日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG20] 宇宙における物質の形成と進化

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:00 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:荒川 創太(海洋研究開発機構)、大坪 貴文(自然科学研究機構 国立天文台)、野村 英子(国立天文台 科学研究部)、瀧川 晶(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、座長:古家 健次(国立天文台)、石﨑 梨理(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)


11:30 〜 11:45

[PCG20-10] 宇宙の有機物の塵の性質と役割の理解

★招待講演

*左近 樹1、遠藤 いずみ1、妹尾 梨子1、尾中 敬1,8、宮田 隆志1癸生川 陽子2小林 憲正2、矢野 創3、三田 肇4木村 勇気5、中村 正人6、小林 政弘7、中村 浩章7 (1.東京大学、2.横浜国立大学、3.宇宙航空研究開発機構、4.福岡工業大学、5.北海道大学、6.日本大学、7.核融合科学研究所、8.明星大学)

キーワード:星間有機物、ダスト、赤外線天文学観測

宇宙が現在の化学的に豊かな姿に至る過程を理解する上で、恒星進化によって生み出された重元素を材料としてそれらが星間空間に撒き散らされる過程での塵の形成は重要な研究対象である。特に、終焉期を迎えた星が質量放出の過程で生み出す有機物の塵について、その化学的な性質を明らかにすることは、銀河の星間空間を満たす星間有機物の姿を正しく理解し、さらには太陽系の始原的な有機物の一部として関連し得るか理解する上で極めて重要である。宇宙の有機物の塵の研究を行う上で、赤外線天文観測によって有機物の塵の誕生の現場を探り、また様々な環境下での星間有機物の特徴を捉えることは極めて有効であるが、模擬物質を扱う室内合成実験や変性実験などによる実験的な手法に基づく比較研究無しには、なかなか手にすることのできない宇宙の有機物の塵の物質同定やそれらの化学進化の理解に至ることは難しい。

我々は、2.45GHzマイクロ波電源装置を用いて生成したプラズマの急冷凝縮によって、窒素を含む有機物の塵の合成実験を行なっている。これまでに、固体の炭化水素の塵と窒素ガスを原材料に作ったプラズマを急冷凝縮することによって得られる窒素含有急冷炭素質物質が、新星周囲に観測される未同定赤外バンドの特徴を最もよく再現する物質であると結論するに至った(Endo, Sakon, Onaka et al. 2021)。また、窒素含有炭素質物質を国際宇宙ステーションの軌道上に1年間曝露し回収した物質の分析を行い、炭素質隕石中より抽出される不溶性有機物の赤外線およびX線の特徴の類似性を探る研究も実施している。さらに、有機物の塵の合成実験を行う際に、プラズマプロセスモニタを導入し、プラズマを急冷凝縮する過程で、有機物の塵がどのように窒素を含む化学結合を獲得するかの調査を進めている。

本発表では、これらの実験に基づいて得られる有機物の塵に対して得られた知見を整理し紹介するとともに、今後の赤外線観測で探求するべき課題について述べる。