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[PCG18-03] 火星隕石のEPMA元素マップによるK-Arアイソクロン年代の決定精度の統計的解析
キーワード:K-Ar、LIBS、火星隕石、EPMA
研究の重要性:惑星科学において惑星表層の絶対年代を決定することは、惑星進化史の解明にとって必要不可欠である。特に火星においては過去の温暖湿潤気候の持続期間や惑星内部の活動に起因する火山活動の時期などを特定するために年代決定が必要である。現在の火星表層年代の決定に用いられているクレーター年代学は月のクレーター密度関数に補正をかけて計算されているが、数億年程度の不確定性があり校正のためには場所と形成年代が対応づけられたサンプルが必要となる。NASAによって火星からのサンプルリターンが計画されているものの、火星からのリターンはコストが高く、その場年代測定も有用であると考えられる。現在、その場測定可能な新しいK-Ar年代の測定法の開発が進んでいる(e.g., Cohen et al., 2014; Devismes et al., 2016; Cho & Cohen, 2018; Cattani et al., 2019)。この測定方法はレーザーによって局所分析することでアイソクロンを生成することができ、この方法を用いてカリウムに富む地球の岩石や玄武岩などの分析結果が報告されている。
先行研究:この測定方法で一般的にカリウム濃度が1000~3000 ppm 程度と低い火星のサンプルの測定を目指し改良を進めている。K-Arアイソクロン年代が達成可能な年代決定精度について理論的な計算やシミュレーションから評価を行った先行研究がある。Bogard (2009)は、アイソクロンのデータ点をガウシアンから生成し、データ点の取りうる範囲がアイソクロンの傾きの誤差に与える影響を調べた。そこではカリウムとアルゴン濃度は10%の精度のとき、データ点10点のカリウム濃度の取り得る範囲を2倍以上にすることで年代決定精度としては10–30%が達成できるとしている。また、Cho et al. (2016)はカリウムとアルゴン濃度の測定精度が年代決定精度に与える影響を評価している。
先行研究の問題点:しかしながら、どちらの研究も今後その場測定の対象となる火星岩石の鉱物分布を反映した検討は行われておらず、実際に火星岩石を局所分析した時のカリウム濃度の取り得る範囲や火星表層で岩石を測定したときのK-Arアイソクロン年代の決定精度については分かっていない。
研究目的:そこで本研究では、カリウム濃度やアルゴン濃度の測定精度、アイソクロンのデータ点の数、鉱物分布の違い、形成年代やレーザー局所分析におけるスポット径の大きさといった各種測定条件で達成可能な年代決定精度を明らかにすることを目指す。
研究手法:本研究では火星隕石のシャーゴッタイトNWA1068, ZagamiとナクライトNWA817のEPMA分析から得られた鉱物組成マップからカリウム濃度マップを作成し、得られたカリウム濃度マップに対して、様々な年代で蓄積される放射壊変由来の40Ar量を計算し、火星の古い火成岩にレーザーを照射し計測する状況を仮想的に模擬した。ランダムに火星隕石にレーザー照射したとしたときに、複数の測定条件を変化させてアイソクロンのシミュレーションを行い、年代決定精度を統計的に計算した。
結果:カリウム濃度の取り得る範囲については、バルク濃度がNWA1068は0.13 wt%, NWA817は0.32 wt% (Sautter et al., 2002)だが、レーザースポット径500 μm, 掘削深さ500 μmの条件でそれぞれ、0.06–0.94 wt%, 0.13–0.97 wt%と幅広いカリウム濃度を取りうることが分かった。一方、Zagamiではバルク濃度0.17 wt%に対して0.14–0.34 wt%と他の二つに比べ狭いカリウム濃度範囲しか取らないことも分かった。隕石の鉱物分布を反映したカリウム濃度分布によるアイソクロンのシミュレーションでは、NWA817と同様の組織を持つ岩石やNWA1068的な岩石において、アイソクロンのデータ点のカリウム濃度幅(カリウム濃度最大とカリウム濃度最小の比)が4以上になるようなデータ点のセットでは20%以下の精度で年代を決定できる可能性があるという結果を得た。Zagami的な岩石ではそもそもカリウム濃度幅が4以上となりえないため年代決定精度の統計的なばらつきが大きく、最も良いデータセットでも20%程度になることも明らかとなった。また、EPMAから得たシミュレーションは開発中の装置によるカリウム濃度の測定結果と整合的な結果であった。(図1)
本研究の持つ意義:以上本研究の結果から、レーザー径500 μmの装置においてはアイソクロンのデータ点15点かつカリウム濃度とアルゴン濃度の測定精度測定精度がそれぞれ8%以下であれば、40億年前の火星岩石のK年代が2億年の精度で求まることが分かった。我々のシミュレーションは火星岩石の年代決定に必要な精度を達成するための装置や鉱物組成の条件を明らかにした。
先行研究:この測定方法で一般的にカリウム濃度が1000~3000 ppm 程度と低い火星のサンプルの測定を目指し改良を進めている。K-Arアイソクロン年代が達成可能な年代決定精度について理論的な計算やシミュレーションから評価を行った先行研究がある。Bogard (2009)は、アイソクロンのデータ点をガウシアンから生成し、データ点の取りうる範囲がアイソクロンの傾きの誤差に与える影響を調べた。そこではカリウムとアルゴン濃度は10%の精度のとき、データ点10点のカリウム濃度の取り得る範囲を2倍以上にすることで年代決定精度としては10–30%が達成できるとしている。また、Cho et al. (2016)はカリウムとアルゴン濃度の測定精度が年代決定精度に与える影響を評価している。
先行研究の問題点:しかしながら、どちらの研究も今後その場測定の対象となる火星岩石の鉱物分布を反映した検討は行われておらず、実際に火星岩石を局所分析した時のカリウム濃度の取り得る範囲や火星表層で岩石を測定したときのK-Arアイソクロン年代の決定精度については分かっていない。
研究目的:そこで本研究では、カリウム濃度やアルゴン濃度の測定精度、アイソクロンのデータ点の数、鉱物分布の違い、形成年代やレーザー局所分析におけるスポット径の大きさといった各種測定条件で達成可能な年代決定精度を明らかにすることを目指す。
研究手法:本研究では火星隕石のシャーゴッタイトNWA1068, ZagamiとナクライトNWA817のEPMA分析から得られた鉱物組成マップからカリウム濃度マップを作成し、得られたカリウム濃度マップに対して、様々な年代で蓄積される放射壊変由来の40Ar量を計算し、火星の古い火成岩にレーザーを照射し計測する状況を仮想的に模擬した。ランダムに火星隕石にレーザー照射したとしたときに、複数の測定条件を変化させてアイソクロンのシミュレーションを行い、年代決定精度を統計的に計算した。
結果:カリウム濃度の取り得る範囲については、バルク濃度がNWA1068は0.13 wt%, NWA817は0.32 wt% (Sautter et al., 2002)だが、レーザースポット径500 μm, 掘削深さ500 μmの条件でそれぞれ、0.06–0.94 wt%, 0.13–0.97 wt%と幅広いカリウム濃度を取りうることが分かった。一方、Zagamiではバルク濃度0.17 wt%に対して0.14–0.34 wt%と他の二つに比べ狭いカリウム濃度範囲しか取らないことも分かった。隕石の鉱物分布を反映したカリウム濃度分布によるアイソクロンのシミュレーションでは、NWA817と同様の組織を持つ岩石やNWA1068的な岩石において、アイソクロンのデータ点のカリウム濃度幅(カリウム濃度最大とカリウム濃度最小の比)が4以上になるようなデータ点のセットでは20%以下の精度で年代を決定できる可能性があるという結果を得た。Zagami的な岩石ではそもそもカリウム濃度幅が4以上となりえないため年代決定精度の統計的なばらつきが大きく、最も良いデータセットでも20%程度になることも明らかとなった。また、EPMAから得たシミュレーションは開発中の装置によるカリウム濃度の測定結果と整合的な結果であった。(図1)
本研究の持つ意義:以上本研究の結果から、レーザー径500 μmの装置においてはアイソクロンのデータ点15点かつカリウム濃度とアルゴン濃度の測定精度測定精度がそれぞれ8%以下であれば、40億年前の火星岩石のK年代が2億年の精度で求まることが分かった。我々のシミュレーションは火星岩石の年代決定に必要な精度を達成するための装置や鉱物組成の条件を明らかにした。