日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG45] Science of slow-to-fast earthquakes

2023年5月26日(金) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (16) (オンラインポスター)

コンビーナ:加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、山口 飛鳥(東京大学大気海洋研究所)、濱田 洋平(独立行政法人海洋研究開発機構 高知コア研究所)、Yihe Huang(University of Michigan Ann Arbor)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[SCG45-P30] 偏波特性に基づくS波到達時刻検測法による日本海溝北部における浅部低周波微動の震源決定

*源 孝祐1日野 亮太1松本 一駿1 (1.国立大学法人東北大学)


キーワード:微動、震源決定

目的
スロー地震は巨大地震発生帯の周辺でしばしば観測されており、通常地震と相互作用すると考えられることから巨大地震発生の可能性に関して有益な情報を提供しうる。その相互作用について定量的な議論をするためには震源の決定精度が重要となるが、スロー地震の一種であるテクトニック微動(以下、微動)は信号が小さく波形の立ち上がりも不明瞭であるため、到達時刻を読み取ることが難しい。よって一般的にはエンベロープ相関法によって計測される複数観測点での到達時刻差を用いて震源決定がなされる。
日本海溝北部の浅部プレート境界においては、高橋[2021]が自己浮上式海底地震計(OBS)で得られた波形記録にエンベロープ相関法を適用して、微動の震源決定を行っている。Matsumoto et al. (2022)は、高橋 [2021]が検知したイベントのうち継続時間が20秒以下の通常地震についてPおよびS波の到達時刻を読み取って再震源決定を行い、通常地震と微動の活動は時空間的に近接していることを示した。しかし、震源決定手法の相違点が震源決定結果に及ぼしうる系統的な違いの評価が不十分であり、両者の相互作用の詳細な議論を難しくしている。
南海沈み込み帯において、Hendriyana & Tsuji (2021)は微動イベントのエンベロープ波形の複数観測点間での相似性が崩れる可能性を指摘し、偏波特性を用いた手法により微動信号の立ち上がり部分を同定し、その到達時刻差を用いた震源決定手法を提案した。本解析では、Hendriyana & Tsuji (2021)の手法を高橋 [2021]およびMatsumoto et al. (2022)が解析したのと同じOBS波形記録に適用することにより、偏波特性を用いたS波の到達時刻の検知と到達時刻差を用いた微動の震源決定を試みた。

手法
2007年10月〜2008年6月に日本海溝北部に設置された49台の海底地震計のうち、微動が確認された周辺の12台の地震計の水平2成分の速度波形を用いた。
1秒の時間窓を1サンプルずつスライドさせながら共分散行列S(t)を計算し、最大固有値λを求める。λはS波の到達に伴い増加するため、STA/LTAによりS波の初動の到来を検知する。さらに時間微分の正の部分をとることにより定義された特性関数CF(t)を用いてS波到来に対する感度を高めた。
特性関数CFを20秒の時間窓をハーフオーバーラップさせながら観測点間で正規化相互相関をとり、相互相関関数の閾値が0.85以上となった観測点ペア数が10を超えた場合を微動イベントと定義した。さらにこの条件を満たしたイベントについて相関を最大とするラグタイムを計測し、観測点間のS波の到達時刻とした。

結果
Matsumoto et al. (2022)が震源決定した通常地震について、S波の到達時刻のみで震源を決定するとRMS走時残差は1.6秒以下となったため、上記の方法で決定された微動震源のうちRMS走時残差が1.6秒以上のものは精度の低い検測値を含むものとして除いた。その結果、良い精度で決定された微動震源はプレート境界付近に分布し、高橋[2021]によるエンベロープ相関法の結果と同様な結果となった。

微動は低周波地震(LFE)が連続して発生する現象と考えられるが、エンベロープ相関法ではそうした複数イベントから構成された地震波形で合成されるエンベロープを一つの微動イベントのエンベロープとして解析している。その一方で、本手法では個々のLFEの立ち上がりに感度をもつことが期待されるため、微動イベントを構成する個別のLFEを分離して検知して震源決定できる可能性がある。これまでのところ、1つの微動の中に複数のS波到達を検出することはできているが、精度良く震源を決定するには至っていない。複数観測点で検知された到達時刻を適切に同一のイベントに対応させるイベント・アソシエーションに問題があるのかもしれない。