日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

現地ポスター発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-06] 高校生ポスター発表

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 現地ポスター会場 (幕張メッセ展示ホール8)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(気象庁)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 13:45-15:15)

13:45 〜 15:15

[O06-P02] 桜島火山地域におけるアルカリろ紙法と自作吸光度計を用いた火山ガス観測

*吉井 由1、近森 たお1、*長瀬 楽々1、*川田代 航汰1、*西岡 治弥1 (1. 学校法人池田学園池田中学・高等学校)

キーワード:アルカリろ紙法、火山ガス


(はじめに)桜島はHF,HCl,SO2等の火山ガスを常時噴出している。東京工業大学の平林は1976年1月から1977年6月に,桜島の火山ガスを桜島山麓5カ所で1~2ヶ月毎に観測を行い、日平均爆発回数の多い期間はHCl/SO2が大きくなることを報告している。
 鹿児島県、市はSO2については観測を行っているが一部の市町村に偏在しており、HF,HClは観測を行っていない。そこで我々は,桜島火山地域における広域な火山ガス(HCl,HF,SO2)の濃度分布の把握とそれらの濃度比から噴火活動との関連を調べようと考えた。その際、簡単かつ正確に火山ガスの濃度を測定でき,大気観測において実績のあるアルカリろ紙法を採用した。なお、捕集したガスを容易に調べるために自作吸光度計「輝ちゃん」(図3)を用いて、HClは硝酸銀比濁法、SO2は硫酸バリウム沈殿法、HFはSPANDS法を用いて吸光度を求め(図4)、それを検量線に照らし合わせてそれぞれの濃度を求めた。
(実験方法)アルカリろ紙はNa2CO3 水溶液(70g/L)に蒸留水で湯煎して洗浄した後に簡易デジケータ内で乾燥させたろ紙(10×2cm)をつけて、一晩乾かしたものを用いた。そして、降灰や降雨からろ紙を守るために簡易曝露架台「ソーダ君」を作成、その中にろ紙を入れ、1週間から1ヶ月ほど野外に設置した。
(自作吸光光度計とそれを用いた濃度分析について)屋外設置を終えたアルカリろ紙は30分間70℃の蒸留水で湯煎して,その濾液を自作吸光光度計「輝ちゃん」(図3)を用いて濃度を決定した。塩化銀や硫酸バリウムによる比濁法には400nm程度の波長の光が必要なため吸光光度計には青色のLEDを用い、受光素子は光電流素子であるSiフォトダイオードを用いた。受光素子の電流値はテスターを用いて計測する。架台として,基板を用い,固定に針金とハンダを用いた。遮光には,黒色の薄いプラスチックを用いた。使用する際は,空のプラスチックセルを搭載した状態で118μAになるように調節してから箱を閉じて光を遮断した。また、HFの計測については元々市販のメーターを用いていたが用いる試料の量を節約するために専用の緑色ledとCdS素子を用いた「輝ちゃん」を作成してそれを用いて測定した。
HClはCl-として吸着するので硝酸銀水溶液を用いて塩化銀比濁法を行う。SO2はSO32-として吸着するので過酸化水素にて酸化を行い、SO42-にした上で塩化バリウム水溶液を用いて硫酸バリウム沈殿法にて濃度を行う。HFはF-にとして吸着するのでSPANDS試薬を用いて赤色の褪色を用いて濃度を測定した(図4、11)。
いずれにおいても試薬との反応前後の光電流の値を記録し、その光電流の比から吸光度を求め、それを予め作成した検量線(図13~15)に代入し濃度を求める。検量線はHCl、SO2については予め濃度が分かっている標準溶液(HClにはNaCl水溶液、SO2にはNa2CO3水溶液)を用いて作成した。HFの検量線にはメーターの示す濃度と「輝ちゃん」が示す値をもちいた。検量線の正確性を表すR2値がいずれの場合においても1に近く、「輝ちゃん」を用いた正確な火山ガス測定ができていることが分かった。
(実験結果及び考察)昨年4月から12月までの各地の火山ガス採取量の質量をまとめたものが図16である。また図17は桜島南岳火口から最も近い赤水における火山ガス観測の結果である。これらの結果から我々のアルカリろ紙法でHCl、HF、SO2の測定が可能だということが分かる。また、これらの図は県内の6地点(赤水、有村、桜島支所、鹿屋、国分、谷山)にて大気観測所によって計測されたSO2と我々のアルカリろ紙法によって計測されたそれぞれの火山ガス(HCl,HF,SO2)の関係を示した図と、それらの図を場所ごとに色を変えた図、季節(春夏4~9月と秋冬10~3月に分類した)によってどのように関係が変わるかを表した図である。これらの図から、全体的にSO2については火山由来のガスを正確に測れていると考えられるが、HFやHClのガスは火山性でない可能性が高いと考えられる。また、有村の秋冬の結果が飛び抜けて大きいことが分かった。これは、秋から冬になると季節風の影響が強まりまた、直射日光による大気の攪乱が少なくなったことによって、火山ガスが余り拡散せず風下である有村に降りてきたことに由来すると考えられる。また、その他のところについては、結果が火山ガスだけでなく、それ以外の要因(排気ガスや海水に含まれるNaCl)に影響を受けていることも考えられる。アルカリろ紙法は空気中の火山ガスを蓄積する方法なので、空気中には微量しか存在していなくても風が強ければ結果に大きな影響を与える可能性が考えられる。
(研究の展望)今後の目標としては、バックグランドの大気汚染物質の影響を避けるため火山ガスのみでなく、火山灰にも注目し、火山灰を化学分析してみることや、ドローンを用いて桜島の火山ガスを直接採取してその分析に取り組みたい。