日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] 口頭発表

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[O-04] 関東大震災100年。社会の進化は次の災害を乗り越えられるか

2023年5月21日(日) 15:30 〜 17:00 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:竹内 裕希子(国立大学法人 熊本大学)、和田 章(東京工業大学)、宮地 良典(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、座長:和田 章(東京工業大学)、竹内 裕希子(国立大学法人 熊本大学)

15:30 〜 15:55

[O04-04] レジリエンス社会と地域経済の防災・復興

★招待講演

*池島 祥文1 (1.横浜国立大学)

キーワード:レジリエンス、地域経済、サプライチェーン

いまや、ヒト(出稼ぎ等の労働力移動)、モノ(貿易)、カネ(投資)、情報が国境を越えて展開するグローバルエコノミーの時代とされている。1980年代後半以降、日米貿易摩擦の回避や安価な人件費等を求めて、日本企業の海外現地生産が活発化してきた。その後、多国籍企業の台頭とともに国際分業の進展は著しく、原料や素材、中間財、最終製品がそれぞれに別の国で生産され、世界全体で販売されるように、グローバルな生産・供給体制が構築されている。工業製品のみならず、農産物や加工食品においても、一国内で生産が完結せず、グローバルな供給網のなかに組み込まれており、その恩恵により、私たちの日常生活は成立しているともいえる。しかし、このグローバルな供給網は世界各地で発生する自然災害等によって途絶するリスクもあり、いま、災害被害の最小化・回復の迅速化を可能とするレジリエンス社会の実現が目指されている。
商品に企画・開発から原料調達、生産、配送、販売、そして、最終消費者に商品が届くまで「供給の連鎖」はサプライチェーンと呼ばれている。経済のグローバル化に伴い、このサプライチェーンも複雑に構築されているが、サプライチェーンが円滑に機能することで、膨大な財の生産供給が維持されている。しかし、自然災害や感染症に代表される環境的リスク、テロや政治不安などの地政学的リスク、経済危機や急激な価格変動による経済的リスク、システム障害等の技術的リスクによって、サプライチェーンが機能不全に陥る事態も発生する。東日本大震災では、被災地での直接的な被害にとどまらず、このサプライチェーンを通じて被災地以外の広範囲な地域に間接的な災害の影響が生じたことで、災害時の経済的被害として、よりクローズアップされてきた。そのほか、日本国内の自然災害のみならず、タイでの洪水や世界的な新型コロナウィルスの感染拡大によって、生産や物流が停滞し、国際的なサプライチェーンに影響がでる事態も発生している。
しかし、被災地域に生産拠点がある産業においては、こうしたサプライチェーンの影響が強くでるものの、「供給の連鎖」は企業間取引で形成されており、取引が停止されなければ、被災現場の復旧におうじて連鎖関係も回復する傾向にある。また、ある企業との取引が停止されたとしても、別の企業との取引に切り替われば、サプライチェーン自体は回復していく。一方で、被災企業が中小・零細企業の場合、経営基盤が脆弱であるため、事業の縮小や廃業を余儀なくされ、事業の継続・早期復旧は困難となる。各地の地域経済は中小・零細企業に支えられており、これら企業の存続は地域経済全体の復興においても強い影響を与える可能性がある。すなわち、中小・零細企業は災害という外的ショックからの回復が難しく、その被災範囲が広い場合に、地域経済へのダメージは深刻になると考えられている。
本報告では、防災面から、自然災害に対する経済的強靱性(レジリエンス)を高めようとする際に、どのような対策を講じる必要があるのか、地域経済の視点に着目しながら検討する。域内外とのサプライチェーンの構築やサプライチェーンの強靱化はレジリエンス向上に貢献すると考えられるものの、地域経済を支える中小・零細企業自体には災害から回復するだけのレジリエンスが欠如しているのではないか。その場合に、どのような対策や支援が求められるのか。「経済」は多くの主体から構成されているため、どの主体に焦点をあてるかによって、防災対応の方向性も変化する。それらを踏まえた経済の防災や復興における課題を提起する。