13:45 〜 15:15
[O06-P92] 星の瞬きと高層気象~星と気象を結びつける~
キーワード:星、気象、大気
「星の瞬きの要因を調査して瞬きと高層気象との関係について考える」
東京都立戸山高等学校 2年 綿引 蒼太朗
○研究動機
小学生の頃、区の星空観察のイベントによく通っていた僕は、ある時「なぜ星はチカチカ光るんだろう」ということを発見し、疑問に思っていた。そこで、その「瞬き」と「大気」にはどういった因果関係があるのかを調査してみようと思い立ち、この研究を始めた。
○課題
星の瞬きを定量的に捉え、大気が星の瞬きに与える影響について分析する。
○観測・分析方法
① 気象庁の高層気象台でラジオゾンデ観測が行われる20:30~22:00の間に、光害の少ない荒川土手下で観測を行う。
②一眼レフカメラ(ISO感度5000、シャッタースピード1/200、望遠鏡に接続するため絞り値は設定不可、4K)と天体望遠鏡(口径80mm、焦点距離900mmを接続し、星を30秒間、動画として撮影する。
→撮影する星は0等級~5等級までの各等級で2つずつと、季節によって金星・火星・木星・土星・シリウス
◎分析
③計測した、撮影時の瞬間風速・気温・湿度・気圧のデータ、東京都環境局ホームページから入手した空気中の汚染物質・平均風速(21時地点)・風向(16方位) のデータ、そして気象庁ホームページから入手したラジオゾンデの観測データを記録する。星の高度・方位は観測に使用しているアプリから入手する。
④動画は、ソフト(実行されることは僕が提案し、プログラミングは専門の方にお願いした)で分析する。
★ソフトで行われる作業について
1. 30秒間の動画を計720フレームの画像に分解する
2. フレーム画像の相対的に明るい箇所(星の部分)を判別する
3. 以下の関数を用いて判別した部分のピクセルの平均輝度を求める。
N−1 M−1
μ=1/MN* ∑ ∑ src(i,j)
i=0 j=0
画像のサイズをM×Nとしたとき、その画像の画素値の平均値をμとする。
※ただし、src(i,j)は画像の位置(i,j)の画素値を表す。
⑤ 720フレーム分の輝度データから標準偏差をとり、瞬きの指標とする。
(以降、これを瞬き偏差と呼ぶ。)
○観測結果
→予備観測では、瞬きの三要素「星の等級」「星の高度」「気象要素」が分かった。この各要素について個別に分析していく。
①星の等級と瞬き偏差の関係について(図1)
・3等星から-1.46等のシリウスに至るまで、等級が低くなるほど瞬き偏差は小さくなっていった。
・3等星から5等星まででは、等級が高くなるほど瞬き偏差は小さくなっていった。
・日による瞬き偏差の変化の幅は、3等星が最も大きかった。
◎考察
点光源である星の光において、等級の低い星ほど光子の密度が大きく、大気の影響を受けにくいため、瞬き偏差は等級が低くなるほど小さくなったと考えられる。一方、4・5等級の星は、大気の影響は受けやすいものの、その明るさの小ささから、輝度値を幅広くとることができず、3~5等星では等級が高くなるほど瞬き偏差が小さくなっていったと考えられる。以上より、3等星ほどの明るさの星光は、程よく大気の影響を受けやすく、また輝度値も幅広くとることができるため、変化の幅が最も大きいと考えられる。
②星の高度と瞬き偏差の関係について(図2)
・低い高度の星ほど瞬き偏差は大きかった。
・星の高度と瞬き偏差には負の相関がみられるものの、ばらつきも大きかった。
◎考察
星光が大気を通過する距離は、その星の高度が低くなるほど長くなる。ゆえに、高度の低い星ほどより大気の影響を受けやすいため、瞬き偏差が大きくなったのだと考えられる。一方、気象要素による瞬きへの干渉も大きいため、星の高度と瞬き偏差の相関が弱まり、ばらつきも大きくなったのだと考えられる。
③気象要素と瞬き偏差の関係について(図3)
・大気圧が大きくなるほど、瞬き偏差は小さくなった。
・地上気温、高層風速、地上風速は、それぞれ値が大きくなるほど瞬き偏差も大きくなった。
◎考察
高気圧・低気温時の空気は圧縮、低気圧・高気温時の空気は膨張している。膨張した空気は分子の運動が活発になるため、より激しく星光を屈折させると考えられる。ゆえに、低気圧・高気温になるほど瞬き偏差は大きくなると考えられる。また、風速は大気の揺らぎと直接関係しているため、瞬き偏差と正の相関を示したと考えられる。
○今後の展望
星の等級・高度と瞬き偏差の大まかな関係は解明できた。そこで、今後は気象要素と瞬き偏差の関係についてより詳しく分析していきたいと考えている。そのためには、等級・高度の影響を最小限に抑える必要がある。等級については、各等級において瞬き偏差との関係の傾向が異なるため、等級ごとに分けて気象要素との関係を分析していく必要があると考えている。また、星光の大気を通る距離を計算した結果、高度50°~90°の星はあまりその距離に違いがないことが分かった。そのため、高度50°以上の星のみを観測していれば、高度による影響を抑えられると考えられる。瞬き偏差を考えたとき、実際に高度50°以上の星に変化がないのかは、現在調査中である。
○参考文献
・OpenCV-画像の要約統計量を計算する方法について https://pystyle.info/opencv-image-statistics/
・気象庁ホームページ https://www.jma.go.jp/jma/index.html
・StarSense Explorer(観測時に使用するアプリ)
・東京都環境局ホームページ https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp
◎先行研究
・日本気象学会 “星の瞬きと気象要素-國學院大學栃木高校”
https://www.jss.or.jp/fukyu/mentor/data/2014obana_slide.pdf
・星の瞬きの定量的観測-千葉県立船橋高等学校
https://www.chiba -c.ed.jp/funako/fttp_kousin/ssh/reserch/2017/2017_22g6.pdf
東京都立戸山高等学校 2年 綿引 蒼太朗
○研究動機
小学生の頃、区の星空観察のイベントによく通っていた僕は、ある時「なぜ星はチカチカ光るんだろう」ということを発見し、疑問に思っていた。そこで、その「瞬き」と「大気」にはどういった因果関係があるのかを調査してみようと思い立ち、この研究を始めた。
○課題
星の瞬きを定量的に捉え、大気が星の瞬きに与える影響について分析する。
○観測・分析方法
① 気象庁の高層気象台でラジオゾンデ観測が行われる20:30~22:00の間に、光害の少ない荒川土手下で観測を行う。
②一眼レフカメラ(ISO感度5000、シャッタースピード1/200、望遠鏡に接続するため絞り値は設定不可、4K)と天体望遠鏡(口径80mm、焦点距離900mmを接続し、星を30秒間、動画として撮影する。
→撮影する星は0等級~5等級までの各等級で2つずつと、季節によって金星・火星・木星・土星・シリウス
◎分析
③計測した、撮影時の瞬間風速・気温・湿度・気圧のデータ、東京都環境局ホームページから入手した空気中の汚染物質・平均風速(21時地点)・風向(16方位) のデータ、そして気象庁ホームページから入手したラジオゾンデの観測データを記録する。星の高度・方位は観測に使用しているアプリから入手する。
④動画は、ソフト(実行されることは僕が提案し、プログラミングは専門の方にお願いした)で分析する。
★ソフトで行われる作業について
1. 30秒間の動画を計720フレームの画像に分解する
2. フレーム画像の相対的に明るい箇所(星の部分)を判別する
3. 以下の関数を用いて判別した部分のピクセルの平均輝度を求める。
N−1 M−1
μ=1/MN* ∑ ∑ src(i,j)
i=0 j=0
画像のサイズをM×Nとしたとき、その画像の画素値の平均値をμとする。
※ただし、src(i,j)は画像の位置(i,j)の画素値を表す。
⑤ 720フレーム分の輝度データから標準偏差をとり、瞬きの指標とする。
(以降、これを瞬き偏差と呼ぶ。)
○観測結果
→予備観測では、瞬きの三要素「星の等級」「星の高度」「気象要素」が分かった。この各要素について個別に分析していく。
①星の等級と瞬き偏差の関係について(図1)
・3等星から-1.46等のシリウスに至るまで、等級が低くなるほど瞬き偏差は小さくなっていった。
・3等星から5等星まででは、等級が高くなるほど瞬き偏差は小さくなっていった。
・日による瞬き偏差の変化の幅は、3等星が最も大きかった。
◎考察
点光源である星の光において、等級の低い星ほど光子の密度が大きく、大気の影響を受けにくいため、瞬き偏差は等級が低くなるほど小さくなったと考えられる。一方、4・5等級の星は、大気の影響は受けやすいものの、その明るさの小ささから、輝度値を幅広くとることができず、3~5等星では等級が高くなるほど瞬き偏差が小さくなっていったと考えられる。以上より、3等星ほどの明るさの星光は、程よく大気の影響を受けやすく、また輝度値も幅広くとることができるため、変化の幅が最も大きいと考えられる。
②星の高度と瞬き偏差の関係について(図2)
・低い高度の星ほど瞬き偏差は大きかった。
・星の高度と瞬き偏差には負の相関がみられるものの、ばらつきも大きかった。
◎考察
星光が大気を通過する距離は、その星の高度が低くなるほど長くなる。ゆえに、高度の低い星ほどより大気の影響を受けやすいため、瞬き偏差が大きくなったのだと考えられる。一方、気象要素による瞬きへの干渉も大きいため、星の高度と瞬き偏差の相関が弱まり、ばらつきも大きくなったのだと考えられる。
③気象要素と瞬き偏差の関係について(図3)
・大気圧が大きくなるほど、瞬き偏差は小さくなった。
・地上気温、高層風速、地上風速は、それぞれ値が大きくなるほど瞬き偏差も大きくなった。
◎考察
高気圧・低気温時の空気は圧縮、低気圧・高気温時の空気は膨張している。膨張した空気は分子の運動が活発になるため、より激しく星光を屈折させると考えられる。ゆえに、低気圧・高気温になるほど瞬き偏差は大きくなると考えられる。また、風速は大気の揺らぎと直接関係しているため、瞬き偏差と正の相関を示したと考えられる。
○今後の展望
星の等級・高度と瞬き偏差の大まかな関係は解明できた。そこで、今後は気象要素と瞬き偏差の関係についてより詳しく分析していきたいと考えている。そのためには、等級・高度の影響を最小限に抑える必要がある。等級については、各等級において瞬き偏差との関係の傾向が異なるため、等級ごとに分けて気象要素との関係を分析していく必要があると考えている。また、星光の大気を通る距離を計算した結果、高度50°~90°の星はあまりその距離に違いがないことが分かった。そのため、高度50°以上の星のみを観測していれば、高度による影響を抑えられると考えられる。瞬き偏差を考えたとき、実際に高度50°以上の星に変化がないのかは、現在調査中である。
○参考文献
・OpenCV-画像の要約統計量を計算する方法について https://pystyle.info/opencv-image-statistics/
・気象庁ホームページ https://www.jma.go.jp/jma/index.html
・StarSense Explorer(観測時に使用するアプリ)
・東京都環境局ホームページ https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp
◎先行研究
・日本気象学会 “星の瞬きと気象要素-國學院大學栃木高校”
https://www.jss.or.jp/fukyu/mentor/data/2014obana_slide.pdf
・星の瞬きの定量的観測-千葉県立船橋高等学校
https://www.chiba -c.ed.jp/funako/fttp_kousin/ssh/reserch/2017/2017_22g6.pdf