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[PCG19-06] MAVENとMEXの多地点観測による上流プロトンサイクロトロン波動が火星電離圏にULF波動を駆動する確率の推定
キーワード:Mars Atmosphere and Volatile EvolutioN (MAVEN)、Mars Express (MEX)、多点観測、火星と太陽風の相互作用、プロトンサイクロトロン波動、ULF磁気音波
火星は非磁化惑星であるため、火星-太陽風相互作用で生じた現象が惑星に直接的に、そして大きな影響を与えうる。そのような現象のうちで重要なものの一つとして、プロトンサイクロトロン波動(PCW)が知られている。PCWは火星のバウショック上流で発生し、衛星系から見て左回りの(楕)円偏波という特徴を持ち、その周波数は上流のプロトンジャイロ周波数に近い値をとることが分かっている。Phobos-2によって初めて波動が観測されて以来(Barabash et al., 1991; Riedler et al., 1989; Russell et al., 1990, 1992)、後続するオービターの観測からその発生・伝搬メカニズムや空間分布が詳細に調べられてきた。例えば、Mars Global Surveyor (MGS)やMars Atmosphere and Volatile EvolutioN (MAVEN)による統計解析によって、波動は上流の広い範囲に発生することや(Brain et al., 2002; Romeo et al., 2021)、その発生率には強い季節性があり、近日点付近でピークをとることが分かった(Romeo et al., 2021)。このことから、波動は主に火星の南半球の夏にバウショックを超えて広がった水素外圏コロナ由来の新生ピックアッププロトンとのサイクロトロン共鳴によって発生すると考えられている(Collinson et al., 2018; Romeo et al., 2021)。また、MAVENの観測に基づく事例解析によって、上流の波動はその特性を変化させながら太陽風によって火星方向に吹き流されていき、圧力パルスとして誘導磁気圏を打ち鳴らすことによって電離圏内に上流のPCWと近い周波数にピークを持つ新たな圧縮性のULF磁気音波を駆動することが明らかにされている(Collinson et al., 2018; Fowler et al., 2018, 2021)。電離圏内に駆動されたULF波動は、波動-粒子相互作用によって惑星由来の重イオン(O+, O2+, CO2+)を加熱しうると考えられている(Fowler et al., 2021)。
しかし、これまでの研究では、主に単一機による観測結果に基づいた議論しか行われてこなかった(Collinson et al., 2018によってMars Express (MEX)とMAVENによる同時観測イベントが1つ報告されているが、その議論は限定的なものにとどまっている)。そのため、観測機の軌道が主な制約となって、波動の伝搬に関する統計的性質、特に上流で発生した波動がどの程度の割合で電離圏に新たなULF波動を駆動するのか(本研究で“ringing” probabilityと定義)が明らかにされてこなかった。
本研究では、この課題に対してMAVENとMEXを用いた波動の準同時多地点観測によってアプローチした。まず、MAVENがバウショックの上流で磁力計によってPCWの存在を監視している間に、MEXが電離圏で観測装置Advanced Radar for Subsurface and Ionosphere Sounding (MARSIS)をActive Ionospheric Sounding (AIS)モードで稼働しているイベントを多数同定した。その後、MARSISの観測データを可視化したものである、イオノグラム上に現れる電子サイクロトロンエコーを利用した目視による磁場強度推定を各イベントに対して行い(Akalin et al., 2010; Gurnett et al., 2005)、上流PCWの周波数に近いピークを持つ磁場強度の変動の有無を、アルゴリズムを開発することによって自動判別した。MEXの観測データから各時刻で電離圏に波動が存在しているかどうかを自動判別することで“ringing” probabilityを推定すると、それは種々のパラメータ(例えば、太陽風パラメータやMEXの観測高度・太陽天頂角など)に依存することが分かった。特に、昼側(SZA<80°)での“ringing” probabilityはおよそ30%、昼側で太陽風動圧が高い状況(SZA<80°, Pdyn>3.0 nPa)ではおよそ65%であった。また、上流でPCWが発生しているときのPCWの周波数帯における電離圏内の磁場強度変動のパワーは、そうでない場合と比較して、平均すると2–3倍強かった。このように、バウショック上流で発生したPCWが電離圏内へ新たな波動を駆動するプロセスは珍しいものではなく、太陽風から火星への長期的なエネルギー入力という観点からも興味深い現象であるといえる。
しかし、これまでの研究では、主に単一機による観測結果に基づいた議論しか行われてこなかった(Collinson et al., 2018によってMars Express (MEX)とMAVENによる同時観測イベントが1つ報告されているが、その議論は限定的なものにとどまっている)。そのため、観測機の軌道が主な制約となって、波動の伝搬に関する統計的性質、特に上流で発生した波動がどの程度の割合で電離圏に新たなULF波動を駆動するのか(本研究で“ringing” probabilityと定義)が明らかにされてこなかった。
本研究では、この課題に対してMAVENとMEXを用いた波動の準同時多地点観測によってアプローチした。まず、MAVENがバウショックの上流で磁力計によってPCWの存在を監視している間に、MEXが電離圏で観測装置Advanced Radar for Subsurface and Ionosphere Sounding (MARSIS)をActive Ionospheric Sounding (AIS)モードで稼働しているイベントを多数同定した。その後、MARSISの観測データを可視化したものである、イオノグラム上に現れる電子サイクロトロンエコーを利用した目視による磁場強度推定を各イベントに対して行い(Akalin et al., 2010; Gurnett et al., 2005)、上流PCWの周波数に近いピークを持つ磁場強度の変動の有無を、アルゴリズムを開発することによって自動判別した。MEXの観測データから各時刻で電離圏に波動が存在しているかどうかを自動判別することで“ringing” probabilityを推定すると、それは種々のパラメータ(例えば、太陽風パラメータやMEXの観測高度・太陽天頂角など)に依存することが分かった。特に、昼側(SZA<80°)での“ringing” probabilityはおよそ30%、昼側で太陽風動圧が高い状況(SZA<80°, Pdyn>3.0 nPa)ではおよそ65%であった。また、上流でPCWが発生しているときのPCWの周波数帯における電離圏内の磁場強度変動のパワーは、そうでない場合と比較して、平均すると2–3倍強かった。このように、バウショック上流で発生したPCWが電離圏内へ新たな波動を駆動するプロセスは珍しいものではなく、太陽風から火星への長期的なエネルギー入力という観点からも興味深い現象であるといえる。