日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 月の科学と探査

2023年5月26日(金) 09:00 〜 10:15 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、鹿山 雅裕(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、小野寺 圭祐(東京大学地震研究所)、座長:小野寺 圭祐(東京大学地震研究所)、池田 あやめ(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻)

10:00 〜 10:15

[PPS06-05] 月極域日照地域における表土内水濃集過程

*橋爪 光1 (1.茨城大学理学部)

キーワード:月極域、水、ポンピング効果

近年、月極域において水素が濃集していることが、中性子分光法などのリモートセンシング手法により観測されている。しかし、この水素濃集の仕組みはまだ解明されていない。その可能性として大別して二つの過程が考えられている。一つは永久影領域において表土の最表面に水が凝縮・吸着されるもの、もう一つは、日照域において表土の内部に水が浸透し、内部のある深さに水が捕獲されるものである。本研究では、後者の過程に関する数値シミュレーションを実施し、その結果を紹介する。
 日照光が直接入射する領域では、高緯度域であっても、昼間には相当な温度まで昇温する。例えば、緯度85度の平坦な月面においては、昼間の最高到達温度は190 Kelvin以上と見積もられる。この温度では、月面に凝縮した水氷は速やかに昇華し失われてしまう。しかし、この昇華し生成された水蒸気はすべてが月面上空に失われるのではなく、ごく一部が表土の内部に浸透し、内部のある深さに固定・蓄積される、というSchorghofer & Aharonson (2014)が提案したポンピング効果と呼ばれる過程である。
 この過程は、月面上空を飛行し月面に降着し一旦表土最上面に捕獲された水分子が、日照と共にその一部が月表土内部に向けて拡散することに伴い進行する。日照熱も水蒸気も拡散方程式に従い伝搬されるが、月表土のような多孔質物質内では熱より水蒸気の方が拡散が速いことによりこの効果が発生する。表土内部で、水分子の蒸発・移動・鉱物表面への吸着または凝縮を繰り返し、わずかずつ表土内部に水が運ばれ長年蓄積する仕組みである。
 本研究では、表土内の1) 熱伝導、2) 水蒸気拡散、3) 鉱物表面への水分子の吸着や凝縮の結果表土内各所で実現する水蒸気圧、4) 凝縮・吸着に伴う蒸発潜熱、の極低温下での見積を組合せた数値シミュレーションを実施した。2022年秋に惑星科学会で紹介した初期モデルに比べ、最表面層における水の挙動を精密に記述することが出来るようになり、定量性が格段に向上した。
 得られた重要な知見として、含水層は深さ数cmから十数cmの比較的浅い部分に存在し、含水層の厚みは、2から5cmと薄いことがわかった。含水層より浅い領域に、必ず無水層が存在するのが、ポンピング効果の特徴である。この効果は、平坦地においては、緯度76度から85度の間で卓越する。
 境界条件として、一定フラックスの水分子が月面上空から常時月面に飛来し、約0.5mm厚の表土最表面層にまず捕獲されると仮定している。興味深いことに、この水分子供給フラックスに対して、表土内部での水蓄積速度は、必ずしも線形に応答しない。ある一定の閾値以下のフラックスでは、急速に蓄積速度が低下することがわかった。講演においては、水フラックス、あるいは、月面上空における水分子の循環過程など、月面上空間における水分子の挙動理解が、月面表土内での水濃集過程解明に向けた重要な取り組みの一つであることも説明する。