10:45 〜 12:15
[PPS07-P14] 木星衛星イオ環境を模擬した二酸化硫黄固体の中間赤外線イメージング分光
イオは、エウロパとガニメデおよびカリストとともにガリレオ衛星を構成する木星の衛星であり、ガリレオ衛星の中で最も木星の近くを公転している。木星とエウロパおよびガニメデとの相互作用によって、イオ内部には大きな潮汐熱が発生しており、それを熱源としてイオは太陽系内で最も活発な火山活動を有する。この火山活動によって約10-3 Pa−10-4 Paの希薄な大気が形成されており、その主成分は二酸化硫黄(SO2)である。イオ大気は、夜や木星蝕中は凝華(凝縮)して表面にSO2の霜を形成する。これは昼から夜および木星蝕中にかけて表面温度が約120 Kから90 K程度まで減少し、飽和蒸気圧が急激に低下するのに起因していると考えられている。一方で、昼になると太陽光による加熱によってSO2霜は昇華する。以上のように、イオでは昼夜の表面温度変化にともなって、大気と表面の間でSO2の気相-固相循環が成立している。
イオにおけるSO2の大気および霜については、観測と実験により様々な知見が得られてきた。SO2大気については、Koga et al. (2021) のALMA(Atacama Large Millimeter/Submillimeter Array)によるサブミリ波観測により、木星蝕中にプルーム内でSO2ガスの凝縮が発生した可能性が示唆されている。しかしながら、回転遷移に相当する電波領域では、分子の回転運動が制約された固体の情報を得ることは原理的に不可能である。一方で、振動-回転遷移に相当する赤外領域では、ガスに加えて固体の情報についても同時に得ることが可能である。Voyager I探査機は火山活動のある温暖な地域における大気の熱赤外スペクトルを観測し、∼7.4 μmにSO2分子の基準振動モードであるν1振動(対称伸縮振動)の弱いバンドを、∼8.7 μmに同じく基準振動モードであるν3振動(逆対称伸縮振動)の強いバンドを取得した。表面のSO2霜については、Galileo探査機がイオ表面から放出された近赤外線を分光観測し、SO2霜の大きさや疎密がイオ表面の場所によって異なることを明らかにした。実験室では、Nash and Betts (1995) がイオ表面環境を模擬して様々な相状態におけるSO2の赤外拡散反射吸収スペクトルを測定している。彼らは相状態によって、中間赤外線波長域のバンド形状が大きく異なることを報告した。しかしながら、SO2霜の成長・変質メカニズムと赤外スペクトルとの対応関係は解明されていない。
本研究ではSO2霜の微細な構造や成長および変質過程の解明を目的とし、イオ表面環境を模擬したSO2霜の中間赤外線スペクトルをin-situ測定した。SO2霜の微小領域を観測するために、准共通光路波面分割型位相シフト干渉法(Qi et al. (2015))に基づいたイメージングフーリエ変換中間赤外線分光器(2D FT-MIR)を用いた分光撮像を行った。SO2霜の堆積は新たに開発した液体窒素冷却の真空クライオスタットを用いて行い、減圧された真空チャンバー内にパルスノズルを用いてSO2ガスを噴出した。SO2霜は、無酸素銅製サンプルホルダーの直径3 mmの貫通穴に固定したZnSe基板上に堆積した。そこに中間赤外線を垂直照射させ、その透過吸収イメージングスペクトルを2D FT-MIRによって測定した。分光撮像の結果、∼7.4 μm(SO2 ν3領域)と∼8.7 μm(SO2 ν1領域)に2つのバンドが観測された。94 Kで取得したスペクトルでは、SO2ガス分子に比べてν1領域のバンド強度が相対的に大きく観測されたことから、SO2霜が生成したことを確認した。これは、生成した微粒子中のSO2分子間の相互作用の強さを反映していると考えられる。また、176 Kに昇温するといずれのバンドも線幅が増大し、昇華にともなう固体構造の崩れ(アモルファス化あるいは格子欠陥)が示唆された。
イオにおけるSO2の大気および霜については、観測と実験により様々な知見が得られてきた。SO2大気については、Koga et al. (2021) のALMA(Atacama Large Millimeter/Submillimeter Array)によるサブミリ波観測により、木星蝕中にプルーム内でSO2ガスの凝縮が発生した可能性が示唆されている。しかしながら、回転遷移に相当する電波領域では、分子の回転運動が制約された固体の情報を得ることは原理的に不可能である。一方で、振動-回転遷移に相当する赤外領域では、ガスに加えて固体の情報についても同時に得ることが可能である。Voyager I探査機は火山活動のある温暖な地域における大気の熱赤外スペクトルを観測し、∼7.4 μmにSO2分子の基準振動モードであるν1振動(対称伸縮振動)の弱いバンドを、∼8.7 μmに同じく基準振動モードであるν3振動(逆対称伸縮振動)の強いバンドを取得した。表面のSO2霜については、Galileo探査機がイオ表面から放出された近赤外線を分光観測し、SO2霜の大きさや疎密がイオ表面の場所によって異なることを明らかにした。実験室では、Nash and Betts (1995) がイオ表面環境を模擬して様々な相状態におけるSO2の赤外拡散反射吸収スペクトルを測定している。彼らは相状態によって、中間赤外線波長域のバンド形状が大きく異なることを報告した。しかしながら、SO2霜の成長・変質メカニズムと赤外スペクトルとの対応関係は解明されていない。
本研究ではSO2霜の微細な構造や成長および変質過程の解明を目的とし、イオ表面環境を模擬したSO2霜の中間赤外線スペクトルをin-situ測定した。SO2霜の微小領域を観測するために、准共通光路波面分割型位相シフト干渉法(Qi et al. (2015))に基づいたイメージングフーリエ変換中間赤外線分光器(2D FT-MIR)を用いた分光撮像を行った。SO2霜の堆積は新たに開発した液体窒素冷却の真空クライオスタットを用いて行い、減圧された真空チャンバー内にパルスノズルを用いてSO2ガスを噴出した。SO2霜は、無酸素銅製サンプルホルダーの直径3 mmの貫通穴に固定したZnSe基板上に堆積した。そこに中間赤外線を垂直照射させ、その透過吸収イメージングスペクトルを2D FT-MIRによって測定した。分光撮像の結果、∼7.4 μm(SO2 ν3領域)と∼8.7 μm(SO2 ν1領域)に2つのバンドが観測された。94 Kで取得したスペクトルでは、SO2ガス分子に比べてν1領域のバンド強度が相対的に大きく観測されたことから、SO2霜が生成したことを確認した。これは、生成した微粒子中のSO2分子間の相互作用の強さを反映していると考えられる。また、176 Kに昇温するといずれのバンドも線幅が増大し、昇華にともなう固体構造の崩れ(アモルファス化あるいは格子欠陥)が示唆された。