日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (1) (オンラインポスター)

コンビーナ:金丸 仁明(東京大学)、荒川 創太(海洋研究開発機構)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[PPS07-P18] 星間ダストの流入が火星大気の炭素同位体比の進化に与える影響

*長谷部 聖憲1寺田 直樹1吉田 辰哉1 (1.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)


キーワード:火星、大気、同位体、宇宙塵

火星大気には地球と比べて重い同位体が豊富に存在し、主成分である炭素の同位体比δ13Cは地球大気よりも50‰程度大きな値となっている。重い同位体に富んでいる状態は大気が散逸による同位体分別を経験したことを示唆することから、この特徴的な同位体組成は火星大気進化の痕跡として考えることができる。

 Hu et al. (2015)は火星大気の炭素量とその同位体組成の進化過程を追跡する為、大気散逸・脱ガス・炭酸塩生成の過程を考慮した大気進化モデルを構築した。この研究では現在の大気の炭素同位体比を満たすには約38億年前の大気圧が1bar以下である必要があり、また光化学反応による大気散逸が炭素同位体比の変化に大きく寄与することが示唆された。一方で近年の研究や観測などから、光解離による炭素同位体分別が光化学的散逸による同位体分別を強める可能性が提示されている(Schmidt et al., 2013; Yoshida et al., under review)。この結果を前述の大気進化モデルに適用すると、過剰な同位体分別により現在の同位体組成と一致しない値が計算されるという問題が生じる。

 本発表ではこの問題の解決法の一つとして、星間ダストの流入を考慮することで光化学的散逸による強い同位体分別が相殺される、という説を提示する。惑星に降り注ぐ星間ダストは主に炭素質コンドライトで構成されており、その炭素同位体比はδ13C=-10‰程度と現在の火星大気よりも小さな値となっている(Kerridge et al., 1985)。そのため大気の同位体分別は、星間ダストからの炭素供給によって抑えられると期待される。しかし、火星の大気同位体の進化においてダストの影響を考慮した研究はほとんどされていない。今回の研究では、大気散逸・脱ガス・炭酸塩生成に加えてダスト流入を考慮に入れた大気・炭素同位体進化のモデルを作成した。現在火星における直径10~2000μmのダスト流入率は1.50-2.30 tons/sol と推定されており(Carrillo-Sánchez et al., 2022)、その炭素含有率は~3wt%である(Rojas et al., 2021)。過去のダスト流入率について本研究では、それがより巨大な天体の流入率と似たような時間変化をするという仮定をおいて、クレーター分布(Ivanov, 2001)を基に定式化された小惑星・彗星の流入率(Pham et al., 2016)から類推した。

 本研究の結果として、主に25億年前までに脱ガスと星間ダストによって多量の炭素が供給されていることが示された。また現在の大気の同位体比δ13Cはダストを考慮しない場合に比べて数十‰程度小さくなり、観測された大気の同位体比と整合性のある値になった。この結果は、火星へのダスト流入を新たに考慮することで、光化学的散逸による強い同位体分別が相殺され、現在の炭素同位体比が満たされるような大気進化過程が成立することを示している。