15:30 〜 17:00
[PEM15-P13] 短波ドップラー観測と MU レーダーを用いたスポラディック E 空間構造の研究
キーワード:スポラディック E 層
スポラディックE(Es)層は、主として夏季の中緯度の高度100km付近に発生する電子密度が極端に増大した層である。Es層の発生に伴う電子密度の増大によって、通常は電離圏を突き抜けるVHF帯の電波が反射されてしまうことから、電離圏に浅く入射した電波の長距離異常伝搬を引き起こすことが知られている。Es層は、VHF帯を使う航空機の制御システムやラジオ放送に影響を及ぼすことから、様々な観測機器を用いて半世紀以上にわたって研究されてきた。しかし、その時空間変動特性についてはいまだに理解されていないことが多く、特に3次元的な空間構造を複数の計測機器による観測を組み合わせることで,複眼的に見ることが求められている。
我々が日本国内で運用している短波ドップラー観測(HF Doppler: HFD)では、電離圏の上下動や電離圏現象の移動特性をリモートセンシングすることができる。これにより、夏季の夜間に発生するEs層に伴うドップラースペクトルの変動を観測できることが知られている。Es層の水平面における移動に伴って、ドップラーシフトがプラスからマイナスに変動する筋状の構造が準周期的に見られる。このEs層の移動をトレースしたと考えられる特徴的変動とGPS-TECによる中規模伝搬性電離圏擾乱(Medium-Scale Traveling Ionospheric Disturbances: MSTID)の動的特性を比較したところ、同じ方向に同じ速度で伝搬していることが分かっており、これは,E層とF層の電気的結合によって、Es層とMSTIDが連動する形で伝搬していることを示唆している(Matsushima et al., 2022)。
しかし、HFDで観測される準周期的なドップラートレースがEs層のどのような空間構造を反映したものであるかは分かっていない。特に、夏季の夜間に発生するEs層に伴って観測される準周期的なコヒーレントレーダーエコー(QPエコー: Yamamoto et al., 1991)との関連(同一性)が明らかになっていない。そこで、本研究では、短波ドップラー観測とMUレーダーという2つの手法で観測される夜間のEs層を直接的に比較することを目的として、2022年5月23-26日、6月6-9日の合計8日間にわたる同時観測を実施した。計8晩のうち、5月に実施した3晩の観測では、明瞭なQPエコーを得ることができた。また、同時間帯の淡路におけるHFD受信データを確認したところ、準周期的なドップラートレースを確認することができた。
10–20分の時間差があったものの、二つの準周期的現象が概ね同じ時間帯に観測されたため、同じEs層を捉えられた可能性が高い。時間差は、HFD観測の中間反射点がMUレーダーの観測領域から200km程度離れていることによって生まれていると考えている。MSTIDとEs層の伝搬速度を比較したところ、MUレーダーでEs層が明瞭に捉えられた日に限れば両者の差は最大20%程度であり、Es層とMSTIDの伝搬特性は一致していたことが分かった。この事実にもとづいて、GPS-TECのデータを相互相関解析することでMSTIDがMUレーダーの観測領域からHFDの観測領域まで伝搬するのに要した時間を求めた。求められた伝搬時間はMUレーダーとHFDの間で生じたEs層の観測時間の差とおおよそ一致していた。したがって、Es層の観測時間の差は観測領域の違いに伴うものであると考えられ、HFDで見られる準周期的なドップラートレースがMUレーダーなどの干渉性散乱レーダーで観測されるQPエコーに相当することが示された。
今後は微細構造の同一性を検証するために、MUレーダーで実施したイメージング観測からQPエコーの2次元像を復元し、HFDで見られる準周期的なドップラートレースとの比較を行う予定である。
我々が日本国内で運用している短波ドップラー観測(HF Doppler: HFD)では、電離圏の上下動や電離圏現象の移動特性をリモートセンシングすることができる。これにより、夏季の夜間に発生するEs層に伴うドップラースペクトルの変動を観測できることが知られている。Es層の水平面における移動に伴って、ドップラーシフトがプラスからマイナスに変動する筋状の構造が準周期的に見られる。このEs層の移動をトレースしたと考えられる特徴的変動とGPS-TECによる中規模伝搬性電離圏擾乱(Medium-Scale Traveling Ionospheric Disturbances: MSTID)の動的特性を比較したところ、同じ方向に同じ速度で伝搬していることが分かっており、これは,E層とF層の電気的結合によって、Es層とMSTIDが連動する形で伝搬していることを示唆している(Matsushima et al., 2022)。
しかし、HFDで観測される準周期的なドップラートレースがEs層のどのような空間構造を反映したものであるかは分かっていない。特に、夏季の夜間に発生するEs層に伴って観測される準周期的なコヒーレントレーダーエコー(QPエコー: Yamamoto et al., 1991)との関連(同一性)が明らかになっていない。そこで、本研究では、短波ドップラー観測とMUレーダーという2つの手法で観測される夜間のEs層を直接的に比較することを目的として、2022年5月23-26日、6月6-9日の合計8日間にわたる同時観測を実施した。計8晩のうち、5月に実施した3晩の観測では、明瞭なQPエコーを得ることができた。また、同時間帯の淡路におけるHFD受信データを確認したところ、準周期的なドップラートレースを確認することができた。
10–20分の時間差があったものの、二つの準周期的現象が概ね同じ時間帯に観測されたため、同じEs層を捉えられた可能性が高い。時間差は、HFD観測の中間反射点がMUレーダーの観測領域から200km程度離れていることによって生まれていると考えている。MSTIDとEs層の伝搬速度を比較したところ、MUレーダーでEs層が明瞭に捉えられた日に限れば両者の差は最大20%程度であり、Es層とMSTIDの伝搬特性は一致していたことが分かった。この事実にもとづいて、GPS-TECのデータを相互相関解析することでMSTIDがMUレーダーの観測領域からHFDの観測領域まで伝搬するのに要した時間を求めた。求められた伝搬時間はMUレーダーとHFDの間で生じたEs層の観測時間の差とおおよそ一致していた。したがって、Es層の観測時間の差は観測領域の違いに伴うものであると考えられ、HFDで見られる準周期的なドップラートレースがMUレーダーなどの干渉性散乱レーダーで観測されるQPエコーに相当することが示された。
今後は微細構造の同一性を検証するために、MUレーダーで実施したイメージング観測からQPエコーの2次元像を復元し、HFDで見られる準周期的なドップラートレースとの比較を行う予定である。