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[PPS03-P13] 地球外物質の弾性的性質の測定手法検討:不定形状サンプルの弾性波速度測定
太陽系はガスの集積や塵の衝突合体を経て微惑星を形成し、微惑星が衝突を重ねて、現在の太陽系に進化したと考えられている。中でも小天体は、惑星とは異なり変成の度合いが小さく、より始原的な情報を内包している。固体天体を特徴付けるパラメータの一つに化学的性質、鉱物学的性質とならんで弾性的性質が挙げられる。弾性的性質は、小惑星の形成シミュレーション[1]や地震動によるリサーフェシング効果[2]を理解する上で特に重要となる。本研究では、地球外物質の弾性波速度の新しい測定手法の検討を進めている。
弾性波速度の測定手法としてパルス透過法や反射法、共振法がある。特にパルス透過法は過去の研究で月のサンプル[3]や隕石試料[4], 小惑星リュウグウの岩石サンプル[5]の弾性波速度の測定に用いられている。パルス透過法の問題点として、使用するサンプルの力学的強度が小さい場合(例えばCIコンドライトやリュウグウサンプル等)、サンプルを平板加工する段階で人為的にクラックが増え、場合によってはサンプルが破損するなどのリスクを伴う点が挙げられる。こうした課題に対し、本研究では、地球外物質サンプルを高強度のエポキシ樹脂で包埋した状態で測定し、数値シミュレーションを用いて測定結果を再現することで弾性波速度を推定することを目指している。
測定手法の開発は三段階に分けて行う。 サンプルを埋める樹脂の選定し、その弾性波速度の測定を行う。 弾性波速度が既知のサンプルを平板加工してから樹脂に埋め、シンプルな条件下で本手法を適用し、得られた結果の妥当性を評価する。 不定形状のサンプルを樹脂埋めした状態で測定を行い、弾性波速度を推定する。
今回は第一段階で選定した樹脂(EPOXY RESIN CY 232)の弾性波速度を測定した結果を報告する。エポキシ樹脂を40 ℃で15時間硬化させ、グラインダーで3,5,7,10mm程度の厚さに平板加工を行い、どの厚さまでP波、S波が減衰しきらずに透過するかを初めに検証した。P波については、加重20 N下で、どの厚さでも透過することを確認した。一方、S波については、厚さが3 mm以上のものでは波が減衰しきってしまい、透過波を検出することができなかった。この結果は、今回選定したエポキシ樹脂を用いて弾性波速度を測定する際は、樹脂埋めしたサンプルの厚みを少なくとも3 mm以下に抑える必要があるということを示唆している。また、3 mm厚の樹脂試料に対するP波速度とS波速度を見積もった結果、それぞれ2.618±0.001 km/sと1.239±0.002 km/sという値が得られた。値の再現性を評価するため、複数の樹脂試料の弾性波速度を測定したところ、弾性波速度は±0.02 km/s程度ばらつくことがわかった。これは、今後本手法の測定精度を評価する上で重要な指標になると考える。
発表では、新しい弾性波速度の測定手法の概要を紹介し、現在までに得られた結果について報告する。
[1] Nakamura et al. (2022), Science, DOI: 10.1126/science.abn8671
[2] Honda et al. (2021), Icarus, 336, 114530.
[3] Kanamori et al. (1970), Science, 167, Issue 3918, pp. 726-728
[4] Ostrowski and Bryson, (2019), Planetary and Space Science, 165, pp. 148-178
[5] 猪他(2022), 日本惑星科学会2022年秋季講演会, OA-13.
弾性波速度の測定手法としてパルス透過法や反射法、共振法がある。特にパルス透過法は過去の研究で月のサンプル[3]や隕石試料[4], 小惑星リュウグウの岩石サンプル[5]の弾性波速度の測定に用いられている。パルス透過法の問題点として、使用するサンプルの力学的強度が小さい場合(例えばCIコンドライトやリュウグウサンプル等)、サンプルを平板加工する段階で人為的にクラックが増え、場合によってはサンプルが破損するなどのリスクを伴う点が挙げられる。こうした課題に対し、本研究では、地球外物質サンプルを高強度のエポキシ樹脂で包埋した状態で測定し、数値シミュレーションを用いて測定結果を再現することで弾性波速度を推定することを目指している。
測定手法の開発は三段階に分けて行う。 サンプルを埋める樹脂の選定し、その弾性波速度の測定を行う。 弾性波速度が既知のサンプルを平板加工してから樹脂に埋め、シンプルな条件下で本手法を適用し、得られた結果の妥当性を評価する。 不定形状のサンプルを樹脂埋めした状態で測定を行い、弾性波速度を推定する。
今回は第一段階で選定した樹脂(EPOXY RESIN CY 232)の弾性波速度を測定した結果を報告する。エポキシ樹脂を40 ℃で15時間硬化させ、グラインダーで3,5,7,10mm程度の厚さに平板加工を行い、どの厚さまでP波、S波が減衰しきらずに透過するかを初めに検証した。P波については、加重20 N下で、どの厚さでも透過することを確認した。一方、S波については、厚さが3 mm以上のものでは波が減衰しきってしまい、透過波を検出することができなかった。この結果は、今回選定したエポキシ樹脂を用いて弾性波速度を測定する際は、樹脂埋めしたサンプルの厚みを少なくとも3 mm以下に抑える必要があるということを示唆している。また、3 mm厚の樹脂試料に対するP波速度とS波速度を見積もった結果、それぞれ2.618±0.001 km/sと1.239±0.002 km/sという値が得られた。値の再現性を評価するため、複数の樹脂試料の弾性波速度を測定したところ、弾性波速度は±0.02 km/s程度ばらつくことがわかった。これは、今後本手法の測定精度を評価する上で重要な指標になると考える。
発表では、新しい弾性波速度の測定手法の概要を紹介し、現在までに得られた結果について報告する。
[1] Nakamura et al. (2022), Science, DOI: 10.1126/science.abn8671
[2] Honda et al. (2021), Icarus, 336, 114530.
[3] Kanamori et al. (1970), Science, 167, Issue 3918, pp. 726-728
[4] Ostrowski and Bryson, (2019), Planetary and Space Science, 165, pp. 148-178
[5] 猪他(2022), 日本惑星科学会2022年秋季講演会, OA-13.