日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] オンラインポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (1) (オンラインポスター)

コンビーナ:金丸 仁明(東京大学)、荒川 創太(海洋研究開発機構)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[PPS07-P05] 高速度衝突でクレーター内に残存する蛇紋岩インパクターの脱水程度の調査

*松原 光佑1中村 昭子1山口 祐香理1長谷川 直2、和田 武彦2 (1.神戸大学大学院理学研究科、2.宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)

キーワード:クレーター、水和物、衝突、小惑星

研究背景
地球型惑星では,小惑星や彗星などの小天体の衝突によって揮発性物質が放出され,海や大気の形成に重要な役割を果たしたと考えられている.天体同士の衝突を通じた物質の輸送は太陽系内で普遍的に生じていると考えられ,例えば分化している小惑星Vestaの表面には衝突によってもたらされたとされる含水鉱物が存在することが,探査機Dawnの観測によって確認されている[1].また,表面に存在する物質が小惑星の分光観測に影響を及ぼすことで,小惑星の大部分を構成する物質とは異なる組成が推定される可能性がある[2].
本研究では高速衝突でクレーター内に残存する蛇紋岩の脱水の程度を推定するため,蛇紋岩を衝突させたクレーターの分光測定を行った.また,クレーターの表面形状を調べ,クレーター内に残存する弾丸物質の割合を制約した.

実験手法
JAXA宇宙科学研究所の二段式水素ガス銃を用いて衝突実験を行った.衝突速度を約 3-7 km/sとし,蛇紋岩および比較のためのカンラン岩の円柱(直径 3 mm, 高さ 2.3 mm)を弾丸として鉄鋼キューブに衝突させた.形成したクレーターについて,フーリエ変換赤外分光装置(FT-IR)を用いて減圧下で近赤外領域において分光した.クレーター底面法線方向に対して30°の角度で光を入射させ,法線方向の反射スペクトルを測定した.また,レーザープロファイラ(測定ピッチ 50 μm,測定精度 0.1 μm)を使用してクレーターの表面形状を調べた.

結果
蛇紋岩弾丸を約 3-6 km/sで衝突させたクレーターでは 2.7 μm付近に吸収が見られた.これは蛇紋岩弾丸内の水酸基がクレーター内に保持されていることを示している.先行研究[3]によると,蛇紋岩をターゲットとして弾丸を衝突させた場合,衝突による発生圧力が 30 GPaを超えると蛇紋岩は完全に脱水される.インピーダンスマッチング法を用いると(パラメーターは[4]を参照),本実験において発生した圧力が 100 GPaを超えても水酸基が保持されていることが分かった.また,銅ターゲットに対して蛇紋岩を斜め衝突させた先行研究[5]においても,蛇紋岩内の水酸基を示す 1.4 μmの吸収が分光によって確認されている一方で,発生圧力は 79 GPaと推定されている.ここから,大きな圧力が発生する衝突においても,蛇紋岩弾丸内の水酸基は脱水されにくいという可能性が示された.
発生圧力と 2.7μmにおける反射スペクトルの吸収深さを比較すると,圧力が大きくなるほど水酸基による吸収が小さくなる傾向が見られた.しかし現在の測定方法では衝突前後の吸収特性を比較することができず,個々の弾丸内に含まれる蛇紋石の量の差が測定結果に影響を及ぼしている可能性がある.
また,クレーター断面の形状を近似した3次関数からクレーターを軸対称と見なして表面積を求めた.ここに弾丸物質が厚さ 10 μmで一様に付着したと仮定すると,弾丸物質の 5 %程度がクレーター内に残存すると推定された.

謝辞
本研究は,JAXA宇宙科学研究所の超高速度衝突実験施設の共同利用実験により行いました.

参考文献
[1] M. C. De Sanctis et al. (2013) Meteoritics & Planetary Science, 48, 2166-2184.
[2] G. Libourel et al. (2019) Science Advances, 5, eaav3971.
[3] J. A. Tyburczy et al. (1986) EPSL, 80, 201-207.
[4] T. Katsura et al. (2014) Icarus, 241, 1-12.
[5] R. T. Daly and P. H. Schultz (2018) Meteoritics & Planetary Science, 53, 1364-1390.