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[PCG20-06] 反応ライン予測式: 原始惑星系円盤におけるダスト粒子の3Dモンテカルロシミュレーション
キーワード:原始惑星系円盤、原始太陽系円盤、反応ライン、ダスト、化学反応
太陽系天体は、原始太陽系円盤においてダストが集積して形成された。そのため、進化する原始惑星系円盤でダストが経験する化学反応は、化学的性質の動径分布を形成するにあたって重要な役割を果たしたと考えられる。蒸発、凝縮、固相-気相反応、結晶化といった様々な反応が、円盤の広い温度領域、すなわち円盤のあらゆる領域で進行する。異なる反応を異なる程度だけ経験したダストの集積は、天体の化学的多様性を引き起こす。従って、原始太陽系円盤におけるダストの反応進行を理解することは、太陽系の歴史を理解する上で重要である。
Ciesla (2011) は、定常降着円盤を運動する粒子の軌跡を追跡するモンテカルロシミュレーションを開発し、非晶質ケイ酸塩ダストの結晶化について反応速度論を取り入れて計算することで、ダストがある温度を経験するか否かで結晶質ないし非晶質に二極化されることを示した。またStanford & Ciesla (2012) は、同様のモンテカルロシミュレーションによって原始惑星系円盤において氷ダストが曝される環境を追跡し、複雑な有機分子を生産するのに十分なUV照射および加熱を経験することを示した。このように、移流・拡散によって運動するダスト粒子の化学反応を個別に扱った研究はいくつか存在するが、原始惑星系円盤内の広い温度範囲で起こる反応を一般的に扱う研究は、現時点ではなされていない。本研究では、定常降着円盤におけるダスト粒子の運動を考慮して、様々な不可逆化学反応に対する「反応ライン温度」予測式を開発することを目的とした。
原始惑星系円盤において、ダスト粒子の運動を追跡する3Dモンテカルロシミュレーションをおこなった (Ciesla 2010; 2011; Okamoto & Ida 2022)。円盤モデルとしては、ガス密度に比例する粘性加熱 (α粘性モデル; Shakura & Sunyaev 1973) を熱源とする鉛直・動径温度構造を持つ定常降着円盤を採用した。ダストの吸光度は2.5 cm2 g-1、主星質量は太陽質量Msunで一定とした。乱流粘性係数αは10-2、10-3、質量降着率は10-6、10-7、10-8 Msun yr-1とし、計6通りの円盤についてシミュレーションをおこなった。各パラメータセットに対し、10000個のダスト粒子をスノーライン中心面から放出した。ダスト粒子は、移流・拡散によって円盤ガスとよく馴染んで運動する。
各ダストの経験する温度履歴に基づき、Johnson-Mehl-Avrami 方程式 (JMA方程式; Johnson & Mehl 1973; Avrami 1973) で表される仮想的な不可逆反応の進行を調べた。スノーラインにおいて反応進行度Xが0の状態でシミュレーションを開始し、JMA式を微分することで得られた微小反応進行度δXを積算することで、反応進行を計算した。広範な化学反応を調べるため、活性化エネルギーは20-1000 kJ/mol、前指数因子 (s-1) の自然対数は10-60、アブラミ指数は0.5-4の範囲とし、~200–1500 Kの温度範囲で進行する反応を計算した。各粒子に対し全ての反応が完了した (Xが0.99を超えた) 時点で計算を打ち切り、最大106年にわたって計算をおこなった。
シミュレーションをおこなった結果、反応進行度Xがある特定の値Xrec (0.8、0.9、0.99) を超える以前に経験した最高経験温度 (Tmax,Xrec) のヒストグラムが、対数正規分布によってよくフィッティングされることがわかった。異なる反応が異なるTmax,Xrec分布を示すことから、この分布は反応が効率的に進行する特有の温度範囲を示していると考えられる。全てのヒストグラムに対し対数正規分布によりフィッティングをおこない、その最頻値 (Tline) と分散 (σline) を記録した。様々な反応に対するTline、σlineは、反応パラメータ及び円盤パラメータに依存して変化する。以降、これらを反応ラインの温度および分散として議論をおこなう。
私たちは、これら2つの「反応ライン」パラメータが、反応タイムスケールと局所的な拡散移動タイムスケールを比較することで半解析的に予測できることを明らかにした。これは、ダスト粒子がある温度領域に留まることで、反応が効率的に進行できることによると考えられる。私たちは、あらゆる反応に対するTline、σlineを、4つの反応パラメータ (アブラミ指数、前指数因子、活性化エネルギー、反応進行度) と2つの円盤パラメータ (乱流粘性係数、質量降着率) から予測することができる、反応ライン予測式を開発した。この式は、数値シミュレーションによって求められたTlineと5.5%、σlineと24%以内の範囲でよく一致することが確認された。
本研究で求められた「反応ライン」予測式は、初期太陽系進化において円盤の様々な位置で様々な反応を引き起こした化学進化を議論する上で、強力なツールになり得る。この式により、実験室で決定された反応速度論を直ちに降着円盤に適用し、円盤における物質の分布や複数の反応の競合を議論することができるようになる。
Ciesla (2011) は、定常降着円盤を運動する粒子の軌跡を追跡するモンテカルロシミュレーションを開発し、非晶質ケイ酸塩ダストの結晶化について反応速度論を取り入れて計算することで、ダストがある温度を経験するか否かで結晶質ないし非晶質に二極化されることを示した。またStanford & Ciesla (2012) は、同様のモンテカルロシミュレーションによって原始惑星系円盤において氷ダストが曝される環境を追跡し、複雑な有機分子を生産するのに十分なUV照射および加熱を経験することを示した。このように、移流・拡散によって運動するダスト粒子の化学反応を個別に扱った研究はいくつか存在するが、原始惑星系円盤内の広い温度範囲で起こる反応を一般的に扱う研究は、現時点ではなされていない。本研究では、定常降着円盤におけるダスト粒子の運動を考慮して、様々な不可逆化学反応に対する「反応ライン温度」予測式を開発することを目的とした。
原始惑星系円盤において、ダスト粒子の運動を追跡する3Dモンテカルロシミュレーションをおこなった (Ciesla 2010; 2011; Okamoto & Ida 2022)。円盤モデルとしては、ガス密度に比例する粘性加熱 (α粘性モデル; Shakura & Sunyaev 1973) を熱源とする鉛直・動径温度構造を持つ定常降着円盤を採用した。ダストの吸光度は2.5 cm2 g-1、主星質量は太陽質量Msunで一定とした。乱流粘性係数αは10-2、10-3、質量降着率は10-6、10-7、10-8 Msun yr-1とし、計6通りの円盤についてシミュレーションをおこなった。各パラメータセットに対し、10000個のダスト粒子をスノーライン中心面から放出した。ダスト粒子は、移流・拡散によって円盤ガスとよく馴染んで運動する。
各ダストの経験する温度履歴に基づき、Johnson-Mehl-Avrami 方程式 (JMA方程式; Johnson & Mehl 1973; Avrami 1973) で表される仮想的な不可逆反応の進行を調べた。スノーラインにおいて反応進行度Xが0の状態でシミュレーションを開始し、JMA式を微分することで得られた微小反応進行度δXを積算することで、反応進行を計算した。広範な化学反応を調べるため、活性化エネルギーは20-1000 kJ/mol、前指数因子 (s-1) の自然対数は10-60、アブラミ指数は0.5-4の範囲とし、~200–1500 Kの温度範囲で進行する反応を計算した。各粒子に対し全ての反応が完了した (Xが0.99を超えた) 時点で計算を打ち切り、最大106年にわたって計算をおこなった。
シミュレーションをおこなった結果、反応進行度Xがある特定の値Xrec (0.8、0.9、0.99) を超える以前に経験した最高経験温度 (Tmax,Xrec) のヒストグラムが、対数正規分布によってよくフィッティングされることがわかった。異なる反応が異なるTmax,Xrec分布を示すことから、この分布は反応が効率的に進行する特有の温度範囲を示していると考えられる。全てのヒストグラムに対し対数正規分布によりフィッティングをおこない、その最頻値 (Tline) と分散 (σline) を記録した。様々な反応に対するTline、σlineは、反応パラメータ及び円盤パラメータに依存して変化する。以降、これらを反応ラインの温度および分散として議論をおこなう。
私たちは、これら2つの「反応ライン」パラメータが、反応タイムスケールと局所的な拡散移動タイムスケールを比較することで半解析的に予測できることを明らかにした。これは、ダスト粒子がある温度領域に留まることで、反応が効率的に進行できることによると考えられる。私たちは、あらゆる反応に対するTline、σlineを、4つの反応パラメータ (アブラミ指数、前指数因子、活性化エネルギー、反応進行度) と2つの円盤パラメータ (乱流粘性係数、質量降着率) から予測することができる、反応ライン予測式を開発した。この式は、数値シミュレーションによって求められたTlineと5.5%、σlineと24%以内の範囲でよく一致することが確認された。
本研究で求められた「反応ライン」予測式は、初期太陽系進化において円盤の様々な位置で様々な反応を引き起こした化学進化を議論する上で、強力なツールになり得る。この式により、実験室で決定された反応速度論を直ちに降着円盤に適用し、円盤における物質の分布や複数の反応の競合を議論することができるようになる。