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[PPS08-P07] イトカワレゴリス粒子表面の太陽風ヘリウム三次元分布
キーワード:イトカワ、太陽風、ヘリウム、宇宙風化、LIMAS
探査機はやぶさによって小惑星イトカワ表層のレゴリス粒子が持ち帰られた.先行研究により,これらの粒子の大半がかつて太陽風にさらされたことが明らかにされている[1, 2, 3].太陽風は主に水素やヘリウム(He)で構成された平均速度約400 km/sのプラズマ流であり,太陽風にさらされた物質の表面から1 μm以浅の深さに打ち込まれる.また太陽風照射は大気のない天体表層物質の宇宙風化を引き起こす要因のひとつであることが知られている[4].いくつかのイトカワ粒子には宇宙風化に特徴的な構造(ブリスター,溶融物,再蒸着層など)が存在する[2, 5].本研究では,宇宙風化作用と太陽風照射との関係についての理解を深めるため,イトカワ粒子表面の太陽風4Heの三次元分布を二次中性粒子質量分析装置(LIMAS,北海道大学)[6, 7]を用いて調べた.
分析には宇宙風化に特徴的な構造を持つことが先行研究[5, 8]によって報告されている5つのイトカワ粒子を用いた.それぞれの試料をインジウムに埋め込み,FE-SEM(JEOL JSM-7000F,北海道大学)を用いて粒子表面の二次電子像観察を行った.その後,粒子表面に~10 nm厚の金蒸着を施し,LIMASを用いたHeの深さ方向分析を行った.分析は,選択した表面~15 × 25 μm2の領域を,パルス状Ga+収束イオンビームで走査することにより行った.スパッタレートと4He+の相対感度係数(16O+で規格化)は,既知量の4Heを注入した標準試料(カンラン石)を分析して求めた.
FE-SEM観察の結果,RA-QD02-0307粒子の表面には全体的に宇宙風化構造(ブリスター,溶融物など)が観察された.LIMAS分析の結果,本粒子の表面からHeが検出され,かつて太陽風にさらされていたことが分かった.4Heの深さ方向分布は表面から~30 nmの深さにピークがあった.このピーク位置はTRIMプログラム[9]を用いた太陽風4He+イオンの注入シミュレーションの結果よりも~10 nm深かった.このような深い太陽風He濃度ピークについて以下の二つの可能性が考えられる.(1)太陽風に曝された際に再蒸着層(~10 nm [2])が形成された,または(2)ブリスターの形成に伴って深さ30 nmより浅い部分のHe濃度が固体の保持濃度限界を超過し,部分的に脱ガスした.どちらにせよ,本研究結果はイトカワレゴリス粒子に打ち込まれた太陽風Heの分布が宇宙風化の進行によって変化したことを示す.
ほかの粒子については,LIMAS分析領域内における4Heの不均質分布が認められた.これは個々の粒子の表面に太陽風が均一に照射されていないことを示す.この結果はイトカワレゴリス粒子表面にはブリスターが不均質に存在しているという先行研究の結果[5]と調和的である.
References: [1] Nagao K. et al. (2011) Science 333, 1128–1131. [2] Noguchi T. et al. (2014) Meteoritics & Planet. Sci. 49, 188–214. [3] Daly L. et al. (2021) Nat. Astron. 5, 1275–1285. [4] Pieters C. M. and Noble S. K. (2016) J. Geophys. Res. Planets 121, 1865–1884. [5] Matsumoto T. et al. (2016) Geochim. Cosmochim. Acta 187, 195–217. [6] Ebata S. et al. (2012) Surf. Interface Anal. 44, 635–640. [7] Bajo K. et al. (2015) Geochem. J. 49, 559–566. [8] Matsumoto T. et al. (2018) Icarus 303, 22–33. [9] Ziegler J. F. http://www.srim.org.
分析には宇宙風化に特徴的な構造を持つことが先行研究[5, 8]によって報告されている5つのイトカワ粒子を用いた.それぞれの試料をインジウムに埋め込み,FE-SEM(JEOL JSM-7000F,北海道大学)を用いて粒子表面の二次電子像観察を行った.その後,粒子表面に~10 nm厚の金蒸着を施し,LIMASを用いたHeの深さ方向分析を行った.分析は,選択した表面~15 × 25 μm2の領域を,パルス状Ga+収束イオンビームで走査することにより行った.スパッタレートと4He+の相対感度係数(16O+で規格化)は,既知量の4Heを注入した標準試料(カンラン石)を分析して求めた.
FE-SEM観察の結果,RA-QD02-0307粒子の表面には全体的に宇宙風化構造(ブリスター,溶融物など)が観察された.LIMAS分析の結果,本粒子の表面からHeが検出され,かつて太陽風にさらされていたことが分かった.4Heの深さ方向分布は表面から~30 nmの深さにピークがあった.このピーク位置はTRIMプログラム[9]を用いた太陽風4He+イオンの注入シミュレーションの結果よりも~10 nm深かった.このような深い太陽風He濃度ピークについて以下の二つの可能性が考えられる.(1)太陽風に曝された際に再蒸着層(~10 nm [2])が形成された,または(2)ブリスターの形成に伴って深さ30 nmより浅い部分のHe濃度が固体の保持濃度限界を超過し,部分的に脱ガスした.どちらにせよ,本研究結果はイトカワレゴリス粒子に打ち込まれた太陽風Heの分布が宇宙風化の進行によって変化したことを示す.
ほかの粒子については,LIMAS分析領域内における4Heの不均質分布が認められた.これは個々の粒子の表面に太陽風が均一に照射されていないことを示す.この結果はイトカワレゴリス粒子表面にはブリスターが不均質に存在しているという先行研究の結果[5]と調和的である.
References: [1] Nagao K. et al. (2011) Science 333, 1128–1131. [2] Noguchi T. et al. (2014) Meteoritics & Planet. Sci. 49, 188–214. [3] Daly L. et al. (2021) Nat. Astron. 5, 1275–1285. [4] Pieters C. M. and Noble S. K. (2016) J. Geophys. Res. Planets 121, 1865–1884. [5] Matsumoto T. et al. (2016) Geochim. Cosmochim. Acta 187, 195–217. [6] Ebata S. et al. (2012) Surf. Interface Anal. 44, 635–640. [7] Bajo K. et al. (2015) Geochem. J. 49, 559–566. [8] Matsumoto T. et al. (2018) Icarus 303, 22–33. [9] Ziegler J. F. http://www.srim.org.