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[PEM16-P02] Hinode/EI観測とIP観測を用いたplasma upflowと太陽風の関係に関する研究
キーワード:太陽風、太陽コロナ、惑星間空間シンチレーション
本研究では太陽観測衛星Hinodeで観測された活動領域upflowと、その周りの磁場構造に関する解析を行なった。upflowとは主に活動領域上空の太陽コロナや遷移領域におけるプラズマの上昇流のことで、通常数日間にわたって持続的に存在している。Hinode衛星のEUV Imaging Spectrometer(EIS)で測定されたupflowプラズマの化学組成は、数日後に地球近傍でその場測定された低速太陽風の化学組成と似ていることがわかった。これらのことから、upflowは低速太陽風の流源である可能性が示唆されている。しかし、ある一点における太陽風パラメータしか知ることができないその場測定データとEISデータの比較だけでは、upflowが低速太陽風の流源であると断言できない。またupflowが太陽風の流源であるためには、upflowが惑星間空間へと伸びる開いた磁場と繋がっている必要があるが、upflowが開いた磁場に繋がっていて、さらにそれが低速太陽風に繋がっていることは未だ証明されていないのが現状である。本研究の目的は二つあり、一つ目はupflowが低速太陽風の流源であるという仮説の検証である。そこで本研究では、EISデータとPotential Field Source Surface (PFSS)モデルによる磁場計算に加えて名古屋大学ISEEで観測された惑星間空間シンチレーション(IPS)データを用いることで、upflowが開いた磁場に繋がっているかどうか、そして開いた磁場が低速太陽風に繋がっているかどうかを調べた。IPSデータを用いることによる利点は、EISが捉えたupflowの位置とグローバルな太陽風速度分布の比較ができることである。13個の活動領域について解析した結果、4つの活動領域では開いた磁場に繋がるupflowが存在し、そのうちの3つは低速太陽風に繋がっていた。これらのupflowは低速太陽風の流源である可能性が高い。また5つの活動領域ではupflow自体は閉じた磁場に繋がっているものの、活動領域のすぐ近くに開いた磁場領域が存在していた。それらの磁場で太陽風速度が調査できたものに関しては全て低速太陽風に繋がっていることがわかった。この結果はupflowプラズマが磁気リコネクションによって開いた磁力線に移動し、低速太陽風に供給されるとする低速太陽風モデルとは矛盾しない。また4つの活動領域ではupflowは閉じた磁場に繋がっており、さらに周辺にも開いた磁場は存在していなかった。周辺に開いた磁場が存在しなければ、upflowプラズマは惑星間空間に流出することができず、閉じた磁気ループによって太陽コロナに閉じ込められてしまう。したがって本研究の結果は、全てのupflowが必ずしも太陽風の流源になるわけではないことを示している。本研究における二つ目の目的は、開いた磁場に繋がっているupflowは、そうではないupflowとどのような違いがあるのかを調査することである。そこで、開いた磁場に繋がるupflow領域と閉じた磁場に繋がるupflow領域において解析範囲をそれぞれ定義し、EISデータから得られる解析量を比較した。その結果、開いた磁場に繋がるupflowと閉じた磁場に繋がるupflowでは、後者の方が非熱的速度と呼ばれる、スペクトルの過剰な拡大がより大きかった。この結果は開いた磁場領域と閉じた磁場領域ではコロナ磁場の構造やupflowの生成メカニズムが異なる可能性を示唆していると同時に、太陽コロナ加熱モデルに新たな制限を与えるものであると期待される。