日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 太陽系物質進化

2023年5月26日(金) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (1) (オンラインポスター)

コンビーナ:日比谷 由紀(東京大学 先端科学技術研究センター)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、松本 徹(京都大学白眉センター)、橋口 未奈子(名古屋大学)


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[PPS08-P08] CVコンドライト隕石の細粒CAIに含まれる高温凝縮鉱物のAl–Mg年代学

*川崎 教行1山本 大貴2和田 壮平1、Park Changkun3、Kim Hwayoung3坂本 直哉1圦本 尚義1 (1.北海道大学、2.九州大学、3.韓国極地研究所)

キーワード:CAI、Al-Mg、初期太陽系、二次イオン質量分析法

コンドライト隕石中の細粒CAI(Ca-Al-rich inclusion)は,高温凝縮鉱物の集合体である(Krot et al., 2004)。二次イオン質量分析法(SIMS)を用いたAl−Mg鉱物アイソクロンデータにより,CVコンドライト中の個々の細粒CAIの初生26Al/27Al比は,~5.2 × 10–5から~3.4 × 10–5の間で分布することが明らかになった(MacPherson et al., 2010, 2020; Kawasaki et al., 2020)。形成領域において26Al量が均一であったことを仮定すると,この分布は約50万年の形成年代の広がりに相当し,細粒CAIは太陽系最初期の約50万年間形成し続けていたことを示す。
我々の先行研究において,Northwest Africa 8613 reduced CVコンドライト中のヒボナイトに富む細粒CAI,HKD01を構成するヒボナイト,スピネル,メリライトのAl−Mg同位体分析を行った(Kawasaki et al., 2020; Wada et al., 2020)。HKD01のスピネルとメリライトの鉱物アイソクロンは,初生26Al/27Al比 = (4.81 ± 0.09) × 10–5を示したが,ヒボナイトデータを用いた回帰直線は,初生26Al/27Al比 = (4.55 ± 0.05) × 10–5を示した。HKD01の岩石鉱物組織(Wada et al., 2020)と平衡凝縮計算(Yoneda and Grossman, 1995)から,ヒボナイトはスピネル・メリライトよりも先に形成したと考えられる。そのため,両者の形成順序と逆転した初生26Al/27Al比の関係が正しいとすると,HKD01形成領域において26Al量が不均一であったことになる。一方で,Wada et al. (2020)は,SIMS分析におけるヒボナイトの27Al/24Mgの相対感度係数(RSF)が,化学組成により変動することにより,両者の初生26Al/27Al比が逆転した可能性を提唱した。
本研究ではこの問題を解決し,細粒CAIの正確な初生26Al/27Al比を決定するために,異なる化学組成をもつ3つのヒボナイト標準試料を合成した。そしてそれぞれの27Al/24Mg のRSFを測定し,同分析セッションにおいて細粒CAI HKD01に含まれるヒボナイトのAl−Mg同位体の再分析を行い,スピネル・メリライトの鉱物アイソクロンデータとの直接比較を行った。SIMSによる分析条件は,Kawasaki et al. (2019, 2020, 2021)とWada et al. (2020)とほぼ同様である。
3つの合成ヒボナイト標準試料は,それぞれが数マイクロメートル以下の多数の結晶から成り,均一な27Al/24Mg比をもつ。それぞれの27Al/24Mg比は,31.71 ± 0.05 (Hib30と名付ける), 100.71 ± 0.12 (Hib100), 386.8 ± 1.0 (Hib400)である。SIMSで測定した27Al/24MgのRSFは,化学組成により変動することがわかった。Hib100とHib400は,分析誤差0.3–0.6%内で等しいRSFを示したが,Hib30はそれらとは2–3%ほど異なるRSFを示した。つまり,未知ヒボナイト試料の正確なAl−Mg同位体データを得るためには適切な標準試料が必要である。
合成ヒボナイト試料を用いてRSF補正を行い新しく取得した,Al−Mg同位体データより得られたHKD01のヒボナイトの鉱物アイソクロンは,初生26Al/27Al比 = (4.73 ± 0.09) × 10–5を示した(Fig. 1)。この初生比は,同FGIのスピネルとメリライトの鉱物アイソクロンが示す初生26Al/27Al比 = (4.81 ± 0.09) × 10–5 (Kawasaki et al., 2020)と誤差内で一致する。ヒボナイトはスピネル・メリライトよりも先に形成したものであるため(Wada et al. 2020),両者の最大の年代差は2万年と見積もられる。これは,HKD01の構成鉱物が,最初期太陽系において,2万年以内の間に形成していたことを示す。この期間は,細粒CAIの形成期間である約50万年 (Kawasaki et al., 2020)よりもかなり短い。HKD01は,そのような短期間での形成後に,気相との著しい化学反応,および再溶融を受けることなく速やかにCAI形成領域から取り去られ,母天体集積領域にまで運ばれたものであると考えられる。