15:30 〜 17:00
[PCG19-P06] 塩化ナトリウムへのプラズマ照射実験と物理化学モデリングによるエウロパの希薄大気生成と表層組成の解明
キーワード:エウロパ、氷衛星、プラズマ照射実験、希薄大気
木星の氷衛星であるエウロパは、内部海を持つことから生命の存在可能性が示唆されている天体の1つである。その内部海と表層の間では水や塩などの物質の輸送が行われている可能性があり、エウロパ表層の物質組成等の理解は内部海環境の理解につながる。エウロパでは、宇宙空間からのプラズマや紫外線などが表層物質に照射され、宇宙風化が起こる。木星氷衛星で宇宙風化の主要因とされるプラズマは表層でスパッタリングを引き起こし、それにより弾き出された粒子はエウロパの希薄大気を生成する一方、表層物質の組成は変化すると考えられる。しかし、その一連の生成過程は物理・化学的に複雑で、プラズマスパッタリングによる希薄大気生成と表層風化に伴う組成の変化について、定量的な関連付けは未だなされていない。
そこで、本研究では、エウロパ表層候補物質であるNaClにH2+,O2+,電子を同条件(10 keV, 5e+18 particles/cm2)で照射し、初めてエウロパ環境におけるスパッタリングと表層物質の組成変化を再現した。 その結果、エウロパ環境下ではイオンに比べ、電子の方が効率的にスパッタリングを起こすことが明らかになった。例えば、 水素イオンと酸素イオンの照射によるNa大気の生成率の合計が2.7e+5 #/cm^2/sである一方、電子照射による生成率は1.1e+6 #/cm^2/sであった。また、塩素原子はNa原子よりも効率的にスパッタリングされることがわかった。例えば、水素イオンと酸素イオンの照射によるNa大気のyieldの合計は2.8e-2 /incident particleであり、同照射によるCl大気の生成率は8.7e-1 /incident particleであった。上記より、エウロパ環境下では、NaClが主に電子照射により乖離し希薄大気を生成するが、NaよりもClが効率よく揮発することでNaが表層に濃縮されることが示唆された。
実験で得たNaのyieldを制約条件とした0次元大気モデリングに基づき、エウロパNa大気の柱密度を見積もった結果、Na希薄大気の地上望遠鏡観測による柱密度の見積もり[Brown and Hill 1996]と同程度になった。この柱密度は770kgの大気総量に相当する。照射実験に用いたNaClサンプルは濃度が100%であることから、今回のNa大気モデリングの結果は、表層でNaClが高濃度で存在することを示唆する。内部海由来と考えられるNaClが内部海から表層に湧昇する過程、もしくは表層へ噴出したあとの宇宙風化により濃縮されている可能性がある。
現在、Na大気モデルを1−3次元に拡張し、エウロパ重力下での粒子運動を考慮したNa希薄大気の空間分布を推定している。本研究の照射実験結果を境界条件として、開発したモデルでNa希薄大気分布を推定し、実際の大気分布観測[Brown and Hill 1996]と比較することで、表層のNaCl濃度をより高精度で制約していく予定である。本発表では現状を紹介する。
そこで、本研究では、エウロパ表層候補物質であるNaClにH2+,O2+,電子を同条件(10 keV, 5e+18 particles/cm2)で照射し、初めてエウロパ環境におけるスパッタリングと表層物質の組成変化を再現した。 その結果、エウロパ環境下ではイオンに比べ、電子の方が効率的にスパッタリングを起こすことが明らかになった。例えば、 水素イオンと酸素イオンの照射によるNa大気の生成率の合計が2.7e+5 #/cm^2/sである一方、電子照射による生成率は1.1e+6 #/cm^2/sであった。また、塩素原子はNa原子よりも効率的にスパッタリングされることがわかった。例えば、水素イオンと酸素イオンの照射によるNa大気のyieldの合計は2.8e-2 /incident particleであり、同照射によるCl大気の生成率は8.7e-1 /incident particleであった。上記より、エウロパ環境下では、NaClが主に電子照射により乖離し希薄大気を生成するが、NaよりもClが効率よく揮発することでNaが表層に濃縮されることが示唆された。
実験で得たNaのyieldを制約条件とした0次元大気モデリングに基づき、エウロパNa大気の柱密度を見積もった結果、Na希薄大気の地上望遠鏡観測による柱密度の見積もり[Brown and Hill 1996]と同程度になった。この柱密度は770kgの大気総量に相当する。照射実験に用いたNaClサンプルは濃度が100%であることから、今回のNa大気モデリングの結果は、表層でNaClが高濃度で存在することを示唆する。内部海由来と考えられるNaClが内部海から表層に湧昇する過程、もしくは表層へ噴出したあとの宇宙風化により濃縮されている可能性がある。
現在、Na大気モデルを1−3次元に拡張し、エウロパ重力下での粒子運動を考慮したNa希薄大気の空間分布を推定している。本研究の照射実験結果を境界条件として、開発したモデルでNa希薄大気分布を推定し、実際の大気分布観測[Brown and Hill 1996]と比較することで、表層のNaCl濃度をより高精度で制約していく予定である。本発表では現状を紹介する。