日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 月の科学と探査

2023年5月26日(金) 13:45 〜 15:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、鹿山 雅裕(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、小野寺 圭祐(東京大学地震研究所)、座長:西野 真木(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、于 賢洋(東京大学)

14:45 〜 15:00

[PPS06-15] 太陽風による月面空洞表面帯電の上流プラズマ条件と空洞形状への依存性

*中園 仁1三宅 洋平1 (1.神戸大学大学院システム情報学研究科)

キーワード:太陽風プラズマ、月、表面帯電、粒子シミュレーション

月面には太陽風などの宇宙プラズマや太陽光が直接降り注ぎ、表面近傍での静電気環境を形成する。月探査機による軌道上観測では月昼側表面が正に帯電していることが示唆されてきた。一般に宇宙プラズマは固体表面を負に帯電させる能力を持っており、月面を正の浮遊電位に保つためには光電効果などの電子放出過程が不可欠であると考えられてきた。一方、月面はクレーターや縦孔、ボルダーなどの地形は宇宙空間中の自由なプラズマ運動を制限し、表面形状により特有の静電気環境を作り出すことがいくつかのシミュレーション結果によって明らかにされている。こうした地形スケールの表面形状と同様に、より小さいスケールの岩石やレゴリス粒子により形成される微小空洞も静電エネルギーによる物質輸送の観点において興味深い対象である。このような空間スケールでは、デバイ遮蔽の能力が不十分なためより強い静電場が発生し、これが荷電したレゴリス粒子の移動と浮遊の重要な要因の一つであると考えられている。
本研究ではこれまでに、デバイ長と同等かそれより小さい鉛直側面を持つ月面空洞に対し、上空から太陽風プラズマが降り注ぐ状況を想定しシミュレーションを実施し、空洞の存在が静電気環境へもたらす影響についての解析を行った。その結果、太陽風プラズマ流は単純な直方体空洞内に正電位を形成し、空洞の幅深さ比の増大に伴いイオン粒子の運動エネルギーと同程度の数100Vまで正に帯電させ得ることを明らかにした。これは、熱速度に支配され無方向性の運動を行う電子が空洞側面に補足され空洞深部での電子枯渇を引き起こす一方で、バルク運動を行う直進性の高いイオンは空洞深部まで十分に到達することにより、強い正電荷輸送が実現されるためと考えられる。また、太陽光の光電効果の影響は表面からの負電荷の放出という側面より表面間での負電荷移動の側面が強くなり、側面伝いで底面に光電子が流れ込むことで太陽風駆動の正帯電を緩和する働きを示す。以上から、空洞表面帯電において、周囲のプラズマ条件だけでなく空洞自体の形状の重要性も明らかとなった。
本発表では主に太陽風プラズマ駆動の空洞内高電位形成メカニズムについて簡単に説明し、その後上流のプラズマ条件と空洞形状による帯電特性の変化を紹介し、月面において太陽風駆動の帯電過程が生じる条件を明らかにする。