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[PPS08-P09] 低圧H2-H2O混合ガス中でのSiC蒸発実験: 原始太陽系円盤でのプレソーラーSiC粒子残存可能性
キーワード:プレソーラー粒子、SiC、蒸発速度論、原始太陽系円盤
始原的隕石などに見つかるプレソーラーSiC粒子は、原始太陽系円盤の酸化的環境下では熱力学的に不安定であるため (e.g., Larimer and Bartholomay, 1979)、原始太陽系円盤の熱的プロセスにおける円盤物理化学条件の指標となり得る。Mendybaev et al. (2002) では、1気圧の酸素分圧をコントロールした様々な酸化還元環境化でSiC蒸発実験をおこない、原始太陽系円盤でのプレソーラーSiC粒子の残存可能性を議論している。しかしながら、原始太陽系円盤の低圧環境下では反応ガスのフラックスが全体の反応速度を決定するなど (e.g., Yamamoto et al., 2018, 2021)、1気圧条件で得られた反応速度を円盤環境での反応速度に直接応用できない可能性がある。そのため本研究では、原始太陽系円盤でのプレソーラーSiC粒子の残存可能性を理解するため、原始太陽系円盤を模した低圧H2-H2O混合ガス環境下でのSiCの蒸発実験をおこなった。
蒸発実験の出発物質には、プレソーラーSiC粒子の中で最も主要な多形であるβ (3C)-SiC (マーチソン隕石中でプレソーラー粒子の~80%を占める (Daulton et al., 2003)) のチップ (横縦4 × (4–5) mm, 厚み0.6 mm. 化学気相成長法により合成) を用いた。加熱実験には、新たに構築したガス供給系を備えた真空高温加熱縦型炉を用いて、温度1250–1450°C、 H2-H2O混合ガス圧力0.5, 2.5 Paで4–110.3 hおこなった。ガス供給系では、室温での脱イオン水からの蒸発ガスとガスボンベから供給されるH2ガスとが混合され、脱イオン水の消費量と全ガス流量から推定したH2/H2O比は全圧0.5, 2.5 Paの実験でそれぞれ ~225, 420 (i.e., PH2O of 2.2 × 10–3 and 6.0 × 10–3 Pa) であった。 サンプル質量とサイズの変化は高精度電子天秤及びミクロメーターで推定し、蒸発量の推定をおこなった。いくつかのサンプルに関してFIB切片を作成し (FIB-SEM; Hitachi NX2000)、透過型電子顕微鏡 (STEM-EDS; JEOL JEM-2800) で観察をおこなった。
FactSageを用いた熱力学計算から、実験における温度・圧力・酸化還元条件ではSiO2は安定に存在せず、STEM-EDS分析からも表面付近における酸素原子の過剰は観察されなかったことから、SiCの蒸発はアクティブ酸化 (i.e., SiC (s) + 2H2O (g) = SiO (g) + CO (g) + 2H2 (g)) (e.g., Narushima et al., 1997)) を通して起こる可能性が示唆された。蒸発速度k (cm s–1) はTakigawa et al. (2009)と同様の手法を用いて質量損失と初期サンプルサイズにより推定し、蒸発フラックスJ (g cm–2 s–1) に変換した。Jは1350–1450°Cの高温領域では温度にほとんど依存しない一方、1300°C以下の低温領域では大きく温度に依存した。また高温域において、全圧2.5 Paの場合における蒸発フラックスJが0.5 Paに対して2–3倍大きく、一方低温域においてJ は、ばらつきの範囲内で両圧力条件の結果は一致した。このことは~1300–1350°Cで反応律速段階の変化があることを示しており、このことは1気圧でのH2-H2O混合ガス中での蒸発実験においても観察されている (Kim and Readey, 1989)。高温での温度に依存しない蒸発速度は、SiC表面へのH2O気体フラックスが反応速度を律速している可能性を示し (e.g., Yamamoto et al., 2018, 2021)、気体フラックスは圧力に比例するため、全圧0.5, 2.5 Paの実験におけるJの違いを説明可能である。表面における衝突水分子の反応頻度は0.05–0.1と推定された。低温での温度に依存したJは、Mendybaev et al. (2002) におけるfO2 = IW-3, IW-6におけるJと整合的であった
本研究で得られた蒸発速度に基づくと、プレソーラーSiC粒子は溶融CAI形成をもたらした熱的イベント (~1400°C, PH2O > 0.1 Pa, 2–3日; Yamamoto et al., 2021, 2022) において完全に破壊される可能性がある。また、酸素同位体交換により破壊されるプレソーラーケイ酸塩粒子に対して高温で残存する可能性があるが、プレソーラーコランダムが円盤ガスと酸素同位体交換をする温度領域においてはプレソーラーコランダムより先に破壊される可能性があることがわかった。
蒸発実験の出発物質には、プレソーラーSiC粒子の中で最も主要な多形であるβ (3C)-SiC (マーチソン隕石中でプレソーラー粒子の~80%を占める (Daulton et al., 2003)) のチップ (横縦4 × (4–5) mm, 厚み0.6 mm. 化学気相成長法により合成) を用いた。加熱実験には、新たに構築したガス供給系を備えた真空高温加熱縦型炉を用いて、温度1250–1450°C、 H2-H2O混合ガス圧力0.5, 2.5 Paで4–110.3 hおこなった。ガス供給系では、室温での脱イオン水からの蒸発ガスとガスボンベから供給されるH2ガスとが混合され、脱イオン水の消費量と全ガス流量から推定したH2/H2O比は全圧0.5, 2.5 Paの実験でそれぞれ ~225, 420 (i.e., PH2O of 2.2 × 10–3 and 6.0 × 10–3 Pa) であった。 サンプル質量とサイズの変化は高精度電子天秤及びミクロメーターで推定し、蒸発量の推定をおこなった。いくつかのサンプルに関してFIB切片を作成し (FIB-SEM; Hitachi NX2000)、透過型電子顕微鏡 (STEM-EDS; JEOL JEM-2800) で観察をおこなった。
FactSageを用いた熱力学計算から、実験における温度・圧力・酸化還元条件ではSiO2は安定に存在せず、STEM-EDS分析からも表面付近における酸素原子の過剰は観察されなかったことから、SiCの蒸発はアクティブ酸化 (i.e., SiC (s) + 2H2O (g) = SiO (g) + CO (g) + 2H2 (g)) (e.g., Narushima et al., 1997)) を通して起こる可能性が示唆された。蒸発速度k (cm s–1) はTakigawa et al. (2009)と同様の手法を用いて質量損失と初期サンプルサイズにより推定し、蒸発フラックスJ (g cm–2 s–1) に変換した。Jは1350–1450°Cの高温領域では温度にほとんど依存しない一方、1300°C以下の低温領域では大きく温度に依存した。また高温域において、全圧2.5 Paの場合における蒸発フラックスJが0.5 Paに対して2–3倍大きく、一方低温域においてJ は、ばらつきの範囲内で両圧力条件の結果は一致した。このことは~1300–1350°Cで反応律速段階の変化があることを示しており、このことは1気圧でのH2-H2O混合ガス中での蒸発実験においても観察されている (Kim and Readey, 1989)。高温での温度に依存しない蒸発速度は、SiC表面へのH2O気体フラックスが反応速度を律速している可能性を示し (e.g., Yamamoto et al., 2018, 2021)、気体フラックスは圧力に比例するため、全圧0.5, 2.5 Paの実験におけるJの違いを説明可能である。表面における衝突水分子の反応頻度は0.05–0.1と推定された。低温での温度に依存したJは、Mendybaev et al. (2002) におけるfO2 = IW-3, IW-6におけるJと整合的であった
本研究で得られた蒸発速度に基づくと、プレソーラーSiC粒子は溶融CAI形成をもたらした熱的イベント (~1400°C, PH2O > 0.1 Pa, 2–3日; Yamamoto et al., 2021, 2022) において完全に破壊される可能性がある。また、酸素同位体交換により破壊されるプレソーラーケイ酸塩粒子に対して高温で残存する可能性があるが、プレソーラーコランダムが円盤ガスと酸素同位体交換をする温度領域においてはプレソーラーコランダムより先に破壊される可能性があることがわかった。