日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM17] 宇宙プラズマ理論・シミュレーション

2023年5月22日(月) 10:45 〜 12:00 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:天野 孝伸(東京大学 地球惑星科学専攻)、三宅 洋平(神戸大学大学院システム情報学研究科)、梅田 隆行(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)、中村 匡(福井県立大学)、座長:梅田 隆行(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)、三宅 洋平(神戸大学大学院システム情報学研究科)

11:45 〜 12:00

[PEM17-05] 量子コンピュータによる6次元無衝突プラズマの古典運動論的方程式の量子数値計算

*樋口 颯人1、Pedersen Juan2吉川 顕正1 (1.九州大学、2.東京大学)


キーワード:量子コンピューター、次世代の大規模量子計算、運動論的方程式、オーロラ電子加速機構

オーロラが発生する磁気圏-電離圏結合系は、強磁場弱電離気体系と無衝突プラズマ系が磁力線を通じて結合している領域であり、プラズマ密度勾配等が理想的な磁気流体力学(MHD)よりも遥かに小さいスケールで生じているため、マルチスケールに対応可能な第一原理的方程式を要求する。オーロラ電子加速機構研究を含めた宇宙プラズマ物理分野では、計算機の発達に伴い3次元プラズマ粒子の運動を6次元状態分布関数で追うVlasov-Maxwell方程式(無衝突Boltzmann-Maxwell方程式)などの運動論的方程式を用いる研究(e.g. Shi. R et al.,[2018])が主流となりつつある。磁気圏-電離圏結合系のオーロラ電子加速機構を再現するには、3次元波動粒子相互作用に加えて粒子間の衝突作用も不可欠である。しかし、それらを第一原理的に記述する衝突性Boltzmann方程式の高次数値計算には莫大な計算負荷がかかるため、現代のスーパーコンピュータを持ってしても現実的ではない。
 近年、量子コンピュータ研究の進歩により、量子アルゴリズムは古典的アルゴリズムと比べて指数関数的な高速化をもたらす事が示された(e.g. P.W. Shor, [1999])。移流方程式の解法についても、格子ボルツマン法(D2Q5 model)を用いた2次元ナビエ・ストークス方程式(Budinski Lj., [2021])や2次元中性粒子無衝突Boltzmann方程式の量子アルゴリズム(Blaga N. Todorova, Rene Steijl,[2020])の優位性が明らかにされている。
 そこで、我々は無衝突プラズマの6次元Boltzmann方程式の量子アルゴリズムを開発した。その際、ナビエ・ストークス方程式の量子アルゴリズムで用いられるEncodingや量子ウォーク、確率振幅の足し合わせ回路等の技術を参考に、速度空間を追加した6次元状態分布関数の時空間発展を再現した。量子コンピュータの一番のメリットである超並列化によって空間方向のgrid情報を一つの状態関数に並列化したことにより、その計算量は同様の古典アルゴリズムのO(N6)に比べてO(log2N)だけ高速化される(Nをgrid数とする)。また、本プロジェクトではオーロラ電子加速機構を再現する量子アルゴリズム(衝突性プラズマの6次元Boltzmann-Maxwell方程式)を構築することを目的としている。
 本発表ではFirst stepにて構築した量子アルゴリズムを解説し、得られた量子数値結果を元に、古典アルゴリズムによる数値計算との比較・考察を行い、今後の研究計画及び展望を踏まえて話す予定である。