14:45 〜 15:00
[MZZ44-05] 拓洋第5海山における海洋化学ベースラインとコバルトリッチクラスト掘削性能確認試験に係る海水モニタリング
キーワード:コバルトリッチクラスト、環境影響評価、栄養塩、微量金属
将来のコバルトリッチクラストの開発に向けて、採鉱活動で生じうる懸濁プルームが海水の化学組成や生態系プロセスに与える影響について、適切に評価・モニタリングを行う必要がある。そのためにはまず、バックグラウンドとなる環境ベースラインの取得が重要である。ISA環境ガイドライン(ISBA/25/LTC/6/Rev.2)によると、環境ベースラインとして取得すべき海洋化学パラメータとして、アルカリ度、溶存酸素、全有機炭素、栄養塩(PO4, NO3, NO2, SiO2)、及び金属(Cu, Zn, Cd, Pb, Hg)が挙げられている。しかし金属については、外洋海水中の濃度は極めて低濃度(ng/Lレベル)であり、さらに塩分に起因する干渉の影響が大きいことから、ICP-MSのような高感度な機器をもってしても測定が難しいという問題がある。固相抽出などにより濃縮して測定する手法が存在するものの、現状では汎用的な技術には至っていない。一方で、これらの金属は、酸化的な海水中ではマンガン酸化物からほとんど溶出しないため、溶存態としてのモニタリング元素として鋭敏な指標とは言いがたい。
我々は、2018年に拓洋第5海山周辺海域の環境ベースライン調査を実施し、海山平頂部(水深900 m)及び基部(水深5,300 m)において、CTD観測及び採水試料の分析を行った。海水のpHは表層の8.2から水深に沿って低下し、平頂部水深付近で最小値7.5を示した。溶存酸素についても表層から水深に沿って低下し、平頂部水深付近で極小となったのち、基部水深まで徐々に増加した。一方、栄養塩については、表層の定量下限値以下の極低濃度(<数十nmol/L)から、平頂部水深付近まで水深に沿って増加した。元素組成については、20倍希釈海水試料のICP-MS測定を行ったところ、Cr, Mn, Fe, Ni, Cu, Zn, Pbは全水深で検出限界以下となったが、Li, B, Mg, Ca, V, As, Rb, Sr, Mo, Cd, Ba, Uについては妥当な結果を得ることが出来た。Cd及びBaは表層で濃度が減少する栄養塩型、その他の元素については濃度一定の保存型の水深分布を示した。
コバルトリッチクラストからの金属溶出について調べるため、拓洋第5海山から採取されたクラスト試料を用いて、固液比1:100で表層海水との振とう試験を行ったところ、明瞭な溶出が確認された元素はMo, Cd, Baであった。栄養塩については、PO4及びSiO2の顕著な溶出が認められた。これらの結果に基づき、環境ベースラインとして従来取得が求められていた海洋化学パラメータに加え、MoとBaについても対象とすることを提案する。特にMoは保存型の分布を示すため、水深によらずクラストと反応した海水を検出しやすいと考えられる。一方、栄養塩型を示すBaは、濃度が低い表層においては鋭敏な指標となり得る。もう一つ重要な点は、マンガン酸化物による海水のpH調節作用である。我々のこれまでの研究により、CO2でpHを調節した人工海水にマンガン団塊粉末(GSJ地球化学標準試料JMn-1)を添加すると、初期pHが高い場合には低下が、初期pHが低い場合は上昇が見られ、その境界となる電荷ゼロ点(pHPZC)は7.4付近と推定された(Wang et al., 2018)。今回のマンガンクラストを用いた海水振とう試験においても、海水の初期pH 8.0は7.5まで低下することが確認された。pHが低い中深層においては影響が少ないと考えられるが、pHが比較的高い表層では、pHが重要な監視項目となる可能性について考慮すべきであろう。
拓洋第5海山では2020年にコバルトリッチクラスト掘削性能確認試験が実施され、我々は試験中のROV採水試料及び掘削機タンク水、ならびに試験前後のROV採水試料の分析を行った。試験中におけるROV採水試料の懸濁物質は増加したものの、試験前後と比べて栄養塩及び金属の濃度に変化は認められず、溶存態としての海水の化学組成に影響を与えるレベルではなかったと結論づけられた。一方、掘削機タンク水のMo濃度には僅かに増加が認められ、クラスト掘削片からの溶出の影響が示唆された。これは、試験中ROV採水の懸濁物質濃度が0.04–85 mg/Lだったのに対し、掘削機タンク水の懸濁物質濃度は12–313 mg/Lと高かったこととも調和的である。
我々は、2018年に拓洋第5海山周辺海域の環境ベースライン調査を実施し、海山平頂部(水深900 m)及び基部(水深5,300 m)において、CTD観測及び採水試料の分析を行った。海水のpHは表層の8.2から水深に沿って低下し、平頂部水深付近で最小値7.5を示した。溶存酸素についても表層から水深に沿って低下し、平頂部水深付近で極小となったのち、基部水深まで徐々に増加した。一方、栄養塩については、表層の定量下限値以下の極低濃度(<数十nmol/L)から、平頂部水深付近まで水深に沿って増加した。元素組成については、20倍希釈海水試料のICP-MS測定を行ったところ、Cr, Mn, Fe, Ni, Cu, Zn, Pbは全水深で検出限界以下となったが、Li, B, Mg, Ca, V, As, Rb, Sr, Mo, Cd, Ba, Uについては妥当な結果を得ることが出来た。Cd及びBaは表層で濃度が減少する栄養塩型、その他の元素については濃度一定の保存型の水深分布を示した。
コバルトリッチクラストからの金属溶出について調べるため、拓洋第5海山から採取されたクラスト試料を用いて、固液比1:100で表層海水との振とう試験を行ったところ、明瞭な溶出が確認された元素はMo, Cd, Baであった。栄養塩については、PO4及びSiO2の顕著な溶出が認められた。これらの結果に基づき、環境ベースラインとして従来取得が求められていた海洋化学パラメータに加え、MoとBaについても対象とすることを提案する。特にMoは保存型の分布を示すため、水深によらずクラストと反応した海水を検出しやすいと考えられる。一方、栄養塩型を示すBaは、濃度が低い表層においては鋭敏な指標となり得る。もう一つ重要な点は、マンガン酸化物による海水のpH調節作用である。我々のこれまでの研究により、CO2でpHを調節した人工海水にマンガン団塊粉末(GSJ地球化学標準試料JMn-1)を添加すると、初期pHが高い場合には低下が、初期pHが低い場合は上昇が見られ、その境界となる電荷ゼロ点(pHPZC)は7.4付近と推定された(Wang et al., 2018)。今回のマンガンクラストを用いた海水振とう試験においても、海水の初期pH 8.0は7.5まで低下することが確認された。pHが低い中深層においては影響が少ないと考えられるが、pHが比較的高い表層では、pHが重要な監視項目となる可能性について考慮すべきであろう。
拓洋第5海山では2020年にコバルトリッチクラスト掘削性能確認試験が実施され、我々は試験中のROV採水試料及び掘削機タンク水、ならびに試験前後のROV採水試料の分析を行った。試験中におけるROV採水試料の懸濁物質は増加したものの、試験前後と比べて栄養塩及び金属の濃度に変化は認められず、溶存態としての海水の化学組成に影響を与えるレベルではなかったと結論づけられた。一方、掘削機タンク水のMo濃度には僅かに増加が認められ、クラスト掘削片からの溶出の影響が示唆された。これは、試験中ROV採水の懸濁物質濃度が0.04–85 mg/Lだったのに対し、掘削機タンク水の懸濁物質濃度は12–313 mg/Lと高かったこととも調和的である。