日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] オンラインポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS05] 火星と火星衛星

2023年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (1) (オンラインポスター)

コンビーナ:宮本 英昭(東京大学)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)、中村 智樹(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[PPS05-P20] 火星表層の水素量と斜面の流動性の関係

*堀田 啓貴1諸田 智克1宮本 英昭1 (1.東京大学)

キーワード:火星、クレーター、表層、流動、水素

火星表層の中性子観測から,火星表層の水素分布には空間的不均質があることが知られている.また,惑星表面には時間経過に伴い地形が崩れていく様々なプロセスが存在することが知られている.以上の知見を合わせると,火星表層に水素が存在することにより表層の粒子の物理的特性が変化し,表面地形進化に影響を及ぼす可能性があることが考えられる.
火星のクレーターの内壁斜面には,中央へ向かう粒子の流動を示す線状の地形が見られる.本研究は,この斜面での流動性に火星表層の水素量が与える影響を明らかにすることを目的とする.そのために,火星の直径10 km程度の大クレーターの斜面に存在する直径数〜数十 mの微小クレーターに着目し,水素の量によってこの数密度がどのように変化するかを調査する.
 火星表層の水素分布マップ (Wilson et al., 2018) を参照し,水素量の多い,少ない領域に存在する大クレーターをそれぞれ抽出し,その内壁斜面において,微小クレーターのカウントを行なった.この際,大クレーターの斜面上の他に,大クレーターの放出物上でも微小クレーターカウントを行い,大クレーターの形成年代を推定した.さらに,MOLAによる標高データから大クレーターの斜面の角度を算出した.そして,斜面での微小クレーターの数密度と,傾斜や大クレーターの形成年代との関係を調査し,その水素の量による影響を評価した.
 今回調査したほとんどの大クレーターにおいて,放出物上と比較して斜面における微小クレータの数密度は低いことがわかった.この結果は,斜面における流動によって微小クレーターの消失が起こっていることを示す.そこで,斜面の流動過程が何によって決まるのかを調査するために,微小クレーターの数密度と,傾斜角や大クレーターの年代との関係について調査した.
 斜面での微小クレーター生成速度と消滅速度が釣り合っている平衡状態を仮定すると,傾斜が大きいほど微小クレーターの消滅速度は速くなるため,微小クレーターの数密度は傾斜に依存すると考えられる.しかし,微小クレーター数密度の傾斜による明瞭な依存性は見られなかった.一方,もし微小クレーターの形成速度が消失速度を上回っている状態であれば,大クレーターの形成年代が古いほど,その斜面の微小クレーター数密度は高くなると期待されるが,そのような傾向は見られなかった.
 次に,領域によって地形の消失過程が異なる可能性を考慮し,放出物上に対する斜面の微小クレーター数密度の比を求めることで,斜面の表面流動の影響のみを評価した.その結果,水素の多い領域の方が少ない領域よりも微小クレーターの斜面/放出物上比が高い傾向にあり,斜面において微小クレーターが消されにくい可能性が示された.実験研究によると,レゴリス粒子間に水氷の蔦構造が発達し,レゴリス粒子同士が結びつくことが指摘されており (Siegler et al., 2022),今回の結果は水素の多い領域では水氷によるレゴリス粒子の吸着が流動性を失わせたと解釈できる.