14:00 〜 14:15
[PPS06-12] 線状重力異常とその周辺のスペクトルから探る月の初期膨張時のマグマ組成
キーワード:月、重力異常、測地学、熱史、スペクトル、衝突計算
NASAのGRAILミッションによって高解像度月重力データが取得され、これまで数十の線状重力異常が確認されている。これらの細長い線状重力異常は、全球規模の引張応力下で形成された貫入岩体と解釈されており、月が進化初期段階に体積膨張を経験したことを示唆している[1]。このような膨張は熱進化数値計算からも示唆されており、マントルオーバーターンで運ばれた放射性元素の壊変熱が月内部の昇温を引き起こし、膨張の原因となると考えられている [2]。これまでPKT領域内のチタン含有量の年代別変化が示してきたように[3]、このような内部進化はマントル部分溶融の組成に大きく影響すると考えられ、線状重力異常の組成の制約は月の初期熱史の解明の鍵となる。貫入岩体は地表に噴出していないが、隕石衝突により掘削・放出された貫入岩体が見つかる可能性があるため、線状重力異常上のクレーター周囲の解析を試みた。
本研究では、直径160kmのRowlandとRocheクレーター周辺に着目してスペクトル・重力異常データの解析を行った。両クレーターでは内部の線状重力異常値が外部よりも弱く、クレーター形成時に貫入岩体が掘り起こされた可能性がある。まず、かぐやミッションのMultiband Imagerの950、1050、1250 nm反射率データから、海領域外かつ輝石に富む露頭を調査し、反射率比と経験式からTiO2・FeOの含有量を推定した。さらに、Chandrayaan 1号搭載の Moon Mineralogy Mapper (M3)のデータを用いて1000nmと2000nmのバンドの吸収波長を解析し、これらの露頭が海の玄武岩と同様の高カルシウム輝石を含むかを確認した。次に、発見された露頭が貫入岩体の由来かを重力値から議論する。衝突数値計算コードiSALEを用いて地下変形と空隙率変化をシミュレーションし、衝突後の線状重力異常値の数値計算とクレーター内部のGRAILデータ値を比較した。
スペクトル解析の結果、Rowlandクレーターの周辺には明確な高カルシウム輝石の露頭が見つからなかった。Rowlandクレーター周辺のFeO含有量は高地のレゴリス平均程度に低い。また、いくつかの新鮮なクレーターではFeO含有量が 8 wt% を超えるものの、それらのM3データの吸収波長は高カルシウム輝石と一致しない。これらより、Rowland形成時には貫入岩体が掘削・放出されなかった可能性が示唆される。重力解析においても、Rowland形成後も残存する貫入岩体が一定の重力値を持つため、Rowland内部の低い重力異常値は衝突数値計算から示唆される重力値の範囲外であり、貫入岩体が掘削されたとは考えにくい。
一方、Roche クレーター周辺では、30 箇所以上の 高カルシウム輝石の露頭が確認された。それらの FeO 含有量はほとんどが 8 wt%を超え、最高 14 wt%にも及ぶ。これらの吸収波長は先行研究で報告されている高カルシウム輝石の範囲内であり、Roche 周辺の小さな玄武岩の海領域の特徴と同様の値を持つ。本解析では海の玄武岩の誤検出を避けるべく、平らな低地領域は除外している。また、クレータースケーリング則からインパクトメルトや海領域クレーターからのエジェクタによる誤検出の可能性は排除できる。したがって、これらの露出はRocheクレーターによって放出された貫入岩体起源である可能性が高い。重力シミュレーションとの比較においても、線状重力異常データと数値計算は一致し、貫入岩体が掘削された可能性と整合的である。これらの露頭の組成を用い、高地レゴリスの混入を FeO 含有量で補正すると、貫入岩体のTiO2 含有量は 0.5-1.5 wt% であると推定される。この低いチタン含有量が近傍の2-3億年前の若い海玄武岩と類似していることから、月膨張に伴うマグマはその後噴出した玄武岩噴出と同様のマグマ組成を有していると考えられる。これはオーバーターン時に沈み込んだイルメナイト層からのマントルプルームがどの時代においても直接的にマグマ活動に寄与しておらず、プルームからの間接的な熱もしくは別の機構が部分溶融を引き起こしたことを示唆する。
Kai Wünnemann、Dirk Elbeshausen、Boris Ivanov、Jay Melosh、Tom Davison 氏ら iSALE-2D (www.isale-code.de/projects/iSALE) とpySALEPlotの開発者に深謝する。
[1] Andrews-Hanna J. C. et al. (2013), Science, 339, 675–678.
[2] Zhang N. et al. (2013) JGR: Planets, 118, 1789–1804.
[3] Kato S. et al. (2017) Meteoritics & Planet. Sci., 52, 1899–1915.
本研究では、直径160kmのRowlandとRocheクレーター周辺に着目してスペクトル・重力異常データの解析を行った。両クレーターでは内部の線状重力異常値が外部よりも弱く、クレーター形成時に貫入岩体が掘り起こされた可能性がある。まず、かぐやミッションのMultiband Imagerの950、1050、1250 nm反射率データから、海領域外かつ輝石に富む露頭を調査し、反射率比と経験式からTiO2・FeOの含有量を推定した。さらに、Chandrayaan 1号搭載の Moon Mineralogy Mapper (M3)のデータを用いて1000nmと2000nmのバンドの吸収波長を解析し、これらの露頭が海の玄武岩と同様の高カルシウム輝石を含むかを確認した。次に、発見された露頭が貫入岩体の由来かを重力値から議論する。衝突数値計算コードiSALEを用いて地下変形と空隙率変化をシミュレーションし、衝突後の線状重力異常値の数値計算とクレーター内部のGRAILデータ値を比較した。
スペクトル解析の結果、Rowlandクレーターの周辺には明確な高カルシウム輝石の露頭が見つからなかった。Rowlandクレーター周辺のFeO含有量は高地のレゴリス平均程度に低い。また、いくつかの新鮮なクレーターではFeO含有量が 8 wt% を超えるものの、それらのM3データの吸収波長は高カルシウム輝石と一致しない。これらより、Rowland形成時には貫入岩体が掘削・放出されなかった可能性が示唆される。重力解析においても、Rowland形成後も残存する貫入岩体が一定の重力値を持つため、Rowland内部の低い重力異常値は衝突数値計算から示唆される重力値の範囲外であり、貫入岩体が掘削されたとは考えにくい。
一方、Roche クレーター周辺では、30 箇所以上の 高カルシウム輝石の露頭が確認された。それらの FeO 含有量はほとんどが 8 wt%を超え、最高 14 wt%にも及ぶ。これらの吸収波長は先行研究で報告されている高カルシウム輝石の範囲内であり、Roche 周辺の小さな玄武岩の海領域の特徴と同様の値を持つ。本解析では海の玄武岩の誤検出を避けるべく、平らな低地領域は除外している。また、クレータースケーリング則からインパクトメルトや海領域クレーターからのエジェクタによる誤検出の可能性は排除できる。したがって、これらの露出はRocheクレーターによって放出された貫入岩体起源である可能性が高い。重力シミュレーションとの比較においても、線状重力異常データと数値計算は一致し、貫入岩体が掘削された可能性と整合的である。これらの露頭の組成を用い、高地レゴリスの混入を FeO 含有量で補正すると、貫入岩体のTiO2 含有量は 0.5-1.5 wt% であると推定される。この低いチタン含有量が近傍の2-3億年前の若い海玄武岩と類似していることから、月膨張に伴うマグマはその後噴出した玄武岩噴出と同様のマグマ組成を有していると考えられる。これはオーバーターン時に沈み込んだイルメナイト層からのマントルプルームがどの時代においても直接的にマグマ活動に寄与しておらず、プルームからの間接的な熱もしくは別の機構が部分溶融を引き起こしたことを示唆する。
Kai Wünnemann、Dirk Elbeshausen、Boris Ivanov、Jay Melosh、Tom Davison 氏ら iSALE-2D (www.isale-code.de/projects/iSALE) とpySALEPlotの開発者に深謝する。
[1] Andrews-Hanna J. C. et al. (2013), Science, 339, 675–678.
[2] Zhang N. et al. (2013) JGR: Planets, 118, 1789–1804.
[3] Kato S. et al. (2017) Meteoritics & Planet. Sci., 52, 1899–1915.