日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG45] Science of slow-to-fast earthquakes

2023年5月26日(金) 15:30 〜 17:00 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、山口 飛鳥(東京大学大気海洋研究所)、濱田 洋平(独立行政法人海洋研究開発機構 高知コア研究所)、Yihe Huang(University of Michigan Ann Arbor)、座長:濱田 洋平(独立行政法人海洋研究開発機構 高知コア研究所)、野田 博之(京都大学防災研究所)

16:15 〜 16:30

[SCG45-41] 二面剪断摩擦実験による断層遷移と短いすべり変位量の発現

*谷川 亘1濱田 洋平1廣瀬 丈洋1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構高知コア研究所)

キーワード:地震、スロー地震、摩擦実験

自然界の地震断層は、広域的には主断層とは別の副次的な断層が発達し、また、局所的には断層破砕帯中に複数の剪断面(弱面)が発達している。そのため主たる断層と近接する断層や弱面との相互作用は無視することはできない。しかし、実験室スケールにおける岩石摩擦実験の分野では、物理的・技術的な制約のためこれまで単純化した一面剪断摩擦実験による評価しか実施されてこなかった。そこで、本研究では近接した複数の断層が互いの断層すべりに影響を及ぼす可能性を評価するため、平行な二つの断層に対して同じ剪断応力を同時に載荷する実験を行い、各々の断層のすべり挙動とその関係性を調べた。
実験には、回転式剪断摩擦試験装置を用いた。円柱形に加工したチタン製の模擬岩石(直径25mm)を3つ縦に設置し、模擬岩石と模擬岩石の間に模擬断層物質である粒状物質(約2g)を挟んだ(Figure.1a)。片方の模擬岩石から垂直荷重をかけて、もう片方の模擬岩石を回転させることにより模擬岩石に挟まれた2つの断層物質を同時に剪断した。また、それぞれの模擬断層のすべり変位量(回転量)を測定するために、2つの断層面近傍に2セットのエンコーダーを設置した。垂直応力は4MPa、すべり速度一定制御(0.18 mm/s)、もしくはトルク増加制御(最大剪断応力3.7 MPa)の条件で実験を行った。なお、すべり速度一定制御は二つの断層のすべり量を足し合わせたすべり変位量に対する速度が一定となる制御となる。模擬物質は大分県血の池地獄の温泉沈殿物(主にカオリナイト)、高知県川内ヶ谷層群の砂岩(三畳紀)(主に石英、長石、イライト)、石川県千里浜の海浜砂(主に石英、長石)、および市販の石英砂を用いた。砂岩は1mm以下に粉砕して実験に使用した。2つの断層面に異なる模擬断層物質をはさんだ実験は温泉沈殿物、砂岩、海浜砂を用いて行い、同じ物質を剪断させる実験には石英砂を用いた。
温泉沈殿物と砂岩を同時に剪断させた実験では、剪断応力をかけ始めると同時に両方の断層がすべり出した。また、温泉沈殿物は砂岩に対して、より高速ですべりはじめた。しかし、すべり変位量が2mmを過ぎたあたりから砂岩のすべり速度が加速し、すべりが促進されたのに対して、温泉沈殿物は減速してほとんど滑らなくなった(Figure.1b)。温泉沈殿物と海浜砂を用いた摩擦実験では、剪断応力を載荷すると二つの断層はほぼ同じ速度ですべりが開始した。しかし、途中から海浜砂のすべり速度が増加してすべりが促進されたのに対し、海浜砂は減速してほとんど滑らなくなった。温泉沈殿物と砂岩の二面剪断実験から、断層を構成する物質が異なる複複数の弱面(副次断層)を形成する断層帯では、断層がすべっている途中で別の断層にすべりが遷移し、元々すべっていた断層は非常に短いすべり変位量で静止することが明らかとなった。
一面剪断試験の実験では、温泉沈殿物は砂岩と比較してピーク摩擦は高く、ピークに達するまでの変位量は大きい特徴を示した。一方、海浜砂と温泉沈殿物についてはすべり変位量に対する剪断応力の増加量はほぼ同じ挙動を示したが、海浜砂は温泉沈殿物と比較してピーク摩擦に達するまでのすべり変位量が小さかった。一連の実験から、二面剪断摩擦実験のすべり量-剪断応力の挙動は各断層物質の一面剪断実験の結果を重ね合わせることで説明出来ることがわかった。
本実験結果により、断層帯に複数の断層面が存在し、その断層内部の構成鉱物が異なる場合、それぞれの断層面でのすべり挙動(剪断強度の変動)が異なり、その相互作用によって様々なすべり速度および変位量が現れることがわかった。今後、この相互作用を実験的に紐解くことで、スロー地震とファースト地震の関連性に迫りたい。