日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

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[M-ZZ42] 地質と文化

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (27) (オンラインポスター)

コンビーナ:先山 徹(NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)、鈴木 寿志(大谷大学)、川村 教一(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[MZZ42-P01] 愛媛県愛南町外泊地区の石垣について

*鈴木 寿志1 (1.大谷大学)

キーワード:石垣、文化遺産、砂岩、自然石、四万十帯

愛媛県南西部に位置する愛南町外泊地区には,山の斜面に石垣を張り巡らせた集落が広がる。別名「石垣の里」と呼ばれる。元々は江戸時代末に隣の中泊地区の人口増加に伴い,分家した次男,三男が外泊地区に入植し,山野を開墾したことに始まるという(石垣の里パンフレット)。この集落は,平成18年「未来に残したい漁業漁村の歴史文化財産百選」(水産庁)や平成19年「美しい日本の歴史的風土100選」(古都保存財団)に選ばれるなど,文化財としての価値が認められるようになった。筆者は,地質と人々との関わりが非常に強い,この石垣の里を訪れて調査する必要があると考え,令和5年2月に現地を訪れた。
 現地を訪れてみると,加工されていない野石が積まれた石垣が,家々の基礎をなしたり,家を囲ったりして広がっていた。また斜面上方には段々畑が続き,開拓が広範囲に及んだことが分かる。利用されている岩石は四万十帯西海層の砂岩である。粗粒砂岩が主体で細礫岩も含まれる。また稀に石灰質泥岩がみられる。花崗岩も石垣に用いられているが,これは外来の石材と考えられる。海沿いの露頭を観察すると,ほぼ塊状の砂岩が露出し,泥岩の挟みがほとんどなく,層理面を把握しにくい。外泊の斜面上方で露頭を観察した結果,節理間隔が10cmほどから30数cmに至ることが分かった。これは石垣の角石に用いられている石材の大きさと調和的であった。ハンマーで露頭を叩くと簡単には割れず,砂岩にしてはかなり硬質な部類に入る。
 現地の民宿を経営されている吉田さんご夫婦に集落を案内していただき,また石垣の修復作業に関わらせていただいた。石垣の形式は乱層野石積みであるが,崩れないように安定させるために積み方が工夫されていた。積み上げる場所の形状や大きさを確かめながら,かつ崩れにくいように石垣内部へ傾斜するように配置する。大きさが合っていても,座りが悪い場合は回転させて適当な方向を探る。うまくはまった場合は金づちで軽くたたき,固定させるとともに小さなぐり石を奥に詰めていく。上面に近づくと水糸を張って高さをそろえながら積む石を選定していく。また周辺斜面にはシシ垣が分布しているという。これについても現地で確認した。
 外泊地区の石垣は,先人たちが生きるために必死で開墾した結果,築き上げられたものである。その成立には四万十帯の硬質砂岩が大きく関わっており,適当な節理間隔で割れやすかったことも石垣集落成立に寄与しているだろう。そして,吉田さんご夫婦のように,集落を愛しコツコツと修復を進めてきた現在的な努力によって,150年もの長きにわたって石垣集落が続いてきたし,文化財としての価値が認められるようになった。