日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (1) (オンラインポスター)

コンビーナ:金丸 仁明(東京大学)、荒川 創太(海洋研究開発機構)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[PPS07-P27] 超木星質量惑星による離心ギャップ形成と惑星への質量降着率への影響

*田中 佑希1金川 和弘2谷川 享行3田中 秀和1 (1.東北大学、2.茨城大学、3.一関工業高等専門学校)

キーワード:惑星形成、原始惑星系円盤、巨大ガス惑星

原始惑星系円盤内で形成された巨大ガス惑星は,周囲の物質と重力的に相互作用することによって,自身の軌道に沿った領域に低密度のギャップ構造を形成する.さらに,形成されたギャップを介した質量降着による質量成長や,周囲のガスとの相互作用による軌道進化を起こす.円盤にどのようなギャップが形成されるかは,惑星の質量や円盤の粘性,スケールハイトなどのパラメータに強く依存し,それに伴って惑星への質量降着率や惑星の軌道移動速度にも影響を及ぼす.そのため,惑星による円盤へのギャップ形成過程は惑星系の形成と進化を考える上で重要である.また近年ではALMAを用いた電波観測によってギャップ・リングといった構造を持つ原始惑星系円盤が多数存在することが明らかになっており,観測結果を解釈する上でもギャップ形成過程の理解は重要である.
数値流体計算を用いた惑星・円盤相互作用の研究は近年活発に行われており,惑星によって形成されるギャップの幅や深さ,惑星への質量降着率などが詳細に調べられている.しかし過去の研究は,木星質量程度やそれよりも軽い惑星に注目したものがほとんどであった.これまでに発見されている太陽系外惑星は多様性に富んでおり.木星の数倍以上の質量を持つ,いわゆる超木星質量惑星も多数発見されている.惑星質量が木星の数倍ある場合,形成される円盤のギャップ外縁が非定常となり,離心率を持つギャップが形成されることが知られており,これに伴ってギャップ内の面密度などの特徴も通常とは大きく異なるものになることが予想される.しかし,その結果として惑星への質量降着率がどのように変化するかは詳細な理解が進んでいない.そのため,超木星質量惑星の形成・進化過程を明らかにするためには,広い質量範囲および円盤パラメータでの,ギャップ形成や質量降着過程の検証が必要である.
これまでの我々の計算では,円盤パラメータが典型的な値の場合は惑星質量が3木星質量を超えるとギャップ構造が非定常となり,ギャップ領域の低密度ガスが周囲のガスと撹拌されることでギャップ内のガス面密度が上昇する効果があることが明らかになった.その結果,惑星質量が3木星質量よりも重い場合は,先行研究で得られているギャップ内面密度の経験式が予測するよりもギャップが浅くなり,惑星への質量降着率も上昇することが示唆された.しかし,非定常な振る舞いをするギャップ周辺のガスと惑星との相対速度は大きくなり,これは質量降着には不利に働く可能性がある.そのため,超木星質量惑星への質量降着率を正しく評価するためには,惑星への質量降着過程をギャップ形成過程と同時に取り扱う必要がある.
本研究では数値流体計算コードFARGOを用いて,惑星への質量降着の効果を考慮した円盤のギャップ形成の2次元数値流体計算を行った.FARGOは回転するガス円盤の移流を高速に解くことに特化したコードであり,円盤と惑星の相互作用の研究において多く用いられている.ギャップ形成には円盤の大局的な計算が必要だが,惑星への降着過程は惑星近傍での現象であるため,降着過程をモデル化して計算に取り入れた.この降着モデルの妥当性を検証するため,まずは惑星への降着半径,降着タイムスケール,および重力スムージング長を変化させた計算を行った.その結果,降着半径および重力スムージング長に適切な値をとった場合は,降着タイムスケールに依らず高解像度局所計算と整合的な一定の質量降着率が得られることが判明した.
この検証を元にして様々な惑星質量・円盤パラメータで数値計算を行い,非定常な離心ギャップが形成された場合の惑星への質量降着率についての調査を行った.その結果,惑星質量が一定の質量より重くなると離心ギャップが形成されてギャップ内面密度が上昇するため,惑星への質量降着率はいったん上昇することが判明した.しかし,面密度が上昇することによる降着率の増幅効果とガスと惑星の相対速度が上がることによる降着率の抑制効果が競合するため,さらに重い惑星の場合は質量降着率が再び減少することも見出した.これらの結果について,過去の数値計算との比較を行いながら,ガス惑星,特に超木星質量惑星の形成・進化に与える影響について議論する.