09:15 〜 09:30
[PPS06-02] 超小型探査機エクレウスによる月面衝突閃光観測(2):月地震学への新たな一歩
★招待講演
キーワード:エクレウス、月面衝突閃光、月地震学
月の誕生についてはジャイアント・インパクト説が有力であるが、近年、月深部に起源をもつ火山ガラス中に水が検出されるなどこの説に不都合な発見も報告されている[1]。「月はジャイアント・インパクトで誕生したのは間違いない」とは言いきれず更なる研究が必要である。今後、月の起源を調べる上で重要なのは、サンプルの分析と内部構造の探査であろう。そして内部構造の探査で最も有力なのが地震観測である。
しかし、多くの地震計を設置することが難しい月において、数少ない地震計のデータで内部構造を調べるのは容易ではない。そこで、月面衝突閃光を利用した内部構造の地震探査が提唱されている[2]。月面衝突閃光とはメテオロイドの月面への高速度衝突による閃光である。衝突は同時に地震波を励起する。閃光のビデオ観測により震源の位置と時刻が分かるので、この地震波を解析すれば、もし月の内部構造が一様だと仮定すれば、1台の地震計で1つの衝突地震を観測しただけで地震波速度が決定でき、月内部がどんな物質でできているかが推定できる。多くの衝突地震を観測すれば、より複雑な構造も調べることもできる。
これまで、月面衝突閃光は地上から観測されてきたが、一般の天体観測にはない難しい点がある。明るい閃光ほど発生頻度は低いので、頻度が1回/日程度以上の暗い閃光を狙って太陽光の当たっていない月の夜側を観測する。どこで起こるか分からないので広い範囲を観測したいのだが、夜側を広く観測できるのは月齢が三日月の時である。しかし、三日月は西の空に見え始めたと思うとすぐに沈んでしまい、十分な観測時間が取れない。また、沈む前でも高度が低いため、僅かな靄や霞があってもバックグラウンドが上昇し観測できなくなる。月齢が進み明るくなってくると、高度が高くても大気で散乱された月光でバックグラウンドが上昇する。つまり、観測時間が十分とれず、また、地球大気の強い影響下での観測を強いられる。そのため、将来の衝突地震を利用した月内部探査では、宇宙からの閃光観測が望まれる。
超小型探査機エクレウス[3](添付図、modified from Fig. 3 in [7])には、世界で初めて宇宙からの閃光観測を試みる「DELPHINUS」と呼ばれるビデオカメラが搭載されている[4, 5]。通常のカメラと違うのは、絶えず月面を撮像し続け、閃光の写った画像フレームを自動的に抽出、閃光部分だけを切り抜いて保存することである。地上観測では、高速PCで行うこのような作業[6]をFPGA(Field Programmable Gate Array)と呼ばれる一種の論理回路を使ってリアルタイムで行う[7]。これにより小型化と省電力化、地上に送るデータ量の削減が可能になった。現在、エクレウスは地球-月系のL2点(ラグランジュ点の一つ)に向かって飛行を続けており、約1年後には月面閃光の観測を開始する予定である。宇宙からの閃光観測が実証されれば、それは将来の衝突地震を利用した月内部探査に向けた重要な一歩となる。
参考文献:[1] Saal et al. (2008) Nature 454, 192-195. [2] Yamada et al. (2011) Planet. Space Sci. 59, 343-354. [3] Funase et al. (March 2020) IEEE Aerospace and Electronic Systems Magazine, 30-44, DOI: 10.1109/MAES.2019.2955577. [4] Fuse et al. (2019) Trans. JSASS Aerospace Tech. Japan 17, 315-320, DOI: 10.2322/tastj.17.315. [5] Ikari et al. (2019) 33rd Annual AIAA/USU Conference on Small Satellites, SSC19-WKV-04, https://digitalcommons.usu.edu/smallsat/2019/all2019/100/. [6] Yanagisawa and Kakinuma (2022) 電気通信大学紀要 34, http://doi.org/10.18952/00010048. [7] Fujiwara et al. (2020) Trans. Japan Soc. Aero. Space Sci. 63, 265-271, DOI: 10.2322/tjsass.63.265.
しかし、多くの地震計を設置することが難しい月において、数少ない地震計のデータで内部構造を調べるのは容易ではない。そこで、月面衝突閃光を利用した内部構造の地震探査が提唱されている[2]。月面衝突閃光とはメテオロイドの月面への高速度衝突による閃光である。衝突は同時に地震波を励起する。閃光のビデオ観測により震源の位置と時刻が分かるので、この地震波を解析すれば、もし月の内部構造が一様だと仮定すれば、1台の地震計で1つの衝突地震を観測しただけで地震波速度が決定でき、月内部がどんな物質でできているかが推定できる。多くの衝突地震を観測すれば、より複雑な構造も調べることもできる。
これまで、月面衝突閃光は地上から観測されてきたが、一般の天体観測にはない難しい点がある。明るい閃光ほど発生頻度は低いので、頻度が1回/日程度以上の暗い閃光を狙って太陽光の当たっていない月の夜側を観測する。どこで起こるか分からないので広い範囲を観測したいのだが、夜側を広く観測できるのは月齢が三日月の時である。しかし、三日月は西の空に見え始めたと思うとすぐに沈んでしまい、十分な観測時間が取れない。また、沈む前でも高度が低いため、僅かな靄や霞があってもバックグラウンドが上昇し観測できなくなる。月齢が進み明るくなってくると、高度が高くても大気で散乱された月光でバックグラウンドが上昇する。つまり、観測時間が十分とれず、また、地球大気の強い影響下での観測を強いられる。そのため、将来の衝突地震を利用した月内部探査では、宇宙からの閃光観測が望まれる。
超小型探査機エクレウス[3](添付図、modified from Fig. 3 in [7])には、世界で初めて宇宙からの閃光観測を試みる「DELPHINUS」と呼ばれるビデオカメラが搭載されている[4, 5]。通常のカメラと違うのは、絶えず月面を撮像し続け、閃光の写った画像フレームを自動的に抽出、閃光部分だけを切り抜いて保存することである。地上観測では、高速PCで行うこのような作業[6]をFPGA(Field Programmable Gate Array)と呼ばれる一種の論理回路を使ってリアルタイムで行う[7]。これにより小型化と省電力化、地上に送るデータ量の削減が可能になった。現在、エクレウスは地球-月系のL2点(ラグランジュ点の一つ)に向かって飛行を続けており、約1年後には月面閃光の観測を開始する予定である。宇宙からの閃光観測が実証されれば、それは将来の衝突地震を利用した月内部探査に向けた重要な一歩となる。
参考文献:[1] Saal et al. (2008) Nature 454, 192-195. [2] Yamada et al. (2011) Planet. Space Sci. 59, 343-354. [3] Funase et al. (March 2020) IEEE Aerospace and Electronic Systems Magazine, 30-44, DOI: 10.1109/MAES.2019.2955577. [4] Fuse et al. (2019) Trans. JSASS Aerospace Tech. Japan 17, 315-320, DOI: 10.2322/tastj.17.315. [5] Ikari et al. (2019) 33rd Annual AIAA/USU Conference on Small Satellites, SSC19-WKV-04, https://digitalcommons.usu.edu/smallsat/2019/all2019/100/. [6] Yanagisawa and Kakinuma (2022) 電気通信大学紀要 34, http://doi.org/10.18952/00010048. [7] Fujiwara et al. (2020) Trans. Japan Soc. Aero. Space Sci. 63, 265-271, DOI: 10.2322/tjsass.63.265.