日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG19] 惑星大気圏・電磁圏

2023年5月26日(金) 10:45 〜 11:45 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:前澤 裕之(大阪公立大学大学院理学研究科物理学専攻 宇宙・高エネルギー物理学講座)、寺田 直樹(東北大学大学院理学研究科)、関 華奈子(東京大学大学院理学系研究科)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)、座長:坂田 遼弥(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、関 華奈子(東京大学大学院理学系研究科)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)

11:30 〜 11:45

[PCG19-09] 硫酸塩へのプラズマ照射実験によるエウロパ表層物質の内部海起源説の検証

*大槻 美沙子1木村 智樹1北野 智大1星野 亮1仲内 悠祐2土屋 史紀3木村 淳4丹 秀也5 (1.東京理科大学、2.宇宙航空研究開発機構、3.東北大・理・惑星プラズマ大気、4.大阪大学、5.東京工業大学地球生命研究所)


キーワード:エウロパ、表層組成

木星の氷衛星エウロパは氷地殻の下に内部海を持つとされる。内部海の化学組成の理解はハビタビリティ解明の上で最重要の課題である。エウロパ表層物質の主要元素の一つである硫黄は、内部海起源の硫酸塩として供給される説 [Kargel et al., 2000]と、イオの火山ガス起源の硫黄イオンとして木星磁気圏から供給される説 [Alvarellos et al., 2008]の2つの仮説が提案されている。木星磁気圏からの高エネルギープラズマの照射により表層物質は化学組成の変化を繰り返し、硫黄を含んだ特定の物質間を循環するサイクルを形成すると示唆されている [Carlson et al., 2002] 。この繰り返される化学変化により起源の解明は阻まれており、内部海起源説と外部起源説はいずれも未検証である。そこで本研究ではエウロパ表層や内部海の構成物質の候補の1つである硫酸マグネシウム(MgSO4)への酸素イオンと電子の照射により表層での化学サイクルを実験室で再現し、内部海起源説の検証に取り組んだ。実験の結果、MgSO4から新たにS8等の硫黄同素体、二酸化硫黄(SO2)、硫化水素(H2S)、硫酸(H2SO4)、四酸化硫黄(SO4)が生成されることが判明し、初めてエウロパ表層の硫黄化学サイクルを実験的に再現することができた。実験で得られた各物質の生成率からMgSO4が枯渇するまでの時間を数値シミュレーションしたところ、酸素イオン照射では1.3e+5年、電子照射では1.7e+3年と見積もられた。またそれぞれの枯渇断面積は1.2e-18cm2, 7.1e-19cm2 と推定された。実際のエウロパ環境を想定し、求めた枯渇断面積を用いて電子と酸素イオンの同時照射によるMgSO4の枯渇年数をシミュレーションした結果1.7e+3年と見積もられた。また、枯渇までに生成されたS8, SO2, H2S, H2SO4, SO4の総量は硫黄原子の個数比でもとのMgSO4の14.2%, 30.1%, 37.4%, 2.21%, 16.2%であった。この1.7e+3年というライフタイムはクレーター年代学等で示唆されているエウロパの平均表層年代1e+7年よりも十分短く、内部海起源の硫酸塩は表層の地質学的プロセスで更新されるより先にプラズマ照射によって枯渇すると考えられる。先行研究では探査機赤外観測によって、水噴出が活発と思われる一部の地形に硫酸塩や硫酸の水和物の存在が示唆されている[Carlson et al., 2009]。内部海起源説に立脚し仮にこの地形に硫酸塩が存在しているとすると、この地形では~2e+3年以内に海水噴出等により硫酸塩が内部海から表層へ供給され、化学サイクルを経験しつつも枯渇せずに生存していることを示唆している。今後は硫黄同素体を母物質とする照射実験や化学組成のシミュレーションによってさらに内部起源説を検証する。また氷表層へ降り込んだイオ起源の硫黄を想定した照射実験により、外部起源説を検証することで、エウロパ上の硫黄の起源解明に取り組む。