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[PCG20-P05] 超高真空極低温でのアモルファスメタンハイドレートにおける局所的ケージ構造の生成
キーワード:アモルファス氷、メタンハイドレート、熱脱離
クラスレートハイドレート(包接水和物)は, 水分子の作るケージ構造にゲスト分子が入り込んだ化合物である. たとえばメタンを包接するメタンハイドレートについては惑星科学の観点からよく研究されており,10-4 Pa, 50 Kといった環境でも生成し,彗星の核に存在する可能性が熱力学に基づいた考察から指摘されている[1]. 実験的には, 2019年に赤外分光法(IR)と昇温脱離質量分析法(TPD)による分析から,星間雲を模した10-8 Pa, 30 Kの超高真空低温環境でもメタンハイドレートが生成したという報告があるが[2],示されている赤外スペクトルの変化は, これまでに高圧条件下で報告されている赤外スペクトルの変化[3]とは異なっている.またTPDでは,単体のメタン固体の昇華温度(T1 = 35-50 K)よりも高温な140 K付近(T2)でもメタンが脱離することから,メタンハイドレートの生成を主張しているが,T2でのメタンの脱離は, アモルファス氷にトラップされていたメタンが結晶化によって脱離する”Molecular Volcano”[4]と区別が難しく,メタンハイドレートの生成については結論が出ていない[5].メタンハイドレートの生成を実証するためには回折法による分析が必須であるが[6, 7],これまでに超高真空極低温な星間雲の環境を模した条件で回折法によってメタンハイドレートの生成を検証した実験はなかった.
本研究では, 超高真空極低温でのメタンハイドレートの生成を検証するために,H2Oとメタンの1:1の混合ガスを10 Kの基板に蒸着することで混合氷を作製し,加熱による混合氷の構造変化を反射高速電子線回折(RHEED), IR, TPDでその場分析する実験を行った. その結果, 予想された通りT1に相当する35 Kにおいてのみでなく, T2に相当する140 Kにおいてもメタンが脱離した. さらに,RHEEDによって構造変化を調べたところ, T1でメタンが脱離したのち, 40-130 KにおいてH2Oやメタンの単体とは異なる回折パターンが現れていた. この回折パターンの変化から, CH4・5.75H2OのsIクラスレートハイドレートに類似したケージ構造が局所的に生成していると考えられる. 一方,IRではこれまでに報告されていたような明確なスペクトルの変化[2, 3]は見られなかった. この結果は,メタンハイドレートは混合氷の表面に局所的に生成している可能性を示唆している.
本研究結果は,超高真空極低温環境にある星間雲の氷星間塵において局所的にメタンハイドレート様のケージ構造が生成することを示唆するものである.本実験結果を示唆する先行研究として,山室と菊池は10 Kの基板に102 PaでXeとH2Oを蒸着するとアモルファスクラスレートハイドレートが形成し, さらに加熱によってsIクラスレートハイドレートが生成することを中性子回折によって確認している[8]. 当日は本研究の実験の詳細について解説する.
[1] Luspay-Kuti A., et al., 2016, Sci. Adv., 2 : e1501781
[2] Ghosh J., et al., 2019, PNAS, vol. 116, no. 5, 1526
[3] Dartois E., & Deboffle D., 2008, A&A, 490, L19
[4] Alan May R., et al., 2013, JCP, 138, 104501, Alan May R., et al., 2013, JCP, 138, 104502
[5] Choukroun M., 2019, PNAS, vol. 116, no. 29, 14407
[6] Kouchi A., 1990, Journal of Crystal Growth, 99, 1220
[7] Bauer R. P. C., 2021, JPCC, 125, 26892
[8] 山室修, 菊池龍弥, 2009, 高圧力の科学と技術, Vol. 19, No. 3, 201
本研究では, 超高真空極低温でのメタンハイドレートの生成を検証するために,H2Oとメタンの1:1の混合ガスを10 Kの基板に蒸着することで混合氷を作製し,加熱による混合氷の構造変化を反射高速電子線回折(RHEED), IR, TPDでその場分析する実験を行った. その結果, 予想された通りT1に相当する35 Kにおいてのみでなく, T2に相当する140 Kにおいてもメタンが脱離した. さらに,RHEEDによって構造変化を調べたところ, T1でメタンが脱離したのち, 40-130 KにおいてH2Oやメタンの単体とは異なる回折パターンが現れていた. この回折パターンの変化から, CH4・5.75H2OのsIクラスレートハイドレートに類似したケージ構造が局所的に生成していると考えられる. 一方,IRではこれまでに報告されていたような明確なスペクトルの変化[2, 3]は見られなかった. この結果は,メタンハイドレートは混合氷の表面に局所的に生成している可能性を示唆している.
本研究結果は,超高真空極低温環境にある星間雲の氷星間塵において局所的にメタンハイドレート様のケージ構造が生成することを示唆するものである.本実験結果を示唆する先行研究として,山室と菊池は10 Kの基板に102 PaでXeとH2Oを蒸着するとアモルファスクラスレートハイドレートが形成し, さらに加熱によってsIクラスレートハイドレートが生成することを中性子回折によって確認している[8]. 当日は本研究の実験の詳細について解説する.
[1] Luspay-Kuti A., et al., 2016, Sci. Adv., 2 : e1501781
[2] Ghosh J., et al., 2019, PNAS, vol. 116, no. 5, 1526
[3] Dartois E., & Deboffle D., 2008, A&A, 490, L19
[4] Alan May R., et al., 2013, JCP, 138, 104501, Alan May R., et al., 2013, JCP, 138, 104502
[5] Choukroun M., 2019, PNAS, vol. 116, no. 29, 14407
[6] Kouchi A., 1990, Journal of Crystal Growth, 99, 1220
[7] Bauer R. P. C., 2021, JPCC, 125, 26892
[8] 山室修, 菊池龍弥, 2009, 高圧力の科学と技術, Vol. 19, No. 3, 201