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[PPS03-10] MicrOmegaによるRyugu試料分析:非対称吸収帯のFitting法の開発と応用
キーワード:はやぶさ2、MicrOmega、スペクトル解析、赤外分光、ヒドロキシ基、プログラミング
はじめに: はやぶさ2は、2020年にC型小惑星Ryuguから約5.4gのRyugu表層試料を持ち帰り、JAXA宇宙研の地球外試料キュレーションセンターで帰還サンプルの初期記載が行われている[1][2]。初期記載の一環で赤外分光顕微鏡MicrOmegaによる測定とスペクトルの解析が進められてきているが、非対称な吸収帯に対するフィッティング手法は確立されていない。本研究では、定量的な議論を進めることを目標に、フィッティング解析手法を開発・適用することを目的とする。
MicrOmegaは、フランス宇宙天体物理学研究所(IAS)が開発した赤外分光顕微鏡であり、はやぶさ2の小型着陸機MASCOTに搭載され、Ryugu表層物質の鉱物学的・化学組成的特徴の測定を目標とした。ほぼ同型の装置が初期記載用にキュレーションセンターに導入されている。その特徴は約5mm角の領域を22.5 µm/pixの解像度で、0.99-3.65µmの波長範囲のスペクトルが取得可能な点にある[3]。これまでの測定結果から、Ryuguサンプルの大部分に共通する特徴として、2.7µmの比較的深い吸収帯が挙げられる[2]。2.7µmの吸収帯は、含水鉱物のOH基由来と考えられているが、吸収帯の形状が非対称であるため複数の吸収帯から構成される可能性が高い。
方法: 本研究では、2.7µmの非対称な吸収帯に対してベースライン推定と4つのガウス関数によるフィッティングを適用した。試料は複数の鉱物から構成され、主成分鉱物にも複数のエネルギー準位があるため、複数のガウス関数を用いることは妥当である。
ベースライン推定には、Asymmetric least squares smootherを用いて、2.5-3.3µmの範囲に適用した [4]。
次に、ベースライン除去後のスペクトルに対して4つのガウス関数をフィッティングさせた。フィッティングでは、初期値(各ガウス関数のピーク波長、深度、幅)を設定し、測定データとの二乗残差の和が最小になる関数の最適パラメータ(ピーク波長、深度、FWHM)を求めた。加えて、フィッティング解析で得られた各ガウス関数のパラメータの関係性を調べた。なお、使用したスペクトルデータは、MicrOmega-Curation DARTS Server内の139個(A室79個、C室60個)である。
結果: Ryugu試料A0033に対するフィッティングの結果得られた各ガウス関数、合成波形と残差をFig.1に示す。また、各ガウス関数を短波長側からf1~f4とした(A0033の各ガウス関数のピーク波長は、f1:2.712µm, f2:2.752µm, f3:2.858µm, f4:3.050µm)。
考察: 単一のOH基でも結晶軸と入射光の関係から、複数の吸収帯で構成される[5]。ピーク波長f1と深度f1/深度f2の関係では、深度f1/深度f2が一定であることが確認された。従って、f1とf2は関連するOH基の吸収に対応し、同結晶の別の結晶軸における異なる振動エネルギーに対応すると考えられる。一方、f3とf4は同様の傾向が見られないため、異なる官能基に由来する可能性が高い。特にf4は、3.1µm付近の吸収帯がNH基に由来する可能性が高い[2]。
f1のピーク波長と深度の関係では、ピーク波長が長波長にシフトするにつれて深度が減少する傾向があり、A室サンプルはピーク波長が長波長で深度が小さいグループとピーク波長が短波長で深度が大きいグループに二分されることが確認された。2.7µm全吸収ピーク波長と深度でも同様の関係が見られる[6]。
まとめ: 今研究のスペクトル解析手法は非対称な吸収帯に対するより正確なフィッティングを可能にし、物理学的・定量的な議論を発展させるものであり、今後のフィッティング解析の在り方を再考するきっかけとなるはずである。
参考文献: [1]Yada, T. et al. (2022) Nat. Astron. 6, 214, [2]Pilorget, C. et al. (2022) Nat. Astron. 6, 221, [3] Bibring, J.-P. et al. (2017) SSR 208, 401, [4]Eilers, P.H.C. & Boelens, H.F.M. (2005) Leiden Univ. Med. Cent. rep., 1, 5, [5]Shoval, S. et al. (2001) Opt. Mat. 16, 301, [6]Le Pivert-Jolivet, T. et al. (2022), MetSoc2022, #6255.
MicrOmegaは、フランス宇宙天体物理学研究所(IAS)が開発した赤外分光顕微鏡であり、はやぶさ2の小型着陸機MASCOTに搭載され、Ryugu表層物質の鉱物学的・化学組成的特徴の測定を目標とした。ほぼ同型の装置が初期記載用にキュレーションセンターに導入されている。その特徴は約5mm角の領域を22.5 µm/pixの解像度で、0.99-3.65µmの波長範囲のスペクトルが取得可能な点にある[3]。これまでの測定結果から、Ryuguサンプルの大部分に共通する特徴として、2.7µmの比較的深い吸収帯が挙げられる[2]。2.7µmの吸収帯は、含水鉱物のOH基由来と考えられているが、吸収帯の形状が非対称であるため複数の吸収帯から構成される可能性が高い。
方法: 本研究では、2.7µmの非対称な吸収帯に対してベースライン推定と4つのガウス関数によるフィッティングを適用した。試料は複数の鉱物から構成され、主成分鉱物にも複数のエネルギー準位があるため、複数のガウス関数を用いることは妥当である。
ベースライン推定には、Asymmetric least squares smootherを用いて、2.5-3.3µmの範囲に適用した [4]。
次に、ベースライン除去後のスペクトルに対して4つのガウス関数をフィッティングさせた。フィッティングでは、初期値(各ガウス関数のピーク波長、深度、幅)を設定し、測定データとの二乗残差の和が最小になる関数の最適パラメータ(ピーク波長、深度、FWHM)を求めた。加えて、フィッティング解析で得られた各ガウス関数のパラメータの関係性を調べた。なお、使用したスペクトルデータは、MicrOmega-Curation DARTS Server内の139個(A室79個、C室60個)である。
結果: Ryugu試料A0033に対するフィッティングの結果得られた各ガウス関数、合成波形と残差をFig.1に示す。また、各ガウス関数を短波長側からf1~f4とした(A0033の各ガウス関数のピーク波長は、f1:2.712µm, f2:2.752µm, f3:2.858µm, f4:3.050µm)。
考察: 単一のOH基でも結晶軸と入射光の関係から、複数の吸収帯で構成される[5]。ピーク波長f1と深度f1/深度f2の関係では、深度f1/深度f2が一定であることが確認された。従って、f1とf2は関連するOH基の吸収に対応し、同結晶の別の結晶軸における異なる振動エネルギーに対応すると考えられる。一方、f3とf4は同様の傾向が見られないため、異なる官能基に由来する可能性が高い。特にf4は、3.1µm付近の吸収帯がNH基に由来する可能性が高い[2]。
f1のピーク波長と深度の関係では、ピーク波長が長波長にシフトするにつれて深度が減少する傾向があり、A室サンプルはピーク波長が長波長で深度が小さいグループとピーク波長が短波長で深度が大きいグループに二分されることが確認された。2.7µm全吸収ピーク波長と深度でも同様の関係が見られる[6]。
まとめ: 今研究のスペクトル解析手法は非対称な吸収帯に対するより正確なフィッティングを可能にし、物理学的・定量的な議論を発展させるものであり、今後のフィッティング解析の在り方を再考するきっかけとなるはずである。
参考文献: [1]Yada, T. et al. (2022) Nat. Astron. 6, 214, [2]Pilorget, C. et al. (2022) Nat. Astron. 6, 221, [3] Bibring, J.-P. et al. (2017) SSR 208, 401, [4]Eilers, P.H.C. & Boelens, H.F.M. (2005) Leiden Univ. Med. Cent. rep., 1, 5, [5]Shoval, S. et al. (2001) Opt. Mat. 16, 301, [6]Le Pivert-Jolivet, T. et al. (2022), MetSoc2022, #6255.