日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 月の科学と探査

2023年5月26日(金) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (3) (オンラインポスター)

コンビーナ:西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、鹿山 雅裕(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、小野寺 圭祐(東京大学地震研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/26 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[PPS06-P07] 無水鉱物への水素イオン照射実験による水星表層における太陽風起源H2O生成過程の解明

*北野 智大1木村 智樹1大槻 美沙子1星野 亮1仲内 悠祐2 (1.東京理科大学、2.宇宙航空研究開発機構)


キーワード:水、水星、水素照射

水星や月において、表層の鉱物は太陽光や太陽風の照射による熱的、非熱的な化学過程を経て、水分子を⽣成する。探査機搭載の中性子分光計や赤外分光器の観測に基づいた近年の研究によって、水星や月の極域の永久影での水氷の存在が示唆されている(Lawrence et al., 2013; Li et al., 2018)。その起源は未解明であるが、水星表面では太陽風水素イオン照射による表層鉱物における水生成が有力な候補であることが、近年の水輸送の数値シミュレーションから示唆された(Jones et al.,2020)。しかし、実際の太陽風プラズマの組成(電子、陽子)やエネルギー(keV帯)の条件を満たしたプラズマ照射による、水星表層鉱物の水生成は観測的・実験的には未実証である。本研究は水星表層組成に類似した無水ケイ酸塩鉱物であるEnstatite試料への水素イオン、電子照射実験に基づき、太陽風による水星表層の水生成の実証を試みた。水素イオンや電子を、1e+14-1e+15cm-2s-1のflux、1e+18-1e+19cm-2のfluenceで照射した。水素照射時のみ長時間(約1e+4s)安定してサンプルからの水分子の放出が確認された。サンプルに元々付着していた水の影響が無い時間帯において、水素イオン照射に対する水分子のyieldを見積もった結果、0.37-0.38/incident ionと推定された。水素イオンを照射した後に、電子を照射した場合、水素照射で生成された鉱物中の水分子の放出を促進する傾向がみられた。水素照射で推定したyieldを用いて、昼側の水星半球から水分子が一様に放出されると仮定すると、1.37-1.41e+7kg/yearの水生成率に相当する。Jones et al. (2020)の水輸送シミュレーションにおける水の生成に対する氷の堆積効率と、本実験で得られた水生成率に基づき、水星表層に堆積する氷の総量を見積もると、30億年で4.1-4.2e+14kgになることが示唆された。これは先行研究のレーダー観測に基づく推定総量1e+14-1e+15kg(Eke et al., 2017; Deutsch et al., 2018; Susorney et al., 2019)と比較して、有意な量である。この結果から、太陽風照射による水生成が極域氷の供給過程として有力であることが示唆される。