日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] オンラインポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS03] 太陽系小天体:太陽系の形成と進化における最新成果と今後の展望

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (1) (オンラインポスター)

コンビーナ:岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、吉田 二美(産業医科大学)、荒川 創太(海洋研究開発機構)、深井 稜汰(宇宙航空研究開発機構)


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[PPS03-P01] 彗星核からの氷の昇華による小惑星形成:水蒸気の内向き流と氷への再凝縮

*安田 匠1三浦 均1 (1.名古屋市立大学大学院理学研究科)

キーワード:小惑星、彗星核、数値モデル

小惑星探査機「はやぶさ2」により、小惑星リュウグウがラブルパイル構造を持った独楽型形状の天体である事、そして、その組成が有機物に富んでいる事が明らかとなった。近年、リュウグウの起源として、氷と岩が混在する彗星核から氷のみが昇華し、残った岩石が集積する事によりリュウグウが形成されたという「彗星起源説」が提唱された[1,2]。三浦ら[3]は彗星起源説に基づく理論モデルを提案し、多孔質な彗星核からの氷の昇華に要する時間、及び岩石の集積に伴う自転速度の加速を推定した(以下、三浦モデルと呼ぶ)。その結果、典型的な彗星核の物理量を初期条件として想定すると、氷は数万年程度で昇華し、その過程で自転速度が独楽型形状を獲得するに足る値まで上昇しうることを示した。しかし、三浦モデルでは彗星核内部の温度が一様かつ一定であると仮定しているという問題点があった。三浦モデルでは、太陽に接近した彗星核が太陽光により加熱されることを想定しており、実際には核の中心部と外縁部で温度差が生じることが考えられる。そこで、本研究では、彗星核内部の温度分布の時間変化を考慮した数値モデルを検討し、彗星核から小惑星への進化における温度進化の影響について調べた。
今回のモデルでは、母天体として、水氷と岩石塊より構成される球状で多孔質な彗星核を考えた。母天体表面においては、太陽放射によるエネルギー供給と熱放射によるエネルギー損失を考慮した。内部の温度場が球対称であるとし、母天体表面でのエネルギー収支を境界条件として非定常熱伝導方程式を数値的に解き、内部の温度分布の時間変化を求めた。この温度分布を用いて内部の水蒸気圧分布を数値的に導出し、これを用いて母天体内部の氷の体積割合の時間変化を計算した。この際、氷の体積割合が減少(氷が昇華)して空隙率が初期値よりも増加した場合は、初期空隙率と等しくなるまで母天体全体が収縮すると仮定し、母天体のサイズを変化させた。一方、氷の体積割合が増加(水蒸気が凝結)して空隙率が減少した場合は、母天体のサイズに影響しないとした。この数値モデルを用いて太陽から1.1 auの距離における彗星核の進化を計算した。太陽の輝度は現在の値であるとし、初期温度は194.9 Kで一様であるとした。
計算の結果、外縁部にかけて温度が上昇していく温度分布が得られた。表面近傍では氷が昇華して生じた水蒸気が母天体外部に流出する。より内側では、温度分布の影響により水蒸気圧が母天体の内側から外側に向けて増加する領域が確認された。この領域では水蒸気が内向きに流れ、内部の低温部で再凝結することで空隙が氷で埋まり、水蒸気が空隙を移動できなくなる領域(アイスクラスト)が形成した。また、アイスクラストが形成する領域の内側では周囲よりも氷が密な部分(バンプ)と疎な部分が繰り返し現れることが確認された。
この繰り返し構造の成因について特定するため、温度分布、氷の昇華、水蒸気の移動のみを考慮した一次元平行平板の系を想定して計算を行った。その結果、この繰り返し構造が再現した事から、この構造は、温度勾配に起因する水蒸気の内向き流の中で発生した氷のバンプが、水蒸気の流れを妨げた際に、バンプの部分では水蒸気の流入超過、バンプより下流側では流出超過が起きることにより一度生じた氷密度の変化が増幅されることによるものだと考えられる。
本発表では、バンプの発生による氷の昇華への影響などについて議論する。


参考文献: [1] E. Nakamura et al. In: Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci 95.4 (2019), pp. 165–177. [2] C. Potiszil et al. In: Astrobiology 20.7 (2020). PMID: 32543220, pp. 916–921. [3] H. Miura et al. In: The Astrophysical Journal Letters 925.2 (2022), p. L15.