14:30 〜 14:45
[PPS06-14] Jackson Crater中央丘を構成する物質の起源推定
月面に存在する直径約30km以上のクレーターには、地下物質が隆起した地形が形成される。この地形は中央丘と呼ばれ、そこに分布する地質ユニットを解析することで、月の地殻組成に関する情報が得られる。しかし中央丘の一部を、地殻浅部に起源をもつ衝突溶融物が被覆するとの報告がある。中央丘の特に上部に分布する物質が浅部起源か深部起源かを調査することは、月の地殻を理解する上で重要である。
本研究では複数のリモートセンシングデータを用いて中央丘の地質の産状を精査し、分布する物質が溶融物か地殻物質なのか識別することを試みた。解析手法は月周回衛星「かぐや」のMultiband Imager (MI)、Terrain Camera, Lunar Reconnaissance Orbiter (LRO)のDiviner Lunar Radiometer Experiment (Diviner), Narrow Angle Cameras (NAC)から得られたデータを用いて、Jackson Craterの中央丘を調査した。Jackson Craterは比較的若いクレーターの一つであり、天体衝突による破砕、混合や宇宙風化の影響をさほど受けておらず、産状の解析が容易である。本研究では三つのリモートセンシング解析手法を実践した。1つ目はMIから得られたマルチスペクトルデータを用いた地質解析である。連続体除去を用いて、鉱物分布を定性的に把握し、Lucey法を用いて鉄量の違いを定量的に把握した。2つめは地形データと高解像度画像を用いた中央丘における地形特性に注目した産状精査である。Terrain Cameraから得られたデジタル地形モデル(DTM)、そしてNACから得られた高解像度画像を用いて、地形特性に注目した産状の観察を行った。加えて、中央丘の上部の地層を貫いて下部の岩相が露出しているクレーターが見つかれば中央丘の地層の層序関係が確定する。3つ目は熱赤外データを用いた熱慣性解析である。本研究ではDivinerから温度のデータを用いた。そして昼と夜の差分温度画像を作成し、表層物質の熱慣性の違いを可視化した。これらの解析手法を組み合わせて、Jackson Crater中央丘の地質解析を行った。
スペクトルデータ解析の結果、Jackson Crater中央丘は、750 nmの波長帯において周辺部は反射率の高い物質で構成されており、中央部は反射率の低い物質で構成されている。反射率の高い物質は珪長質であり、低い物質は苦鉄質であることを確認した。また、Lucey法を適用した結果からは中央部は苦鉄質であり、鉄量が高く、周辺部は珪長質であり、鉄量が0に近い鉄量のデータにDTMと高解像度画像を組み合わせて、中央丘の産状精査を行った結果、標高が高い中央部から、標高が低い周辺部にかけて苦鉄質な物質が等高線に対して最大傾斜に直交している境界領域が確認できた。この領域の存在は、苦鉄質な物質が珪長質な物質の上を流れたことを示す。中央部においても珪長質な物質が露出しているように見える領域が確認でき、苦鉄質な物質からなる層は層厚が薄いと推定される。苦鉄質な物質からなる層に分布しているクレーターは3036個確認された。そのうち苦鉄質な物質を貫いて、珪長質な物質が露出しているように見えるクレーターは148か所検出された。しかし下層からの物質をマルチスペクトルデータで検証できるほど、直径が大きいクレーターは見つからなかった。Divinerを用いた熱慣性解析結果からは苦鉄質な中心部の熱慣性は100以下であるのに対し、珪長質な周辺部の一部の熱慣性はおよそ100から200と若干高い値を示した。
以上の結果からJackson Crater中央丘では苦鉄質の領域と珪長質の領域に二分されており、苦鉄質の領域は、層厚は薄く、珪長質の領域の上に流れたように堆積していることが分かった。つまり、苦鉄質な物質は深部隆起物質ではなく、衝突によって形成され、堆積した地殻浅部起源の物質であると推定される。物質の熱慣性データからも苦鉄質な物質が、地殻深部起源の基盤岩である珪長質な物質と比べて脆いと解釈することで整合的である。
本研究では複数のリモートセンシングデータを用いて中央丘の地質の産状を精査し、分布する物質が溶融物か地殻物質なのか識別することを試みた。解析手法は月周回衛星「かぐや」のMultiband Imager (MI)、Terrain Camera, Lunar Reconnaissance Orbiter (LRO)のDiviner Lunar Radiometer Experiment (Diviner), Narrow Angle Cameras (NAC)から得られたデータを用いて、Jackson Craterの中央丘を調査した。Jackson Craterは比較的若いクレーターの一つであり、天体衝突による破砕、混合や宇宙風化の影響をさほど受けておらず、産状の解析が容易である。本研究では三つのリモートセンシング解析手法を実践した。1つ目はMIから得られたマルチスペクトルデータを用いた地質解析である。連続体除去を用いて、鉱物分布を定性的に把握し、Lucey法を用いて鉄量の違いを定量的に把握した。2つめは地形データと高解像度画像を用いた中央丘における地形特性に注目した産状精査である。Terrain Cameraから得られたデジタル地形モデル(DTM)、そしてNACから得られた高解像度画像を用いて、地形特性に注目した産状の観察を行った。加えて、中央丘の上部の地層を貫いて下部の岩相が露出しているクレーターが見つかれば中央丘の地層の層序関係が確定する。3つ目は熱赤外データを用いた熱慣性解析である。本研究ではDivinerから温度のデータを用いた。そして昼と夜の差分温度画像を作成し、表層物質の熱慣性の違いを可視化した。これらの解析手法を組み合わせて、Jackson Crater中央丘の地質解析を行った。
スペクトルデータ解析の結果、Jackson Crater中央丘は、750 nmの波長帯において周辺部は反射率の高い物質で構成されており、中央部は反射率の低い物質で構成されている。反射率の高い物質は珪長質であり、低い物質は苦鉄質であることを確認した。また、Lucey法を適用した結果からは中央部は苦鉄質であり、鉄量が高く、周辺部は珪長質であり、鉄量が0に近い鉄量のデータにDTMと高解像度画像を組み合わせて、中央丘の産状精査を行った結果、標高が高い中央部から、標高が低い周辺部にかけて苦鉄質な物質が等高線に対して最大傾斜に直交している境界領域が確認できた。この領域の存在は、苦鉄質な物質が珪長質な物質の上を流れたことを示す。中央部においても珪長質な物質が露出しているように見える領域が確認でき、苦鉄質な物質からなる層は層厚が薄いと推定される。苦鉄質な物質からなる層に分布しているクレーターは3036個確認された。そのうち苦鉄質な物質を貫いて、珪長質な物質が露出しているように見えるクレーターは148か所検出された。しかし下層からの物質をマルチスペクトルデータで検証できるほど、直径が大きいクレーターは見つからなかった。Divinerを用いた熱慣性解析結果からは苦鉄質な中心部の熱慣性は100以下であるのに対し、珪長質な周辺部の一部の熱慣性はおよそ100から200と若干高い値を示した。
以上の結果からJackson Crater中央丘では苦鉄質の領域と珪長質の領域に二分されており、苦鉄質の領域は、層厚は薄く、珪長質の領域の上に流れたように堆積していることが分かった。つまり、苦鉄質な物質は深部隆起物質ではなく、衝突によって形成され、堆積した地殻浅部起源の物質であると推定される。物質の熱慣性データからも苦鉄質な物質が、地殻深部起源の基盤岩である珪長質な物質と比べて脆いと解釈することで整合的である。