日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

現地ポスター発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-06] 高校生ポスター発表

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 現地ポスター会場 (幕張メッセ展示ホール8)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(気象庁)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 13:45-15:15)

13:45 〜 15:15

[O06-P83] 歴史津波による寺社と家屋の被害の変遷

*宇野澤 すみれ1 (1. 栄東高等学校)

キーワード:歴史津波、寺社、流失率、再建


寺社の多くは数百年間建っているため、地震や津波に遭遇することが多い。そして津波による被害を受けた寺社は、その地域内に再建される。その際に、被災前よりも高い位置に再建され、次に発生した大津波では被害を受けにくくなっていると考えた。また、寺社は個人の住家や倉庫といった建物に比べると耐用年数が長い。そのため、過去に被災経験をもっている寺社の方が、家屋に比べて今日では津波による被害を受けにくくなっているという仮説を立てた。
これらの仮説の立証を、それぞれの地震ごとによる寺社の流失率を比較することと、ある地震においての寺社の流失率と家屋の流失率のそれぞれを比較することで試みた。対象にした地域は、神奈川県鎌倉市材木座・岩手県山田町・宮古市田老地区・重茂地区の四つである。
 まず、鎌倉市材木座に着目し、元禄地震(1703)・関東地震(1923)による津波の被害を調査し、流失率を得た(表1・表2)(鎌倉国宝館(2015)、鎌倉町(1930))。なお元禄地震の際の寺社の数は吉川弘文館編集館(2011)をもとに推測した。
その結果、関東地震のときの神社の流失率が、元禄地震のときの神社の流失率より低下していることがわかった(グラフ1)。しかし、元禄地震で津波による被害を受けた光明寺は、移転していなかったにも関わらず、関東地震で津波による被害は受けていない。そのため、流失率の低下には地震の規模の差異が反映されている可能性が払拭できず、元禄地震後移転した円応寺が関東地震による津波の被害を免れることができただけために流失率が低下したとは断言しがたい。一方で、関東地震において寺社の流失率は家屋の流失率よりも低く、関東地震においては寺社の方が家屋に比べて被害を受けにくくなっているとわかった。
次に岩手県山田町・宮古市田老地区と重茂地区に着目し、明治三陸地震(1898)・昭和三陸地震(1933)・東北地方太平洋沖地震(2011)における流失率を得た(表3・グラフ5)(昭和震災誌(1933)、宮古市(2011)、岩手県神社庁(2016))。なお、明治三陸地震による寺社の被害が記録に明記されていないことと、昭和三陸地震の際に神社のみが被災したことを踏まえ、これらの地域では神社の被害に重点を置いて調査を行った。
また山田町は、1955年に山田町・豊間根村・大沢村・織笠村・船越村が合併してできた町であるため、1995年以前に発生した明治三陸地震・昭和三陸地震においては、当時の山田町だけでなく豊間根村・大沢村・織笠村・船越村も調査対象にした。しかし、豊間根村は内陸に位置し、津波による被害がなかったため(町役場の職員の方に確認済みである)、豊間根村を除いた値を山田町の被害として示している。
調査の結果、山田町では、昭和三陸地震の家屋・神社の流出率に比べて、東北地方太平洋沖地震の家屋・神社の流出率がともに増加していた(グラフ2)。反対に宮古市田老地区では、少なくとも昭和三陸地震・東北地方太平洋沖地震において、神社の流出率は双方とも0%であり、変化がなかった(グラフ3)。また、その値は家屋の流失率よりも低かった。この二つの地域における神社の流出率の差異は、山田町に比べて明治三陸地震による津波の被害が田老地区において甚大であったためだと考えられるが、この考察を示す明治三陸地震における神社の被害に関する記述を見つけることができなかったため、現在もなお不明である。
重茂地区では、昭和三陸地震において神社の流出率の方が家屋の流出率より大きかった(グラフ4)。これは神社の母数が4とかなり少ないため、一つの神社の被害が誇張されてしまったためだと考えられる。また、明治三陸地震による被害のほうが昭和三陸地震の被害よりも大きかったことと自身の仮説を考慮すると、昭和三陸地震での神祠神社の社殿の流失は奇妙に思われるので、神祠神社が移転していたかを調査することを今後の課題としたい。
以上から寺社の流失率は地震の規模に依存する場合が多いことがわかった。そのため、震災経験があるためだけに流失率が低下するとは断言しがたい。しかし、多くの場合で寺社の流失率は家屋よりも低い傾向にあることがわかった。加えて、たとえ以前に発生した地震による寺社の流出率を、新しく発生した地震による寺社の流失率が上回ったとしても、その値はその地域において今回着目した地震による家屋の流出率の最大値よりも低かった。
今回の調査では四つの地域を対象にしたが、神社の詳細な被害に関する文献や寺社の母数が少なく、正確性に欠ける部分があった。そのため、今後の調査としては、流失率のみでなく、浸水・全壊も対象にした被災率も採用することで、値に被害の度合いをより正確に反映させた値を得ることを考えている。また、大正三陸地震や東北地方太平洋沖地震による被害の詳細な記録が残っている岩手県を中心に調査地域を広げ、対象の寺社の母数を増やし、データの精度を上げていきたい。