日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 太陽系物質進化

2023年5月26日(金) 09:00 〜 10:30 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:日比谷 由紀(東京大学 先端科学技術研究センター)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、松本 徹(京都大学白眉センター)、橋口 未奈子(名古屋大学)、座長:川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、松本 徹(京都大学白眉センター)


09:45 〜 10:00

[PPS08-14] フロー型水蒸気拡散炉を用いたフッ素アパタイトの水素自己拡散係数の決定

*吉元 史1、坂口 勲2伊藤 正一1 (1.京都大学、2.物質・材料研究機構)


キーワード:アパタイト、水素、拡散、SIMS

含水鉱物の水素同位体組成は地球などの太陽系天体における水の起源・進化を評価するための指標として利用されてきた.アパタイトは構造中にヒドロキシ基として水素を含んでおり,地球上だけでなく,月,火星隕石,エコンドライトやコンドライト中にも発見されている鉱物である.さらに,はやぶさ2が探査したリュウグウにもその存在が確認されている.このようにアパタイトは様々な太陽系天体に普遍的に存在し,他の含水鉱物に比べて変成・変質に強いため水素同位体組成を測定する対象として有用である.しかし,アパタイト中の水素同位体組成は拡散現象によって形成時の組成から変化し得るにも拘らず,拡散が起きていない仮定のもとアパタイト水素同位体組成が測定されてきた.したがって,太陽系天体の水の起源・進化を制約するには,実験により拡散係数を求め,アパタイト中の水素同位体組成変化を評価する必要がある.アパタイト中の水素に関連した拡散の研究は800℃以上でいくつか行われてきたが,高温ではF-Cl-OHの交換反応が優位なため,それよりも低温領域での拡散係数を推定しなければ,結晶化後の水素同位体組成変化を評価することはできない.500-700℃で2H2O/O2蒸気流下でのc軸平行方向フッ素アパタイトの水素拡散実験をおこなった先行研究のHigashi et al. (2017)の結果では,同位体交換反応による拡散プロファイルが得られたものの,Fickの第二法則によるフィッティングが表面付近でしかフィットしていない.これは研磨ダメージによる高速拡散経路の存在を示唆しており,格子拡散係数を見積もれていない可能性がある.そこで本研究では,コロイダルシリカの振動研磨により研磨ダメージを軽減させたDurango産フッ素アパタイト単結晶切片を用いて,2H2O/O2蒸気流下でのc軸平行方向(550-700 ℃)及びc軸鉛直方向(600,700 ℃)のフッ素アパタイトの水素拡散実験を行ったので報告する.二次イオン質量分析法(SIMS)を用いた2H濃度の深さプロファイルを取得し,Fickの第二法則によるフィッティングにより,拡散係数を求めた.
c軸平行方向の拡散プロファイルに対するフィッティングはより低濃度までフィットしており,高速拡散の影響が減少していることを示した.拡散係数は各温度で先行研究の値より小さく,拡散の活性化エネルギーも先行研究の80.5±3.3 kJ/molに比べて高い,204.9±11.3 kJ/molであった.高速拡散では格子拡散に比べて,拡散係数が大きく,拡散の活性化エネルギーは小さくなるため,この結果は高速拡散の影響が減少していることを支持する.活性化エネルギーはwet条件での酸素拡散(Farver and Giletti, 1989)と等しく,酸素空孔を用いた拡散様式であることが示唆された.一方、600,700 ℃でのc軸鉛直方向フッ素アパタイトの拡散係数はc軸平行方向とオーダーで一致していた.本発表では,より低温側のc軸鉛直方向の結果も含めて結晶方向による拡散メカニズムの違いについて議論する予定である.