日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM09] Space Weather and Space Climate

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:片岡 龍峰(国立極地研究所)、Antti A Pulkkinen(NASA Goddard Space Flight Center)、Mary Aronne中村 紗都子(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、Chairperson:Antti A Pulkkinen(NASA Goddard Space Flight Center)、Mary Aronne

11:00 〜 11:15

[PEM09-08] 深層学習を用いた太陽フィラメント自動検出手法の開発

*佐藤 智哉1飯田 佑輔1、安藤 秀一1、佐々木 明良1 (1.新潟大学)

キーワード:宇宙天気、深層学習、物体検出

太陽活動の地球圏への影響は宇宙天気と呼ばれ,宇宙空間の活用が行われる現在では重要である.特に,太陽フィラメントと呼ばれるガス塊の噴出現象は人工衛星やGPSの運用に影響を与えうる.一方で,これまでのルールベースの手法では,太陽画像からのフィラメント検出も困難であった.A. Ahmadzadeh et al.(2019)は,深層学習を用いた物体検出モデルであるMask R-CNNを用いてフィラメント検出を行い,高い検出精度を達成した.しかし,1つのフィラメントを複数個に分割して検出することが報告されている.

このような背景から,本研究では分割問題を踏まえた適切な学習設定によるフィラメント検出の高精度化を目指す.A. Ahmadzadeh et al.はMask R-CNNを検出モデルとして用いていたが,本研究ではFaster R-CNNを用いる.Faster R-CNNは画像から物体の位置とクラスを出力する検出モデルである.Mask R-CNNと比較して検出の際に画像のマスク処理が行われないため,シンプルなアーキテクチャを持つ.Faster R-CNNの方が計算量が少ないこと,分割問題はFaster R-CNNとMask R-CNNに共通する領域提案の処理に起因している可能性があることを考慮すると,本研究における検出モデルの変更は妥当なものであると言える.

画像データとしてBig Bear Solar Observatory(BBSO)によって撮影されたH-α画像,アノテーションデータとしてHeliophysics Events Knowledgebase (HEK) に報告されているフィラメントの位置情報を用いる.データを取得した期間は2012年から2016年のものである.本研究では対象期間の画像1068枚を用いて実験を行う.

初めに,ハイパーパラメータ調整を行った.太陽フィラメントの大きさ・形を考慮しハイパーパラメータ調整を行うことで個々の形状に合わせた検出を行うことが目的である.評価指標として物体検出タスクにおいて代表的な指標であるAverage Precision(AP)を用いた.調整の結果,APは0.322となった.この結果はハイパーパラメータ調整だけでは適切なフィラメント検出はできないことを示している.次に,学習データ選定を行った.宇宙天気で重要とされる大きなフィラメントを重視し,教師データから小さなフィラメントを制限した.その結果,APは0.441となり,精度の向上が確認された.この結果は学習データの制限がフィラメント検出において有用であることを示している.最後に,データセット修正を行った.本研究で用いているデータセットにはアノテーションが不適切なものが存在しているため,これらを修正することで精度が向上を期待できる.その結果,APは0.480を達成し,精度の更なる向上が確認された.この実験では分割問題は一部解消されたが,完全な解消には至らなかった.しかし,この結果から分割問題にはデータセットのアノテーション不備が起因していると考察でき,これを解消することで更なる精度向上が期待できる.

本研究の結果は,さらなる検討は必要であるが,深層学習によるフィラメント検出で発生する分割問題の解消に貢献できるものである.