10:00 〜 10:30
[O05-03] ジオパーク地域の博物館における地質標本の調達とその問題点について
★招待講演
キーワード:ユネスコ世界ジオパーク、地質標本、地質標本の収集・販売を減らすための情報発信WG、国際博物館会議、電子情報技術産業協会、紛争鉱物
ユネスコ世界ジオパークは,国際的に価値の認められた地質遺産を保護・保全することで,研究や教育,地域文化への理解や地域振興等に活用し,地域の持続可能な発展に繋げるプログラムである.
ユネスコ世界ジオパークは,ユネスコが定めるガイドライン(国際地質科学ジオパーク計画定款やユネスコジオパーク作業指針)に準じて運営される.この基準では,地質標本の販売について禁止するだけではなく,そのような取引全般を積極的に防ぐ必要が求められている.その一方で,ジオパーク地域には,多くの博物館やビジターセンター等が設置され,地質学的な現象を来館者に対して説明するため,地質標本が展示物として用いられている.
今回,日本ジオパークネットワーク内に設置された,地質標本の収集・販売を減らすための情報発信WGにおいて,博物館における地質標本の購入や展示に関する問題点について議論したことから報告する.
博物館の標本購入や試料収集の国際的な規定は,国際博物館会議(ICOM: International Council of Museums)によって策定されている.ICOMでは,2004年10月に『ICOM職業倫理規程(Code of Ethics of Museum)』を改訂し,世界中の博物館が一定の基準を満たした活動を実現できるよう基本的指針を示している.その中で,1無認可のもしくは非学術的なフィールドワークに由来する資料と標本の取得について 2保護された生物学的もしくは地学的資料の取得について 3由来不明の資料の陳列 についての規定がある.これは,取得する標本の採集方法が法律を遵守し,その産地や生息地を破壊していないこと,標本の出所が明確であり違法に取得した物ではないことを明確にしていることなどが求められている.これらを明記できない標本を購入し展示することは,文化財の違法取引の容認および助長的行為とみなされる可能性があるとされている.
また,ICOMでは,国際博物館会議倫理規定ワーキンググループ,自然史系博物館及びコレクションに関する国際委員会(ICOM NATHIST)によって『自然史系博物館のためのイコム博物館倫理規定(ICOM Code of Ethics for Natural History Museums)』が2013年に採択された.この中で,岩石,鉱物と化石の標本調達についての規定として,1地層への悪影響がない方法で採取されているか 2合法的な業者から調達しそれを証明できるか 3商業的な採掘で産地に損害を与えていないか 4原産国と自国の法律内で採掘していることを証明できるか がある.特に,化石資料は再生不能な資源であることから,科学的な貴重性の高い地域産の化石資料の一般市民に対しての販売は控えるべきであるとされている.
さらに,電子機器関係の取組みではあるが,電子情報技術産業協会(JEITA: Japan Electronics and Information Technology Industries Association)の責任ある鉱物調達検討会が紛争鉱物を指定し,その取扱を制限していることも参考となる.紛争が絶えないアフリカのコンゴ民主共和国周辺で採掘される鉱物は,現地武装勢力の活動の資金源となり,児童労働や強制労働など違法労働が横行している.この周辺で採掘されるタンタル,スズ,金,タングステン(3TG)を紛争鉱物に指定し,電子業界の採掘活動を含むサプライチェーン全体で利用しない活動である.博物館においてもコンゴ民主共和国周辺で採集された地質標本の購入と展示に慎重になるべきと考えられる.
筆者の所属する糸魚川フォッサマグナミュージアムは,糸魚川ユネスコ世界ジオパークの中核施設である.ここで再認定審査の際に出された,展示されている地質標本に対する指摘事項を紹介する.ある審査員は,合法的な業者から調達していることを文書で証明する必要があり,購入時の請書など書類を保管しておく必要があると指摘した.これは,特にジオパーク認定後に取得した地質標本に対して厳守すべきとのことであった.また,モロッコ産の化石は,その採取方法に問題があり,展示することは避けるべきとの指摘がなされた.
このように,ユネスコ世界ジオパークの基準だけではなく,ICOMによる作業指針やJEITAの活動など,ジオパーク地域内の博物館として地質標本をどのように購入し展示すれば良いかという検討材料は多い.ジオパークはユネスコが推進するプログラムであり,当然ICOMなどの規定に沿った形で施設運営がなされることが求められている.ジオパーク地域内に博物館やビジターセンターを建設する際だけではなく,既存施設についても上記の規定に反する地質標本を購入,展示していないか再度確認する必要があると考えられる.
ユネスコ世界ジオパークは,ユネスコが定めるガイドライン(国際地質科学ジオパーク計画定款やユネスコジオパーク作業指針)に準じて運営される.この基準では,地質標本の販売について禁止するだけではなく,そのような取引全般を積極的に防ぐ必要が求められている.その一方で,ジオパーク地域には,多くの博物館やビジターセンター等が設置され,地質学的な現象を来館者に対して説明するため,地質標本が展示物として用いられている.
今回,日本ジオパークネットワーク内に設置された,地質標本の収集・販売を減らすための情報発信WGにおいて,博物館における地質標本の購入や展示に関する問題点について議論したことから報告する.
博物館の標本購入や試料収集の国際的な規定は,国際博物館会議(ICOM: International Council of Museums)によって策定されている.ICOMでは,2004年10月に『ICOM職業倫理規程(Code of Ethics of Museum)』を改訂し,世界中の博物館が一定の基準を満たした活動を実現できるよう基本的指針を示している.その中で,1無認可のもしくは非学術的なフィールドワークに由来する資料と標本の取得について 2保護された生物学的もしくは地学的資料の取得について 3由来不明の資料の陳列 についての規定がある.これは,取得する標本の採集方法が法律を遵守し,その産地や生息地を破壊していないこと,標本の出所が明確であり違法に取得した物ではないことを明確にしていることなどが求められている.これらを明記できない標本を購入し展示することは,文化財の違法取引の容認および助長的行為とみなされる可能性があるとされている.
また,ICOMでは,国際博物館会議倫理規定ワーキンググループ,自然史系博物館及びコレクションに関する国際委員会(ICOM NATHIST)によって『自然史系博物館のためのイコム博物館倫理規定(ICOM Code of Ethics for Natural History Museums)』が2013年に採択された.この中で,岩石,鉱物と化石の標本調達についての規定として,1地層への悪影響がない方法で採取されているか 2合法的な業者から調達しそれを証明できるか 3商業的な採掘で産地に損害を与えていないか 4原産国と自国の法律内で採掘していることを証明できるか がある.特に,化石資料は再生不能な資源であることから,科学的な貴重性の高い地域産の化石資料の一般市民に対しての販売は控えるべきであるとされている.
さらに,電子機器関係の取組みではあるが,電子情報技術産業協会(JEITA: Japan Electronics and Information Technology Industries Association)の責任ある鉱物調達検討会が紛争鉱物を指定し,その取扱を制限していることも参考となる.紛争が絶えないアフリカのコンゴ民主共和国周辺で採掘される鉱物は,現地武装勢力の活動の資金源となり,児童労働や強制労働など違法労働が横行している.この周辺で採掘されるタンタル,スズ,金,タングステン(3TG)を紛争鉱物に指定し,電子業界の採掘活動を含むサプライチェーン全体で利用しない活動である.博物館においてもコンゴ民主共和国周辺で採集された地質標本の購入と展示に慎重になるべきと考えられる.
筆者の所属する糸魚川フォッサマグナミュージアムは,糸魚川ユネスコ世界ジオパークの中核施設である.ここで再認定審査の際に出された,展示されている地質標本に対する指摘事項を紹介する.ある審査員は,合法的な業者から調達していることを文書で証明する必要があり,購入時の請書など書類を保管しておく必要があると指摘した.これは,特にジオパーク認定後に取得した地質標本に対して厳守すべきとのことであった.また,モロッコ産の化石は,その採取方法に問題があり,展示することは避けるべきとの指摘がなされた.
このように,ユネスコ世界ジオパークの基準だけではなく,ICOMによる作業指針やJEITAの活動など,ジオパーク地域内の博物館として地質標本をどのように購入し展示すれば良いかという検討材料は多い.ジオパークはユネスコが推進するプログラムであり,当然ICOMなどの規定に沿った形で施設運営がなされることが求められている.ジオパーク地域内に博物館やビジターセンターを建設する際だけではなく,既存施設についても上記の規定に反する地質標本を購入,展示していないか再度確認する必要があると考えられる.