日本地球惑星科学連合2023年大会

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[E] オンラインポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS02] Regolith Science

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (1) (オンラインポスター)

コンビーナ:和田 浩二(千葉工業大学惑星探査研究センター)、中村 昭子(神戸大学大学院理学研究科)、Patrick Michel(Universite Cote D Azur Observatoire De La Cote D Azur CNRS Laboratoire Lagrange)、Kevin J Walsh

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[PPS02-P05] ボルダーの破壊によるクレーター形成へのアーマリング効果

*宇都宮 忠勝1保井 みなみ1荒川 政彦1横田 優作1 (1.神戸大学)

キーワード:小惑星、クレーター形成過程、アーマリング効果、ボルダー、埋没深さ

探査機はやぶさは,小惑星イトカワの表面が数センチから数メートルの小石や巨礫(ボルダー)で覆われているのを観測し,ラブルパイル天体の直接的観測としては初の例となった.またイトカワは,月と比較して小さなクレーターが非常に少ないことや,ボルダー上に穴や割れ目があることも明らかになり,このことからイトカワのクレーター形成過程にはアーマリング効果が働いていることが示唆された.ボルダーで覆われた小惑星表面模擬物質を用いたこれまでの室内実験で,低速度域では弾丸/標的粒子の直径比が1より小さくなるとクレーターサイズが極端に小さくなること(Guettler et al.(2012))や,衝突エネルギーが標的粒子の破壊エネルギーよりも小さい場合,クレーターの大きさは標的粒子の強度によるスケーリングに従うこと(Tatsumi and Sugita(2017))が明らかになっている.しかし,これまでに行われた粗粒標的を用いた実験は粒径が全て同じであったが,1つのボルダーに着目し,ボルダーに衝突した際のボルダーの挙動やクレーター形成過程については不明な点が多い.
そこで本研究の目的は,地表面に露出したボルダーへの衝突が及ぼすクレーター形成過程への影響を調べ,ボルダーの埋没深さや強度に対するアーマリング効果を解明することである.具体的には,ラブルパイル天体表層を模擬した標的でのクレーター形成実験を行い,ボルダーを模擬した試料の埋没深さを変化させ,エジェクタの放出の様子やクレーターの形状及び直径,ボルダーの規格化最大破片と積算破片個数について調べた.
ボルダー模擬物質として,直径100ミクロンの石英砂と石膏を質量比8:1で混合した直径40 mmの砂石膏混合球を用意し,100ミクロンの石英砂を敷き詰めたたらいの中心部に設置した.その際に,混合球の設置深さを10 mmごとに0 mm~ 40 mmの範囲で変化させた.なお,深さ0 mmが混合球を埋めずに石英砂上に置く場合,40 mmは混合球を石英砂の中に完全に埋めた場合を指す.また,均質石英砂のみ(ボルダーなし)の標的も用意し,各深さでクレーター形成過程にどのような違いがあるのかも比較した.実験は神戸大学の一段式縦型軽ガス銃を使用した.弾丸は,直径10 mmのナイロン球を用いた.衝突速度は約76~212 m/sの範囲で行ったが,アーマリング効果の埋没深さ依存性を議論するのは,約150 m/sと一定の場合である.衝突の様子は高速カメラで撮影し,衝突点位置の確認とエジェクタカーテンの形状観察,ボルダーの破壊の様子を観察した.ボルダーの破片は0.1 g以上のものを回収し,形成されたクレーターはノギスを用いて直径を4か所で計測し,その平均をクレーター直径とした.
ボルダーなしの均質石英砂の場合,円錐型のクレーターが形成され,弾丸はクレーター中心に残ったままであった.これは,典型的な重力支配域のクレーター形状である.
一方,ボルダーを設置した場合,深さによってクレーター形成過程に大きな違いが見られた.深さ0 mmの場合,クレーターは形成されず,衝突で破壊されたボルダーの破片が放射状に飛び散ることで,砂表面に衝突点を中心とした放射状の跡が形成された.石英砂のエジェクタカーテンは観察されなかった.深さ20 mmの場合,クレーターは形成されたが,所々に放射状の跡があるいびつなクレーター形状が観察された.そして,クレーター中心にはボルダーの最大破片が埋まっており,クレーター内部に小さな破片が多く散在していた.エジェクタカーテンは非常に薄かった.深さ40 mmの場合,均質石英砂のみの場合と同様に,円錐型のクレーターが形成され,ボルダーの破壊の程度は深さ0 mmと比較して小さく,最大破片は埋まったままで残っていた.エジェクタカーテンは,均質石英砂のみの場合と同程度の逆円錐型のものが確認された.
各埋没深さでの積算破片個数分布を比較すると,深くなるにつれて最大破片は大きくなり,破片個数は減少していることが分かった.一方,各深さでのクレーターリム直径を比較すると,破片質量分布とは異なり,二つの傾向に分かれた.深さ0~10 mmでは,クレーターが形成されず,直径はほぼ0 mmとなった.一方,深さ20~40 mmでは、0~10mmに比べてクレーター直径は大きくなったが,この深さ間のデータに大きな違いはなく,クレーター直径は,均質石英砂のみの場合の80~90 %となった.つまり,ボルダーが半分以上埋没した状態だと,アーマリング効果がほとんど効かないということが示唆された.