日本地球惑星科学連合2023年大会

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現地ポスター発表

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[O-06] 高校生ポスター発表

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 現地ポスター会場 (幕張メッセ展示ホール8)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(気象庁)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 13:45-15:15)

13:45 〜 15:15

[O06-P84] 昼の12時から5等星まで写るんです-望遠鏡に偏光フィルターとwebカメラをつけて青空に向けたら-

*野村 祐斗1、*松原 有輝1、*内山 悠杜1、高瀬 颯真1 (1. 名古屋高等学校)

キーワード:昼間の星、観測、円偏光フィルター、二重星、土星


Fan,Z.他 (2021)などに示されているように,太陽から90度程度離れた天頂付近の青空は光量の50%程度が偏光である。偏光フィルターを望遠鏡の光路に入れて回転すれば,青空の明るさが50%低減するはずであり,偏光度の低い昼間の天体が観測しやすくなるのではないかと考え,実証観測を行った。名古屋高校天文台の口径25cmの屈折望遠鏡に円偏光フィルターを装着して,webカメラで8月から12月にかけて,青空に浮かぶはくちょう座の二重星アルビレオの撮影を行った。すると,3等星の主星だけでなく5等星の伴星まで確認することができた。太陽の明るさが減少する16時から17時頃の観測では容易に確認でき,大気が安定し,シーイングの良い12月のある日には昼の12時台でも5等星が写っていることを確認できた。白昼12時台から5等星が観測できたという報告は,日本語検索では確認できず,2022年に名古屋中学校・高校が観測したのがおそらく初めてであると思われる。シーイングのよい日に限られるが,webカメラをデジタルアイピースとして使った観望会では昼間から5等星まで観望天体候補となりえる。これは,観望会を実施している団体にとって重要な知見であると考えられ,名古屋高校地球科学部(2023)として報告した。
<観測操作と結果>
 天体観望についての円偏光フィルターの効果を確認するために,ほぼ同じ時刻のアルビレオと土星について,円偏光フィルターを装着した撮影と取り外した撮影を行い,比較した。白昼の天体を肉眼で観測した場合,偏光フィルターがないと視界が真っ白になり,恒星や惑星が大変確認しづらかった。しかし,偏光フィルターを取り付け,回転させていくと,視野が暗くなり,アルビレオを視野の中心において観測したとき,3等星だけでなく5等星も見えることがあった。土星を視野の中心において観測したとき,土星の環の構造や縞模様が見やすくなることがあった。このように,肉眼では偏光フィルターが青空を暗くするために恒星や惑星を見やすくする効果が著しい。ところが,白昼の天体をwebカメラを使用して観測した場合,円偏光フィルターをつけたときと,差がほとんどなかった。アルビレオを視野の中心において観測したときは,円偏光フィルターがあったときもなかったときも暗い方の5等星が写っていた。土星についても環の構造の写り方が若干違っているものの,大きくは変わらなかった。
<昼間の星が5等星までしか見えない理由>
 昼間の星を望遠鏡で拡大して観測すると,空は拡大率が大きくなるにつれ暗くなるが,星(点光源)は拡大しても暗くならない。よって,拡大率を上げることによりコントラストが上がり,昼間の星が観測できる。この原理によれば,倍率さえ上げればいくら暗い星でも観測できるはずである。しかし,名古屋高校天文台の望遠鏡は64倍を超えると点光源であるはずの恒星が,ギザギザした光の塊に見えてしまう。64倍を超えると倍率を上げたときに恒星も輝度が低くなり,はっきりと視認できなくなる。そのため,倍率を上げることにより5等星までは観測できるが,それ以上倍率を上げてもぼんやりしてしまい,5等星
よりも暗い星は観測できないようである。
<肉眼で見た場合とwebカメラで観測した場合の偏光フィルターの効果の違い>
 今回利用したwebカメラは,肉眼に比べて赤外領域の感度が高い。赤外線は可視光線に比べて大気中を散乱されずに遠くまで到達する性質がある。昼間の大気に可視光線が散乱されるために可視光のみでは5等星を視認しづらい。しかし,赤外線は大気で散乱されにくいため,webカメラがその領域の赤外線による恒星の像を捉え,5等星を偏光フィルターなしで捉えることができたのではないかと考える。また,偏光フィルターは偏光でない光も20%程度低減させる。したがって,偏光フィルターをつけることによって,コントラストが上がって見やすくなる部分と偏光フィルターをつけることによってかえってコントラストが下がって見づらくなる部分とが打ち消し合って,どちらもある程度見えるようになるのではないかと考える。
文献
Fan, Z., Wang, X., Jin, H., Wang, C., Pan, N., & Hua, D. (2021). Neutral point detection using the AOP of polarized skylight patterns. Optics Express, 29(4), 5665-5676

名古屋高校地球科学部(2023).秋の昼間のアルビレオ―C-PLフィルターとwebカメラを使った昼間の惑星と恒星の観察―.「令和4年度 第37回 高文連自然科学専門部研究発表会研究集録」.愛知県高等学校文化連盟自然科学専門部http://kbrs.html.xdomain.jp/R04/paperR04_05.pdf (2023年4月11日確認)

図版説明
fig.1 Webカメラを装着し観測中の宇治天体精機25cm口径屈折望遠鏡"SKYMAX". fig.2 望遠鏡の接眼部(ドローチューブ-アイピースアダプター-カメラの接続関係).
fig.3 アイピースアダプターにC-PLフィルターを装着したようす.
fig.4 C-PL使用 アルビレオ 2022年12月26日12:36 アルビレオBが明瞭.(コンター図有)
fig.5 C-PL不使用 アルビレオ 2022年12月26日12:53 アルビレオBが不明瞭.(コンター図有)
fig.6 C-PL使用 土星 2022年11月11日16:53 カッシーニの空隙が確認できる.(3000枚から25枚合成)
fig.7 C-PL不使用 土星 2021年11月11日17:15 カッシーニの空隙が不明瞭.(3000枚から70枚合成)