛頂寺近くの行当岬周辺に集中する.唯一内陸部に位置する四十寺山はかつて最御崎寺が建っていた
このことから,地質遺産と関連した宗教的伝統・記念物が成立した背景には①離水海岸の巨石や岩石地形,②離水海岸の巨石に対する信仰,③空海が室戸で修行した史実,④寺院に向かうお遍路巡礼者の存在,といった要素が重層的に関わっていると考えられる.
【参考文献】
日本ジオパークネットワーク(JGN) 国際化WG, 2016, 国際地質科学ジオパーク計画定款 [https://jgc.geopark.jp/files/20160121_01.pdf]; 室戸市史編纂委員会, 1989, 室戸市史 (上), 856p; 高知県立図書館 編,1991, 南路志 第2巻 郡郷の部(上) 安芸・香美・長岡・土佐.547p; 多田, 2017, 室戸の民話・伝説.室戸市教育委員会, 311p; 前杢, 2006, 地質雑 122補遺,17–26.
室戸ユネスコ世界ジオパーク(以下,室戸UGGp)は高知県室戸市をエリアとするユネスコ世界ジオパークである.域内の地質遺産と文化遺産の関連性を見いだし,ジオパーク活動に応用するのもユネスコ世界ジオパークの使命のひとつであるとされている (JGN 国際化WG, 2016).
室戸UGGpのエリアでは8〜9世紀の仏教僧である空海(弘法大師)が修行したと伝わっており,空海が創建したと伝わる3つの寺院(金剛頂寺,津照寺,最御崎寺)にはお遍路の巡礼者が多数訪れる.そして,巨石や岩場など特徴的な地形(地質遺産)と空海の事績を結びつけた伝承が伝わっている.一方,弘法大師信仰とは別に,巨石に祀られている社祠も多数存在し,いくつか独自の伝承が伝わっている.
本発表では,室戸UGGpの地質遺産—特に巨石や岩場など特徴的な岩石地形に注目し,それらと関連する宗教的伝統(信仰・伝承・習俗)と宗教的記念物(社祠や堂宇,しめ縄や仏像など小規模な物も含む)について,「室戸市史」 (室戸市史編纂委員会, 1989)や「室戸の民話・伝説」(多田, 2017)にもとづいてリストアップを行い,地域の関係者への聞き込み,文献調査を行った.その結果得られた地理的分布と地質学的な背景,宗教的な背景から,地質遺産にまつわる宗教的伝統や記念物の成立過程について考察する.
【弘法大師信仰と関わる地質遺産】
弘法大師信仰に関わる地質遺産には11ヶ所がリストアップされた.代表的なものには空海の修行にかかわる場所(不動岩,御厨人窟・神明窟,行水の池),空海の超自然的な力によって作られたされる場所や物(四十寺山のにじり岩,捻岩,一夜建立の岩屋,目洗いの池,明星石),空海の文化的事績が伝わる場所(硯石から製造した硯)がある.このうち,明星石と硯は遅くとも江戸時代後期(1815年ころ)には室戸の特産物として土佐藩内で認識されていた (高知県立図書館, 1991).
【そのほかの宗教的伝統・記念物と関わる地質遺産】
一方,弘法大師信仰とは別の,宗教的伝統や記念物と関連する地質遺産も11ヶ所リストアップされた.代表的なものには,岩山の山頂に祀られた祠(丸山の北明神),岩場の中に立つ社(厳島神社),巨石を磐座やご神体とする社祠(飛石神社,平田岩,龍宮神社)が挙げられる.そのほか,今なお願掛けの対象となっている巨石がある(子授けの石).
【地質遺産と関連する宗教的伝統・記念物の成立過程】
このような宗教的伝統・記念物と関連する地質遺産の分布を取りまとめたところ,ほとんどが海岸部に集中することが判明した.地質学的には,室戸UGGpの海岸は離水海岸であり(前杢, 2006),そのほとんどが岩石海岸である.そのため,人々の信仰の対象となりうる巨石や岩石地形が海岸部に集中していることと宗教的伝統・記念物の分布が関連していると考えられる.その中でも弘法大師信仰にまつわる地質遺産は最御崎寺近くの室戸岬と金剛頂寺近くの行当岬周辺に集中する.唯一内陸部に位置する四十寺山はかつて最御崎寺が建っていた
このことから,地質遺産と関連した宗教的伝統・記念物が成立した背景には①離水海岸の巨石や岩石地形,②離水海岸の巨石に対する信仰,③空海が室戸で修行した史実,④寺院に向かうお遍路巡礼者の存在,といった要素が重層的に関わっていると考えられる.
【参考文献】
日本ジオパークネットワーク(JGN) 国際化WG, 2016, 国際地質科学ジオパーク計画定款 [https://jgc.geopark.jp/files/20160121_01.pdf]; 室戸市史編纂委員会, 1989, 室戸市史 (上), 856p; 高知県立図書館 編,1991, 南路志 第2巻 郡郷の部(上) 安芸・香美・長岡・土佐.547p; 多田, 2017, 室戸の民話・伝説.室戸市教育委員会, 311p; 前杢, 2006, 地質雑 122補遺,17–26.